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はじまりはじまり。小さな冒険?
49、母様の里帰り。
しおりを挟む「ほら、着いたわよ……ってよく寝てるわね」
「魔力切れもあるとは思うのですが……かなり眠りが深いですね」
(いや、2人とも聞こえてるからね?ただちょっと、今の状況がすごく気持ちよくて、起きたくない)
私の安定の寝付きの良さにはもう、諦めることにしたんだ。
今回もさ、母様とユージアと一緒に王城へ帰ろうって事になって、一先ず馬車まで歩いて移動、のところを「目を離すとすぐトラブルに巻き込まれるからダメ」とユージアにお姫様抱っこのまま移動してる間に、ほっとしたのもあってか、寝てしまった。
もう、熟睡の勢いで。
(抱っこって、温かくて心地いいんだもん)
無意識に、私の顔の近くにあったユージアの腕にすりすりしながら、寝やすい姿勢になるように動く。
「ふふっ随分懐かれちゃってるのね」
ちなみに今は、ユージアの膝の上に抱えられたまま、王城内のさらに奥にある王宮へ向かう馬車の中である。
王城内には王宮の他にもいくつも離宮と言われる小さな……と言っても、そこらの貴族のお屋敷より大きいのがいくつも建ってるんだ。
その中には、退位した先代の王、つまり私の祖父母が暮らしていたり、守護龍が使っている龍の離宮と言われているものもある。
現在、ガレット公爵家はその離宮たちの一つを間借りしているらしい。
「ユージア君、あなたはもう、うちの子だから。ユージアって呼ばせてね。それと……あなたの身元を引き受けるに当たって、本当は出自がわからない者の雇用は、公爵家では怒られてしまうのだけど、でもユージアにはセシリアとの直接の正式な契約があるから、公爵家ではなくてセシリアに雇用された従者という身分になるわ」
「はい……」
私の従者。
専属という事だと、セリカに次いで2人目になるのかな?
でも私との契約で雇用したっていう形なのはユージアが最初のはず。
雇用契約じゃなくて2年間の期限付きの奴隷契約なんだけどね。
「それと手配が済み次第、執事としてのお勉強を受けに行ってほしいの。従者という立場だけではできることが少なすぎるから、セシリアを守るためにも、あの子の執事になって欲しいの。お願いできるかしら?」
「では、その間のセシリア、嬢の…護衛は?」
「セシリア、で良いわよ。今までそう呼んでたのでしょう?そのままにしてあげてね。で、当面の護衛は騎士団が1ヶ月ほどは警備強化をしていてくれるわ。それにゼンも一緒だと思うから」
やっぱりそのまま一緒にというわけにはいかないんだなぁと、ちょっと寂しくなる。
家柄やら格やら身分やら、そういうのを考えて動かないといけない貴族の話は、難しい。
貴族からしたら当たり前のことかもしれないけどさ、平民だったけど同じ世界に生きてた前前世の感覚からしたら、私との奴隷契約が正式なもので、それが身分の証明にできるならそれだけでいいじゃない?と思っちゃうんだよなぁ。
まぁここ数日の出来事が濃すぎて、人恋しくなってるだけかもしれないけどね。
一先ず、ユージアの事もだけど、セグシュ兄様とゼンに会わなくちゃ!とか色々考えているうちに、二度寝に突入してしまった。
馬車の揺れを程良く緩衝してくれるユージアの膝の上で、姿勢も後ろ抱きで固定されているから、母様との会話とユージアの心音を子守唄に、熟睡をしてしまった。
******
いつもの街並みが火の手に飲まれ崩れ落ちていく。
騎士団や城下街の衛兵たちが防衛に回っていてもなお、街を飲み込む。
尽きることなく有象無象、種々雑多な魔物が押し寄せてくる。
(ここにいてはダメ。こわい。怖い。早く出なければ……!)
目の前に現れた醜悪な形状をした周囲の建物ほどある大きな魔物の腕には、子供の服のようなものが引っかかっている。
(あぁ、駄目だ、これは夢だ。──前前世の記憶だ、おきろ、オキロ、起きろ!)
魔物の腕にある棘のようなものに、偶然引っかかったんだろう。まだ魔物には気づかれておらず、時折、腕の動作とともに振り回されてはいるが、何とか逃げ出そうと動いているのが目に入る。
……まだ生きてる。助けなきゃ!そう思って杖を構え……
ばちん!
頰に鋭い痛さを感じて急激に覚醒する。
「う……うわああああああああん!」
「ほらほら、大丈夫、大丈夫~。もう、怖くないから。ほら、怖くないでしょ~?」
振り回されるような浮遊感と人肌の温もりと、背中をさすられてる感覚とで、自分が眠りから覚めたのだと気づいた。
でも、ただただ悲しくて怖くて、震えが止まらなくて、そのまま泣き続けてしまった。
「……おい、大丈夫かい?セシリアは見てるから、傷の手当と人呼んできて~」
「は……はい!」
ユージアと専属メイドのセリカの声が聞こえた。
あぁ、ガレット公爵家に帰ってきたんだな。と思ったけど、やっぱりまだ怖さが抜けなくて、涙も震えも止まらなかった。
「やっぱ、怖かったよね……ごめんね。もう大丈夫だから、ここにいるから、怖くないよ~」
「派手な……夜泣きだね。ていうか、移動早いな。ユージア。さっきまで王宮の奥にいなかったか?」
ゼンの声が聞こえた。
あぁ、無事だったんだ。
確か、レイも王宮にいるんだろうなぁ。
守護龍のアナステシアスと一緒に反省会するって帰っていったらしいし。
背をさすられる感覚が心地よくて、徐々に落ち着いてくると、ユージアからふわりと石鹸の香りがすることに気づいた。
「あぁ早い理由はコレ。僕は護衛契約してるから、魔法紋に呼ばれたんだよ。相当怖い夢見てたんじゃないかなぁ?そういや、反省会お疲れさま?」
「ひどい目にあった…」
私の視界はまだ、溢れる涙で歪んでいて周囲を見ることはできないけど、ユージアの声は少しおどけているような揶揄っているような風合いに感じた。
反省会ってことは、レイと一緒だったのかなぁ。
「あはは…流石になぁ~。王族騙っちゃったらなぁ」
「それはともかく、これどうすんの?」
「さぁ?」
「そろそろ晩餐だから、起しにきたとこなんだけどね、僕は」
これ、と2人が何かを見上げていた。私は相変わらず泣き続けていて、確認することはできなかったけど……わかったのは、部屋が灯りがないと暗いということ。
教会から出たときは夕方近かったはずで、その後しっかり寝てしまったようだ。
今は夜、晩御飯くらいの時間なのかなぁと、泣きすぎて酸欠気味の頭でぼーっと考える。
「どうしようね?セシリア。まだ当分泣いてそうだけど?」
うん、私も泣き止めそうにない。
心と身体のギャップというかなんというか、思考としてはもう、落ち着いてるんだけどね。
3歳児としては、どうしても涙が止まらない。
今回のことは、幼児の身体にはかなりの負荷がかかったのかもしれない。
「……僕もセシリア抱っこしたい」
「だーめ。セシリアが抜け毛まみれになっちゃう」
「抜けっ……!抜けないっ!」
「ダメだよ~。さっきまで号泣してたんだから、毛に埋もれて窒息しちゃうからねっ!悔しかったら人化してごらん~あははは」
ユージアが私の背中をぽんぽんしながら、ゼンとじゃれあい始める。
やっぱり仲良いなぁ……なんて考えてると、廊下からパタパタと人が走ってくる音が耳に入ってきた。
「あらあらあら……またこれは……。随分見晴らしのいいお部屋になっちゃったわねぇ」
「その前にだ、ゼンは廊下に出る!ユージアは着替えてこい!セシリアはセリカ!湯浴み!」
「はいっ」
母様と父様、それとセリカの声がした。父様の声は、なんかちょっと怒ってた。
「……ほら、もう大丈夫だよ」
耳元でユージアの優しく囁く声が聞こえて、そのまま私はセリカへ渡される。
私をずっと抱っこしていたユージアは、エメラルドの髪を湿らせ、上半身裸(!)で、緩めの七分丈くらいのクロップドパンツ姿だった。
そりゃ、絵面が悪いね。
上半身裸は完全にアウトだし、下も部屋着か下着の類だ。父様も怒るか……。
ちなみに私は、ぼろぼろになった黒いローブに包まれて抱かれていた。
どうして気づかなかったんだろう……。
「僕も湯の途中だったんだ!戻りますっ」
「あっこら!ドアから行けー!」
はっと我に返ったように、高く高く飛び上がると、そのまま闇に紛れるようにその姿が見えなくなった。
私は、人では到底無理な高さまで、ジャンプで軽く飛び上がるのを目にしてビックリしてたわけなのだけど……だって、天井高めの建物の、天井に空いた穴を抜けて、屋根の上に着地しちゃうんだよ?
と思ったけど、父様の怒りのポイントは「ドアから出て行かなかった」という事。
あれ?こういう人結構いるのかしら?
セリカに抱かれて運ばれながら、父様と母様の会話に耳を傾ける。
「あらあらあら…急に我が家が賑やかになりましたね。ふふふっ」
「笑い話じゃないぞ…?俺、そろそろ心労で倒れるかも」
「あら、たまには良いんじゃないかしら?しっかり休暇を取って、2人でお出かけでもしましょうよ」
軽く頭を抱えている父様とは対照的に、楽しそうに、溢れるような笑顔で話す母様。
「これでさらに仕事が忙しくなったわけだけどね…」
「手がかかる子ほど可愛いって言うじゃありませんか。セシリアちゃんが笑顔でいられるなら、私は満足よ?」
これで、と見上げた先。さっきユージアが飛び出して行った天井の穴。
そういえば、あの穴はなんだろう?
何かあったのかな?
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