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はじまりはじまり。小さな冒険?
149、覚醒。
しおりを挟む座席的に、前方に大人達が集まってしまったので、父様と母様とルークの3人での情報交換の場となっていた。
ちなみに馬車の移動早々に寝てしまったユージアは、いつの間にやら母様に抱えられていた。
ユージアって、寝てしまうと3歳児に戻ってしまうんだよね。
魔力の調整が難しいって言ってたもんね、寝ながらも10代の姿を維持できるほどの無意識の使用はまだ出来ないっぽい。
そして母様、やっぱり可愛いもの好き……。
(ユージア……起きたら恥ずかしさで発狂するんじゃないかな?)
……身体が縮んでしまったので、案の定ではあるけど、ズボンやジャケットは畳まれて座席に置かれていた。
ユージアはぶかぶかになってしまったドレスシャツを着た状態で、その上からローブに包まれるようにして母様に抱えられていた。
そんな状況の変化にすら気づけないほどに、熟睡である。
後部の中央、私達が座る席では、エルネストがこくりこくりと船を漕ぎ出したのを見ると、さっと引き寄せて、膝枕の状態にしてあげた。
体格的に、こうやってあげるとエルネストの座席と私の膝のスペースだけで、しっかりと横になれるんだよね。小さいって素敵。
カイルザークも最初は馬車からの景色を楽しげに眺めていたのだけど、徐々に飽きてきたのか、エルネストとは反対側から寄りかかってきて、うとうとし始めていた。
(馬車が大型なだけあって、速くは進めないから、揺れも優しいんだよね……私も眠くなってきたし)
それにしても、前回もこうやって馬車で王都へと向かったわけだけど、犯罪奴隷運搬用の荷台とは差異が凄かった。
あの時はちょっとした振動でも、車内では子供達が飛び跳ねる勢いの衝撃だったもんねぇ。
今回の馬車は、程よく眠くなる。
程よく暖かい春の陽射しの昼過ぎ、そろそろお昼寝タイムなのもあって、眠くてうとうととしてしまう。
そんな中で大人達が集まっている、前方の座席では、ルークが今回の魔導学園へ飛ばされた後のあらましを、かなり荒くかいつまんで説明をしていた。
王家のマジックアイテムの不手際によって、セシリアが死の森の中心部に近い位置にあった建物へ飛ばされてしまった事。
ただし、運の良いことに、その場所はモンスター等の出入りのない安全な場所であったという事。
セシリアが飛ばされた理由は、シシリー…という話は思いっきり伏せてくれてあった。
理由は、セシリアが珍しい属性持ちであったため、とされていた。
大きく違うのは、移動中にカイルザークと合流した事になっていた。
(まぁ流石に説明のしようもないもんなぁ……)
カイルザークも、話の内容が気になるのか、必死に目をパチパチとさせながら睡魔と戦っていた。
……もう、ほとんど目蓋は落ちきってるんだけどね。
子供の眠りに入る瞬間って、本当に可愛いんだよね。
寝ないぞ!って頑張ってるのに、すうっと一気に睡魔に負けちゃう瞬間が可愛すぎる。
「──ちなみにだが……カイルザークは魔力持ちであると同時に、上位種としての覚醒もしている」
完全に寝かせてしまおうかと手を伸ばしかけた瞬間、大人達の話題が変わり、カイルザークの目がパチリと覚めてしまった。残念。
「覚醒……って何?どういうことだ?」
「文字通り、カイルザークは覚醒をしていた。私はそれを目撃した」
父様の焦る声と、ルークの静かで抑揚のない声。
覚醒……何だろうね?
焦っちゃうような何かなのかな?
その前に、カイルザークはいつ『覚醒』したのか?
