42 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
42、籠。
しおりを挟むユージアは「こっちだ」と言うと、レイとエルネストを連れて、先程フィアやユージアの出てきたドアへと向かって歩き出す。この先にユージアのいたという『籠』があるんだろうか?
フィアとすれ違い、ユージアがトアのノブに手をかけようとした時に、機械的な焦点の合わないぼんやりとした呟きが聞こえてきた。
「でもね、嫌なの。やっぱり、嫌。そのゴミは今、ここで処分して?雛が私以外を見てるなんて、嫌」
「……今はご対応致しかねます。武器を持ち合わせておりません」
ユージアがくるりと振り向くと返事をする。
そう言えばだけど、ゴミって私のことだよね……ユージアやセグシュ兄様の事で頭がいっぱいだったわ。
すると、フィアのぽつぽつと呟く口調に憎悪感がにじみだす。
「そう。なら……あなたも要らないわ。お父様の仰った通り壊れてしまってるのね?すぐに動けないなんて。私、この雛だけで我慢するわ。あなたを捨てたら、セグシュ様を貰えるのですって。だから、あなたの首を頂戴……」
瞳を潤ませて、心ここに在らずの様な視線で、顔も完全に上気し、呼吸も荒い。
何かに陶酔しきった様な状態でふらふらと、フィアは隠し持っていた護身用のナイフをユージアに向かって構えて口角を上げて笑う。
ユージアは私の身体をローブで包む様に構え、レイとエルネストの前に立つ。
「まだ動けてるから、ちょっと勿体無いけど。セグシュ様もそろそろ貰ってあげないといけないの」
「にいしゃまもゆーじあも、あなたのモノなんかじゃないっ!」
「……うるさいっ!」
フィアの声に反応するかの様に、軽く振られた短剣から氷柱と見紛う氷の矢が数本放たれる。
しかし、ユージアに触れる直前に、いつの間に張られたのか、障壁に阻まれて霧散していく。
その様子に気づくとフィアの勝ち誇った笑顔が固まり、一瞬、軽く目を見開くと、幼な子の地団駄を踏むかの様にヒステリックに叫び始め……短剣を振り回し始める。
短剣の振りに合わせ、無数の氷の矢が降り注ぎ、そのいくつかは防ぎきれなかったのか、私を抱えるユージアに着弾の衝撃が伝わってくる。
「要らない!要らない!要らないのよっ!」
「っ!痛いなぁ……流石に属性が違うと少し貫通しちゃうね……」
「ゆーじあっ!」
「ちょっと痛いけど、セシリアがいてくれるから大丈夫、と言いたいところだけど…さ、ねぇ?!なんで僕だけ障壁張ってくれないの?」
ユージアは少し涙目になりながら、くるりと振り向いてレイに言う。
レイも頑張ってたんだね。
「魔力足んない。セシリアと僕とエルの分で限界なの。そのローブで防げてるし。頑張って」
何故かちょっと不機嫌そうな、つまらなそうな表情だったのが、私を見てにこりと笑顔を浮かべ「頑張れ」と言わんばかりに手を振る。
……そのローブも、無数に降り注いでくる氷の矢に、ところどころ切れたり穴が空き始めてるんだけどね。
ユージアは私を抱えたまま、器用に氷の矢を避けてなんとか反撃の隙を伺おうとしているのがわかるのだけど、フィアがただただ、短剣を感情のままにがむしゃらに振り回している状態なのが尚更に動きが読みにくい、と言った感じでなかなか近づけない。
「ゆーじあ、しょうへき、しゅるよ」
「出来るの!?一応、高等魔法だからね?」
「わかんないけど、がんばる」
(障壁……確か魔力だけで構成するとものすごく燃費が悪いから、属性を付けることによって強度の補完をするんだよね?氷だと……あ!火かな?でも貫通したら嫌だし、氷の矢が一瞬で溶けるくらいの高温の炎がいいね!)
前前世は研究施設にいる以上、実験やら検証で当たり前の様に常に使ってたから、魔力の加減さえ間違わなければ出来るはず!
