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はじまりはじまり。小さな冒険?
48、帰ろう。
しおりを挟む「ゆーじあも、ここにいたの?」
「……うん。ずっとね……僕だけ、耐性が高いのか死ななかったけど」
声は囁くように小さくなったのにもかかわらず近くなった事で、俯いているのだろうことがわかった。
今まで何があったのかなんて簡単に想像できるものではないし「辛かったよね」の一言で済むことでも絶対にないけど……こういう辛いことって、それでも、少しずつでも口に出して話してしまったほうが、良いのだと、スッキリするのだと確か、習った記憶がある。
「たしゅかって、よかった……ゆーじあ、いっぱい、がんばったね……」
「僕だけ……死ななくて。僕だけ……助かってしまってっ……!」
ぽたりと頭に雫が降ってくる。
泣いてるんだろうか?辛いよね…。
『隷属の首輪』に意識を支配された状態でも、その間の記憶はしっかり覚えているようだし「助けなかった自分を責める」という後悔はよくあるけど、ユージアの場合は「その場にいた」という記憶はあっても、自らの行動は制限されていたから……ただ、何も出来ずに失われていく命を眺めるような状態だったのかもしれない。
視界では、母様と治療院の人たちが懸命に2人の治療に当たっていた。
腕がたまに動いたり、何か会話しているようなそぶりが見えるので、状態はかなり良くなってきてるような気がする。
「後から来た子達も……!僕だけっ……」
「それでも、ゆーじあがぶじでよかったのよ」
一度感情が爆発してしまったら制御がきかないのか、頭上からとめどなく涙の雫が降り注ぐ。
ぎゅうっと抱きしめられていて、私からでは表情を伺い知ることは出来ないけれど、今はいっぱい泣いてしまったほうがいい。
「みんな、どんどんいなくなっ…て、いれ、かわっ…て…ぅ……」
「ねぇ、ゆーじあが、たしゅかったから、わたしもあのこたちも、たしゅかったのよ?」
「でもっ……!」
「ゆーじあはわるくないの。いっぱいがんばったから、いまがあるのよ」
言葉を続けることができなくなってしまったのか、声を殺すようにして泣いている。
……今すぐには無理でもいつか、その辛さを昇華させて行けますように。
「わたしには、ゆーじあがいてくれて、よかった……って、そういえば!」
「……へっ?」
ふと思い立ったように声を上げると、びっくりしたのか私を抱きしめていた腕が緩められた。
その隙をついて、くるりと向きを変えて座り直し、顔を見上げると……やっぱり泣いてた。
顔を真っ赤にして、目まで腫らして。
あどけなさの残る美少年が台無しですよ!
今は私の突飛な行動に、金色の瞳から未だ止まらない涙をぽろぽろとこぼしつつ、きょとんとしていたので、おもむろにユージアの脇腹付近に手を当てて、魔力を込めて呟く。
……今回は、母様と使った麻痺の解除の効果も入れて。
状態異常となると、本格的に光の魔法の領分となってしまう。
前前世の私はあんまり得意ではなかったんだ。
攻撃魔法のように、魔法の効果そのものが目視できないから……ちゃんと出来てるかどうかがはっきりわからないんだよ。
それが怖いところでね、何か違う所に毒として作用するかもしれないと思うと、どうしても二の足を踏んでしまっていたんだ。
……それでも癒したいと思ったから。
平気な顔をしていても、毒がきかなかったと思っていても、身体の中で蓄積している何かはあると思うから、辛い気持ちも一緒に癒せることを願って、呟いた。
『いたいの、いたいの、とんでけー!』
私の呪文を聞いて、泣き笑いのようにふっと笑いかけ……。
「飛んでけって、飛んで……きたっ…う…ぐぉ……」
「ぎゃー!くるしい!くるしいよっ!」
直後に治療の痛みがこみ上げてきたのか、全身に力が入り、縮こまりながらそのまま横倒しに転がる。
つまり抱き締められてた私も、力一杯抱き締められて……。
「……癒しの手、大聖女様に教えてもらってきたんじゃないの……?なんでセシリアのは激痛なの~……痛いよぉ~」
「きゃー」
「こらっ!逃げちゃダメ~!──至近距離で良い威力の攻撃魔法を打たれるくらい痛いんだからね?」
先ほどの絞り出すような声とは違って、脱力した泣き出しそうな声で苦情が来た。
……実際、泣いてるし。
そんなに痛いかなぁ…母様が癒す時は、みんなこういう反応しないのになぁ。
「……ていうか、痛いの痛いの飛んでけは、こんなに痛くなりません!」
ユージアの身体の痛みが落ち着いたのか、私を抱きしめる腕の力が緩んできたので、必死に抜け出そうとしていると、説教とともに転がったままで再度しっかり抱きしめ直されてしまった。
「……ふふっ。ユージア君の治療は……大丈夫そうね?2人とも、一緒に帰りましょう?」
なんとか抜け出そうとジタバタしていると、いつの間にやら側まできていた母様に、一部始終を見られていたのか、思わずこぼれてしまった笑みとともに声をかけられる。
気づいて周囲を見渡してみれば、治療を受けていた子達も安定したのか、すでに治療院へと搬送された後で、今、室内にいるのは治療院の人達より騎士団と魔術師団が増えてきていた。
「ぼ、私は…」
「あら『僕』でいいわよ。今ね、私の里帰り中なの。だからお城に帰ることになるんだけど、セシリアも王城のお泊まりは初めてなのよ。だからユージア君も一緒に来てくれると、セシリアも寂しくなくていいかなって思うの。行きましょう」
「きっと楽しいわよ」とにこりと笑うと、すたすたと歩き出していってしまう。
一仕事終えた母様が私に近づいてこないのは……一見冷たそうな印象かもしれないけど、違うからね。
家にいる時は何かあればすぐに「セシリアちゃん可愛いわぁ」と親バカ丸出しでたくさん抱きしめてくれる。
でもね、今は仕事後だから。
しっかり身を清めてからではないと、って決めてるんだ。
家族へ病気を持ち込まないためのルールだね。
今は私もだけど血みどろだし。
母様に至っては直接に治療を頑張ってたから、ね。
「じゃあ、お言葉に甘えて行こうか……って、あれ?おおっ?んんんっ?」
私を抱えたまま、立ち上がると、ぴょこぴょこ飛び跳ねたり、しゃがんだりしてみてる。
挙げ句の果てには私を「たかいたかい」するように持ち上げて……真上に放り投げた。
「ぎゃあ!」
「うん、キャッチ♡あれ~?なんかすごく身体が軽いんだよねぇ。なんだこれ?」
お姫様抱っこの要領で、軽々と受け止められた。
また投げられまいと必死にユージアの首にしがみつくと、耳元で優しい笑い声が聞こえた。
「セシリア、助けてくれて、本当にありがとう」
抱き上げる力が一瞬強くなって、顔を見上げると、その瞳に涙を湛えてはいたが、今までに見たことのない、屈託のなく晴れやかな笑顔があった。
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