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はじまりはじまり。小さな冒険?
57、再会。
しおりを挟む「セシリア…セシリア……ん?…そうか!君がユージアの新しい飼い主なんだね!うちの子をよろしくたのむよ」
さらりとこぼれ落ちる黒の艶髪の奥で、ふわりと口角を上げて笑みを浮かべている……が、目が笑っていない。
観察をするように、じーっと見つめられている。
……う、うちの子ですと?!ていうか、飼い主ってなんだ!
そうかぁ、ルークは結婚してたんだなぁ。
奥さん、どんな方なんだろう?
ユージアは奥さん似なのかな?ルークはキレイ系だったけど、ユージアは可愛い系?
なんだろう、将来有望な美形にはなるだろうけど少なくともルークとは系統が違う気がする。
一気に入り込んできた情報と、浮かんでは消える様々な昔の記憶との処理に目を丸くして固まってしまっていたのだろう、背後から呆れた声で、父様の声が聞こえてくる。
「セシリア、彼はスルーズヴァン辺境伯のハンスイェルク。魔術師団の研究部門の団長だよ。そして……ユージアの父親らしい…名乗り出てきたんだ」
「なるほど…ユージアの飼い主はアルフレド宰相の末娘で、花で…そうか……ふふふ。そうかそうか、王家の血もついに極まれけりと言ったところか…これは…」
「セシリア、行こう」
ユージアの抑揚のない声が聞こえて……機嫌が悪い、いや、汚いものでも見るかのような目でルーク見ると私の手を引き、抱き上げるとその場を離れるために歩き出す。
まぁ確かにルークの素行は怪し過ぎるけど、自分の父親を変質者か何かを見るような目で思いっきり警戒するのは、やめたほうがいいと思うんだ。
「セシリア嬢、花の香は一時的に抑えたが…すでに香の虜になってるものには、この…まやかしは効果が無い。気をつけるんだよ」
あいかわらずの呟き会話だったけど、去り際に言われた花と香。何の事だろうね?
そして、ユージアが絶賛ご機嫌斜めである。
ゼンに至っては、会場に入った直後に、部屋の隅に敷かれた柔らかそうな絨毯の上を陣取って、丸くなって寝てしまった。
「ゆーじあ、おこらないの。わらって?」
「笑えない~!再会を喜ぶどころか、いきなり襲いかかってくるのが親とか、しかも契約解除しろとか、絶対イヤだから!」
契約?私との奴隷契約のことだったら、もうユージアが悪い子じゃないのはわかってるし、警戒すべき事ももう無いだろうから、むしろ喜んで解除するよ?
ルークがいきなり襲いかかるってのは……うーん、何考えてたんだろう?
ひとまずだ、私の側にいてくれる人たちの機嫌が悪いってのは、すごく居心地が悪いのですよ。
「おけが、なおしゅ?」
「あ~してないっ!全然してないからね!?ていうか…そういうのじゃなかったから……うん、痛いところはないよ、大丈夫!」
即座にびくり!と体を身構えるように固くして、必死に否定をしてくる。
私の治療はそんなに嫌、というか痛いのかな……優しくしてるはずなのに。
「どういうの?」
「う~ん、あ~、そうだね…いきなり服奪われたりとか?……まぁ、とにかくあの変態には近づいちゃダメだよ」
ルークは研究バカだったけど、変態じゃなかったはず……何があったんだろうか…。
ユージアの微妙に言葉に詰まりながらの説明の様子が余計に気になって、うんうん唸ってる間に晩餐の席に到着してしまった。
席は大きな楕円のテーブルにそれぞれネームプレートが置かれているのが見えて、その通りに着席する事になる。
ユージアの席は案の定ではあるが、ルークの隣に準備されていた。
それに気づいたユージアは、凄い勢いで私の隣にネームプレートを置き直し、会場準備中のスタッフにプレート以外にすでに準備されていたカトラリー等の移動をしてもらっていた。
その作業を眺めつつも、常にルークが近づいてこないように警戒し続け……その整った端正な顔の眉間に不機嫌なシワを作っていた。
それはもう、父様と同じく眉間がしわしわになりそうな勢いで。
「ほら、わらって~」
「い~た~い~!今は笑わないよ!」
ユージアの両頬を摘み上げて、無理矢理笑顔を作る。
私を抱き上げたままなので、片手しか反撃に使えないのをいい事に、手を頰から外されても、しつこく摘み直…していたら、片手だけで両手を抑えられてしまった。くやしい。
「わらってよ~!こわいかお、いや~」
「じゃあ『私の物だから、契約も解かないし、返しません!』ってあの変態に言ったら、笑ってあげる」
おい、それどこのフィアですかっ!絶対に嫌だからね?