『覚醒』したタイミングってのを考えると、私が見ていなかったのなら、あの日の事なんだろうと思う。
(あの日、シシリーが死んだ、そして魔物の氾濫があった日)
シシリーが死んだ後に起こった事なのだと思う。
どういう事、瀕死になっていたカイルザークに何が起こったのか?詳しく知りたくて思わずカイルザークを見つめると、かるく首を横に振った。教えてはもらえないらしい。
「暴走しただけだよ」
「……まぁ、覚醒の条件から見るに、しない方が幸せだがな」
「助けてもらえなかったら多分、死んでたし」
いつか教えてもらえると良いな……。
そう思いつつも、新たに出てきた単語『覚醒』が気になってしょうがない。
シシリーは知らなかったのか?という所では、全く知らない。
(自分の研究分野に関しては、きっととんでもない知識があったのだろうけど、ほら、基本的に外に出るような生活をしなかったからね?)
礼儀作法もそれなり、他種族に関しての知識もそれなり……一般常識程度しかなかった、と記憶してる。
してたけど、それすら、かなりの情報不足だったと指摘されたばっかりだしなぁ……。
「父様、覚醒って何?」
「しないのが一番だよ、うん」
聞かれたくなさそうに、私を見上げて首を小さく振るカイルザーク。
嫌なのかな……。
座席の隙間からこちらを心配するように覗く、父様の視線にも気づいたけど、どうにも気になる。
しかしそうか、上位種だけが使えるスキルがあれば、上位種である証明になるよね。
エルフにもあるのかな?エルフとハイ・エルフなんて、外見の違いはほぼ無さそうだし。
「セシー……覚醒というのはね、種の上位格のみが使える特殊な技の取得だと思ったらほぼ間違い無いかな。基本的に、一般の種族には使えないものだから。ただ、上位格でも気軽に覚えて使えるって言うものでもなくてね……ただ覚醒すると、通常での能力が格段に底上げされるそうだよ…だから覚醒って言われてるんだ」
そう言いかけて父様は、はて?と首を傾げている。
「ん?そういえば狼の上位種で覚醒した、というと……守護は…?」
「しないよ。出来ないもん」
「あぁ、守護をして欲しいわけじゃないんだ。カイルザーク、キミは『誰のために』覚醒したんだい?」
誰のため?誰かを対象にして発揮する技なのだろうか?
シシリーの死後に起きた事だろうから、何があったのかはわからないけれど……。
あの時点で、瀕死の重傷を負っていたカイルザークの身に、さらに辛い事が起こっていないようにと、願うしかない。
充分に頑張ってくれていたのだから、それ以上に酷い現実なんて要らない。
「……セシリア」
ポツリと、カイルザークの声が聞こえると、父様のそれはそれは深い、ため息が聞こえた……。
ごめんなさい、の前に初耳なのですが。
しかもシシリーじゃなくてセシリアですか?
それとも、父様母様に説明のためにセシリアって言っただけなんだろうか?
「そうか……苦労かけたみたいだね、ごめん。本当に、ごめんね」
「僕では、守れなかったけど」
きょとんとしてると、父様が前方の座席から身を乗り出すようにして、謝りはじめる。
そしてぐったりと脱力したように、私へ向き直る。
「セシー……頼むから、あまり人を巻き込まないで……そろそろ父さん倒れちゃう」
「えっ…?!私が悪いの?!」
「そうじゃないんだよ。獣人の中でも犬や狼系の『覚醒』っていうのはね、自分の群れである大切な家族を守るために、命をかけて、するものなんだよ……それをこんなに幼い子に…死を覚悟させなきゃいけないような無理をさせてしまったって事なんだから、反省しなさい」
「……ごめんなさい」
確かに、命をかけた状況だったね。
瀕死だったし。
それでもどうしても守りたかった、そう思って私はカイルザークに回復の魔法をかけた。
なんとか命を繋げられるように。
それと同時に、側にいた、魔物から助けた小さな子供を生かすために。
シシリーは力不足から、命を失ってしまったけれど、命を代償に守れたものはあったのだと思った。
そう……満足していた部分があったのだけど、シシリーの死後もカイルザークは頑張ってくれてたんだね。
「カイ、ごめんね。そして、ありがとうね」
結局、酷い現実だった。
私の死なんて、自分で、自分の目的のために選ばざるを得なかったのだからしょうがないにしても、カイはただそこに居合わせただけなのに、命をかけねばいけない状況にまで付き合わせてしまっていた。
本当に、申し訳ない。
じわりと視界が歪み始める。
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