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はじまりはじまり。小さな冒険?
135、いざ。
しおりを挟むカイルザークはルークの言葉に擬似窓の明かりを見て、颯爽と執務室を後にした。
当時の自分の部屋があるからね。
寮まで走っていったんだと思われる。
「私は、顔洗ってくる……ルーク、あなた……荷物がかなり増えてるんだけど、これ、持っていけるの?」
「……研究室の資材置き場から、いくつか失敬してきた。なんとかする」
ルークの背後に荷物の山が見えた。
少なくとも旅行カバン2つでは済まない量で……まぁ、旅行カバンなんてこの世界に存在しないから、どうやって持ち出すんですかね?
大きめの登山リュックが欲しい感じ。
それでも2つ分かなぁ……背中は1つしかないけどね。
「あ、ユージアとカイの衣類をいくつか貰っていかないと!顔洗ったら、ついでに貰ってくるから、後よろしくね」
「……ごゆっくり」
私も大浴場へ向かう。
顔を洗うとは言ったものの、寝汗が酷くてね、できれば汗を流してさっぱりしてから出発したい。
温泉も入り納めだしね。
今回は大浴場の入り口で、貴重品ロッカーに持ち出して来たカイルザークに贈った、魔石付きのリボンタイとメモ帳を入れる。
女湯には、魔道具の持ち込み禁止だからね。
ついでにこのロッカー、浴場の中のカゴと同じでクリーニング機能が付いている。
まぁ簡単なものなんだけど、ちょっとした汚れならすぐに綺麗にしてもらえる、便利機能付き。
(……これで汚れが綺麗に落ちればいいんだけど。魔物の返り血程度なら綺麗に落とせてたし、多分いけるはず)
って、顔洗うのとシャワーでは使う時間が違うからね、猛ダッシュで服を脱いで、シャワールームへと向かった。
(帰りに温泉に飛び込むぞっ!)
そう意気込んだ通りに、シャワーを浴びるとバスタオルを身体に巻いたまま、温泉の湯船に飛び込んだ。
バスタオル越しだから、温泉のお湯がじんわりと伝わって来て、これはこれで気持ちが良い。
入り口付近にある時計に目をやって『クリーニングがあと5分くらいで完了だし、その頃に出よう』とか考えていると、
「あれー、これは……凄いな」
って、子供の声が聞こえるんですけどね。
まさかのお風呂ドッキリですかね?!
どう見ても、今度はカイルザーク。
きょろきょろと何か楽しそうにしてるのが見えるわけですが、やっぱり女湯って気になるんですかね?
入り口からでは、ユージアの時と同じで湯気で私の姿が見えないみたいなので、このままこっそり観察し続けるのも…まぁ面白そうだけど、カイは気付いてないみたいだし、私の方こそ覗き犯になりかねないので、一応声をかける。
「カイ~。ようこそ女湯へ」
びくっと文字通り小さく飛び上がると、硬直している姿が見えた。可愛い。
本当にびっくりしたらしい。
目をまん丸にして、周囲を必死にきょろきょろしている様子が見える。
「あ……ごめん、いると思わなくて…」
「別に良いよ。昨日、同じことをユージアもやらかしてたし」
あはははと思わず笑っちゃうんだけどね。
まぁ、痴漢としてユージアが捕まってたって事は言わないでおこうかな。
湯船から出ると、カイルザークへと近づいていく。
湯の音で気づいたのか、今度はしっかり私の方を見ていた。
「え…いや、あの姿だと男湯に行くでしょ?」
「魔力切れ起こして縮んでたから、女湯に来てたよ」
「縮むって…やっぱりあの子も小さいんだ?大人なのか子供なのか、両方の匂いしてたんだよね」
私の姿を認めると、じりじりと入り口へ向かってバックし始めるカイルザークが見えたので、捕獲しつつ会話を続けた。
狼狽からか、照れからか、顔がりんごのように赤くなっていて可愛らしい。
「うん。カイと同じくらいかな?……あ、身体洗うの手伝うよ?もう、時間無いし」
「じゃあ……背中、お願いしても良い?」
「1000年分の垢落としですよ。頑張る」
ぴくりとカイの動きが止まった。
そんなことはお構いなしに私はフェイスタオルで石鹸を泡立てて、背を洗い始める。
……ユージアみたいな大量の垢は出てこなかったけどね。
カイルザークは浄化魔法を普通に使えるから、お風呂は気分での利用だったんだろうし。
「は?1000年?!」
「うん。カイは1000年と少しくらいかな?寝てたんだよ」
「長寿…ね、なるほどね」
ユージアの言ってた長寿の意味に思い当たったんだろうね。
本当に申し訳ない。
ここにカイがいるって知ってたら、すぐにでも起こしたかったよ。
それをフレアに任せたまま、フレアに任せた事すらすっかりわすれてたとか、本当に申し訳なさすぎる。
……後でしっかり謝りたい。
「起こすの遅くなっちゃってごめんね」
「ううん、子供からやり直すにしても、セシリアと一緒なら楽しめそうだから、良いよ」
にこっと笑いながら鏡ごしに私と目があって、ぱっと目を逸らされる。
その反応に、なんだなんだ?と思ってるうちに、顔が真っ赤に……って、そうだった。
私、タオル巻いてるだけだもんね。
恥ずかしかったか。可愛いね。
「さて、終わったよ~。私は先に出るけど、カイも温まったら早めに出てくるんだよ?」
「うん、ありがとう」
返事と共に癖なのか、私を見てくれるのだけど、ぱっと目をそらして顔を赤くする。
律儀というかなんというか……可愛すぎるね。
お風呂から出て、颯爽と着替えると、念入りに髪を乾かす。
髪と格闘している間にカイルザークも出たのか、私が女湯前の貴重品ロッカーにいく頃には、私以外の気配を感じることはなくなっていた。
ちなみにロッカーの中身、カイルザークのアクセサリーとメモ帳は狙い通りに綺麗に洗い上がっていました。
まぁ、さすがに破けてしまっているリボンは、元に戻ってはいなかったけれども。
(リボンタイは新しく探そう。主役はリボンタイにつけてある……装飾で魔道具だからね)
しかし、なんでカイルザークを守ってくれなかったんだろう?
故障なのかなと、じーっと見つめていると気づいた。
発動状態になっていない。つまり電源オフになっている状態。
なんてこった。
壊れている以前の問題だった。
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