ユージアの小脇に抱えられたまま、両手を前に広げる。
……ちゃんと大事な人たちを守るんだ!
『あっつい、かーべ!』
……また、やってしまった。
文字通り、壁を作った。
2m四方のマグマの塊の様な高温のブロック塀のイメージで、貫通が怖かったから、文字通りの、壁ができた。
まぁ、壁を吹き飛ばした前回よりはマシだよね!壁、ちゃんと立ってるし!
なんて考えてる間にも、壁が出現してむしろ狙いが定めやすくなったのか、追撃の様に大量の降り注いできた氷の矢。
でも、これなら怖く無いもんね!と思った瞬間、壁に氷の矢が着弾した。
「へっ?それ障へ…き?──うわっ」
瞬間、どん!という重低音のきいた轟音とともに真っ白な高温の風に煽られて、私を抱えたユージアごと、後方に吹き飛ばされた。
しっかりと抱えていてくれたユージアのおかげで私の気絶は免れ、というか、凄く反射神経が……身のこなしが良いよこの子!
普通なら吹き飛ばされた後は受け身を取って転がる程度のことしかできないと思うんだけど、くるりと猫みたいに身体を捻って、優雅に着地とかしちゃってたよ!?
自分が起こした状況にびっくりしていると、頭上から呆れた様子のユージアの声が聞こえてくる。
「……セシリアの障壁はすごいね~。なんか爆発したんだけど?ローブの障壁がなかったら僕ら、火傷じゃ済まなかった気がするんだけど?」
「ごめんなしゃい…」
頑張ったのになぁ…。
頑張りすぎたらしい。
ていうかあれだよね、魔法を知ってても試し打ちすらしたことないんだから、一発で全て完璧とか無理な話だよねっ!
自分で作り出したにも関わらず、目の前に広がる惨事に唖然とする私の表情に気づいたのか、小脇に抱えていた私を「たかいたかい」するように持ち上げて、対面するように抱き直すと、満足そうに顔を綻ばせる。
「ここは謝るところじゃないよ~?まぁちょっとだけ……派手にやらかしちゃったけど、攻撃止んだし、結果としては上出来なんじゃないかな?」
「がんばった?」
「うん!偉い偉い!」
今までの暗い表情はなんだったのかと思うくらいに、霧が晴れるように明るいユージアの声とともに、ぎゅうっと抱きしめられる。
「……上出来、ではないよね。この壁どうすんの?すぐに消える気はしないんだけど」
少し不機嫌そうな声とともに、蒸気の霧を強風で吹き飛ばしながら、レイとエルネストが現れる。
私の作った高温の壁は所々で青い火を噴き出しながら周囲に陽炎の如く熱気を放っている。
「まぁ石造りだし、火事にはならないでしょう~?暖房くらいに思っておけば良いんじゃないかな!」
「すげーなぁ…今のは火の魔法だろ?セシリアは火と相性が良いのな!」
レイの後ろからひょこりとエルネストが顔を出し、目を白黒させながら、しかし期待も混ぜこんだキラキラの瞳で見つめてくる。
「おーい!すごい音がしたけど、そっちは大丈夫かー?」
背後のドアが少し開き、ユージアのローブと似ているが少し色合いがはっきりとした物を纏った男性が顔を覗かせる。
私たちの背後にある炎の壁を見て一瞬ギョッとするがすぐに表情を戻し、そのさらに奥に壁にもたれかかりぐったりと座り込み、視線も定まらないままにぶつぶつと呟き続けるフィアに気づく。
「──全ては聖女の物なのに!……聖女である私の物なのに!」
「あ、ユージア君!やっと追いついた……っと、フィア司祭?あなたは、聖女じゃないでしょ?──司祭なんだから聖女なわけ無いじゃないですか……お前みたいなのが聖女であってたまるかよ」
後半に至るに連れてボソリと呟くように発せられた声は、先程私たちにかけられた安否確認の声とは打って変わり、暗く低く……怒りを無理やり抑え込んでいるかの様に少し震えていた。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる