私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

文字の大きさ
44 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

44、雛。

しおりを挟む




「ゆーじあっ!!」

「あぁ、またセシリアが泣いてる……君は泣き虫さんだねぇ。僕は大丈夫だから」


そう言うと苦痛に顔を歪めつつ、笑顔を作ろうとする。
相当我慢してたのかなと思うと次から次へと涙が止まらなくなってしまった。


「ごめん…なしゃ、い。でも、さっきのはダメ、だから」

「うん……ありがとうね。でもね、あんまりセシリアを泣かせちゃうと、僕がゼンに怒られちゃう。それに…僕、頑張ったでしょ?」


「けが、がまんしゅるほど、がんばらなくていいの。つらいのダメ、ムリしないでね」

「うん、ありがとう……そんなに辛そうだった?」


こくりと頷き返すと、やっぱり我慢の限界だったのか、ユージアは痛みに引き攣った顔でため息を吐く。
……一目瞭然だったよ?助けた後は、ずっと笑ってたじゃない。
別れた途端にどうしてあんな表情になっちゃったの?
少しだけ思い出してしまって、また涙が滲み始める。


「ゆーじあ、なおすからおなかみせて?」

「うん…ねぇセシリア、ひとつお願いがあるんだけど。先にあの奥の部屋にいる子達を助けてくれないかな?……僕はまだ大丈夫だから」


「子達」……私達のように攫われてきた子なのだろうか?
助けるって、大きな怪我をしているんだろうか?
理解が追いつかなくて、どういうことなのかを聞き返そうとしていると、レイとエルネストがこちらへ向かって近づいてくるのが目に入った。


「フィアに『雛』と呼ばれてた子が…あと3人、ここにくる前の部屋で倒れてたから」


倒れてるって一体どういうことだろう。
何かを、少し言いにくそうに、言葉を選ぶようにユージアが話しだす。


「君らが来る直前まで、かなり御無体されてたみたいで……ね」

(御無体ってなにさ…)


きっとあの扉の先が「籠」と呼ばれていた場所なのだろうけど、一体何の部屋なのか、私には全く想像がつかなくなってしまった。
そもそも、ユージアだってその「籠」の中にずっといたのだから……とユージアを見て考えて……嫌な予感に辿り着いてしまう。

「雛」と呼ばれたレイもエルネストも、そしてユージアも一般的な美醜で言うなら、無意識に目で追ってしまうような美しさがある、一般的には美少年にカテゴライズされると思う。
ただね、ユージアだってそろそろ成長期かな?といった年齢に見えるし、レイもエルネストに至っては10代にすら達していない。

そう思うと、とにかく嫌な予感、そしてユージアが言いにくそうに、伝える言葉を選んでいたことも前提に色々と邪推してしまいそうになった。

レイの背後から、心配そうに覗き込むエルネストに気づいたユージアが小さく手招きをしている。


「先に大聖女様たちも到着してるし、伝えておいたから、大丈夫だとは思うんだけど……助けてあげて」

「わかった」

「僕も行く!」


レイは同行しようと走り出したけど、エルネストはユージアについていることにしたようだった。
どうも『籠』と呼ばれていた部屋の臭いが駄目らしい。
フィアからも臭ってたらしいんだけど……臭いの元っぽいんだよね。


「おい、ポーション貰ってきたから、ひとまず止血するぞ」


駆け出す私と入れ違いに、魔術師団の団員さんがユージアの応急処置をしようと来てくれたのが見えた。

ドアを開けて入る。
室内は薄暗く強い香のようなものが利いた、とても蒸れた部屋だった。


「やっぱり、臭いな…」


レイが鼻に手を当てて顔を顰めている。
これが、エルネストの嫌がっていた『臭い』だろうね。

さっきまでいた部屋と違って、こっちは石造りの部屋にしては随分気密性の高い構造になってるみたいだった。
だって、こっちの部屋は……入った途端に沢山の大人の叫び声が聞こえているから。
それにこの臭い、私でもわかるすごい臭さを完全に閉じ込めることができてたという事だよね。

魔術師団の団員さんが私たちに気づいたのだってきっと、ユージアを追いかけていたという理由と、火の壁の爆発の衝撃があったからだと思うんだよね。


……部屋には柔らかい布が大量に、そして乱雑に重ねられて、所々に散乱している。
部分部分には天蓋としてだろうか、軽く薄めのシフォンのような布が吊るされていて、間仕切りも兼ねていたのか、本来であればドアから部屋の全てを覗くことができない配置となっているのだろう。
今は、強くうねるように吹く風に翻弄されてバタバタと激しい音を立てている。

素材としては全て高級品のように見受けられるが、淫靡で酷く自堕落な……それこそフィアの態度や視線に感じていた『ねっとりとした』あの気味の悪さを、そのまま形容をしたような部屋になっていた。

部屋の中央に1つだけ、ベッドの側に置くようなサイドテーブルがあって、その上には水浸しになった香箱のようなものが見えた。


(えーと、この部屋ってさ、3歳児ようじが見ちゃだめなやつだよね。ていうかレイにも見せたくない。年齢制限をつけとかないといけない部屋だと思うよ…)

「セシー!あぁ、来ちゃダメだ!」


部屋の構造や雰囲気に合う唖然とし、ドアの前で立ちすくむ私に気づき、部屋に父様の声が響き渡る。
父様は部屋の少し奥に立ち、杖を片手に持ちもう片方の手を挙げ風を操っているのだろう、切れ長の意志の強そうな翠の双眸が、ずっと天井を凝視し続けている。


(うん、わかる。幼い娘にこんな部屋は見せたくない。絶対に。でも、非常時だから)

「……おいっ!返事しろ!息をするんだ!」


そう思ってる間にも、怒声のような強い大きな声で、意識の確認が行われている。
この部屋には先ほどの黒と赤のローブの団員ではなく、白と黒を基調にしたローブの人間が多くいた。
母様の大聖女のローブと似ているから、多分この人たちが治療院の人間なのだろうね。

彼らの人だかりの隙間から青白い足が見えた。
周囲には無数の血痕も見える。

邪魔にならないようにそっと近づこうとすると、後ろへ引っ張られるような感覚があり、いつの間にかにレイに強く手を引かれていた。
振り向くと、いつもの優しげな顔を強張らせ、哀しそうに伏せ、小さく首を横に振っている。

……ぞくりと背筋に冷たいものが走る。


(ここは小さな子供に見せちゃ駄目なんだから、レイだって駄目じゃないか。精神的なダメージが大きくなる前に、早く隔離しなきゃ…!)

「れい、こわいね、ごめん。ゆーじあのとこにいて?」

「セシリアも、戻ろう」


さらにぐっと手を引かれる。
そのままドアの外まで引きずっていかれそうになって、必死に抵抗する。


「れい、だめ。れいも、えるも、ああなってたかもしれないんだよ?はなして」

「……助からないかもしれないよ?」


「そうならないように、がんばるの。あのこたちも、だれかのだいじ、なんだよ。まもるの」

「……わかった。じゃあ僕はこの臭いのをなんとかするから、何かあったらすぐに呼ぶんだよ」


そういうと、レイは父様に向かって走り出していった。

うん、と返事をしつつ私も周囲を見渡し歩き出す。

遠目に首にみんなお揃いの金色のチョーカーをつけた、半裸の状態の…というか布一枚を腰に巻き付けただけの、ほぼ全裸みたいな男の子が3人見えた。
2人は治療院の人たちから治癒の手ヒールを受け続けている。
もう1人はさらに重症なのか、母様が必死に治療中のようだったが、その誰もぴくりとも動く気配がない。

ただ、父様が換気のために起こしているのであろう、部屋の中央に向かうほど強く吹き上げる風に、彼らの髪だけが翻弄されていた。


(フィアはどんな性癖してるんだか……というか、ユージアも「御無体」とか言ってたし、本当に何をしてたの?考えるだけでゾッとするんですけど!)


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...