そもそも契約で縛り付けてるってのも嫌なんだから。
奴隷契約は、用途上必要な場合があって、使うこともあるんだろうけどさ、今の私やユージアの状況では全く必要ないはずだし!
そもそも、契約の維持に必死になっているユージアの考えがわからない。
「ゆーじあは、ものじゃないよ。ひろってあげるって、いっちゃったけど、ものじゃないよ」
「セシリア、今、気にするべきはそこじゃないよ!契約を解いたら、僕は側に居られなくなっちゃうんだよ。セシリアを助けに行けなくなっちゃうんだよ」
側に……いられなくなっちゃうってのは嫌だな。
でも、思ったんだけど、辺境伯の子息って事になるのなら母様の言ってた「書類上の出自の分からない人間」では無くなるのだから、やっぱり奴隷契約解除してもいいと思うんだよね?
奴隷よりずっとまともな身分証明ができたのだし、それ以外はそのまま……あ、側にいれなくなっちゃうってのは実はユージアが跡取りとかそういう関係なんだろうか?
「あれ、今日はレイはいないんだな」
再びうんうん唸りそうになっていると、背後から声をかけられる。振り向くとそこには、藤色の髪の少年がいた。
登城するにあたって、がっつり磨き上げられ、広がりっぱなしにされていた髪もサイドに流され、奴隷運搬用の荷馬車内にいた時とは全く違う印象でカッコいい。
ただ、用意されたかっちりとしたスーツといい、部屋の雰囲気といい、どうしても慣れないのか、とても居心地悪そうにしていた。
「える!」
両手を封じられてしまったので、脚をばたばたさせてユージアのお姫様抱っこから降ろしてもらい、エルネストの元へ近づく。
あれ、抱っこ移動が基本になってきて、ここのところまともに歩いてないぞ?
「セシリア、昼ぶり?ユージアさん、ありがとうございました。無事会えました」
「ユージアでいいよ~僕もエルって呼ばせてもらうし!」
深くお辞儀をするエルネストに対し、人懐こそうな笑顔で返すユージア。
あの時、奴隷運搬用の荷馬車で一緒に運ばれ、私たちより先に商館のようなところで降ろされて行った4人の子たちとエルは再会できたのだそうで。
私達より小さな子が多かったから、エルはすごく心配していたんだ。
教会についた時も、何とか抜け出して助けにいけないかとずっと考えてたみたいだったし。
そう言えば、教会でユージアとエルが内緒話してたのはこの事だったのかな?
どうやら既に先回りしていた内偵が、子供達が引き渡された直後に確保に向かったようだった。
ただ、そこの商館はあくまでも私達の行った教会のような目的ではなく、慈善事業の一環だった事がわかった。
孤児院から毎年数人の幼児を引き取って、読み書き全般を教え、そのまま商館の人材として、採用する。
希望すればそのまま独り立ちや、自分の好きな職につけるようにも斡旋していたとかで、孤児院自体が教会の影響下にあったために教会を通じて、幼児を紹介してもらっていただけのことであり、まさか人買いを介していたとは思ってもいなかったとの事、らしい。
そのために交わした書類もしっかり残っていて、確かに教会と孤児院相手に交わした事になっていた。
……実際のところは、少しは事情を知ってたんじゃないかとは思うけどね。
ただ、引き取った子供達は少なくとも過去5年以内の子の書類は全て揃っており、そのどの子供達も、それぞれの事情はありつつも、しっかりと教育を受け、それぞれの生活を手に入れていることがわかり、あくまで慈善事業である事、子に害のある団体ではない事が証明されたそうだ。
「あいつらは、そのままあの商館に引き取られる事になったんだ。だから、いつでも会える」
「えるは……?」
「──あら、皆さん揃ったようね。では始めましょうね」
エルに関してはどうなったのだろう?
聞こうと声をかけた直後に、母様の柔らかで良く通る声が、館内に響き渡る。
声の方向へ振り向くと、館の奥の扉からぞろぞろと人が入ってくるのが見えた。
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