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はじまりはじまり。小さな冒険?
152、報告。
しおりを挟む詳細が綺麗にまとめあげられ、被害者のリストと、拘束された教会関係者のリスト、そして疑惑と関係性が疑われている者達のリストと……それぞれが添付されてあった。
──別紙ではあるが、中心人物と行動を共にしていた子供達の出自、彼女と合流するまでの状況までもが捜査済みだった。
セシリアには話していなかったが……エルネスト君の出自も捜査にて把握済みだ。
死に別れだと聞かされていた彼の両親は、エルネスト君が孤児院から消息を絶つまでは『生きて』いた。
……カイルザークの時もそうだった。
彼らが里を離れる直前までは『生きて』いた。
里に危険が迫ると、自然と上位格の因子を持った子が生まれる……そういう種族は多々ある。
きっと、彼らの種族もそうだったのだろうと思われる。
ただ、里の者達はエルネスト君やカイルザークが上位格の因子持ちとは知らず、彼らのような子が産まれた後に、必ず起きる危険のみを子孫に伝えていった結果、厄災を招く存在と認知され、冷遇される環境を作り上げてしまったのだろう。
(セシリアは怒っていたが、今更な話だ。エルネスト君の両親も彼を取り巻いていた環境も既に存在しない。説明された通りに、病死している)
……いずれはエルネスト君本人へ説明しなければならない話題ではあるが、先ほどの精神状態から見るに、今はまだ早い。
そう考えつつ、書類をチェックしていく。
最初は令嬢の誘拐事件……よくある話だった。
現に、宰相と大聖女の娘達は末娘以外にも教会に誘拐されたことがあった。
ただし教会の狙いである光の属性を彼女達は持ち合わせておらず、早々に解放され帰宅することができている。
今回は前回と比べ双方に負傷者を出すほどの過激な誘拐ではあったが、もし、末娘が光の属性持ちであったとしても、襲撃者は捕らえることができていたのでその証言を元に、末娘の解放を強く求めることができる……はずだった。
それがあれよあれよと国の主要人物達を右往左往させるほどの、大騒動にまで発展させてしまった宰相の末娘。
大物を巻き込んだおかげで、うまく立ち回って逃げ果せようとする者達すら、芋づる式に捕まえることができている。
(まぁ、以前から内偵を放ち目をつけていた者達ばかりだし、膿を片っ端から全て潰す事ができると思えば、文句は無いが……セシリアへの逆恨みが心配される)
書類にサインをし、脇に置くと順にスッと消える。
その様子を不思議そうに宰相と大聖女が会話をしつつ眺めている。
今のは報告書だ。
精霊が関係各所へ届けてくれる。
手元から書類が全て消え、作業がひと段落したころで顔を上げると、馬車の窓からはすでに月が見え始めており、街道を走っていた為に森しか見えていなかった背景はいつのまにやら街の明かりを映し出していた。
「そうだ、楽しみといえば……セシリア嬢がお土産をいろいろ準備していた。帰宅次第そちらへ届けさせる……ふふっ」
「ハンス、それはキミが選んだ物なのかい?……いや、誰が選んでも、とんでもない物が……」
愛娘からのお土産と聞いて、父親である赤髪の宰相は、またもや頭を抱えるようにしてぶつぶつと何やら考え込んでしまった。
対称的に母親である大聖女は、瞳をきらきらとさせて、とても嬉しそうにしている。
「用途の説明こそしたが、セシリア嬢自らが嬉々として選んでいたものだが?……まぁ、諦めろ」
「あらあら…楽しみだわ!」
報告書の内容から察するに、今回の騒動は末娘の初めての外出がきっかけで起こったことであり、セシリアにとっては外での出来事は全て『初めての体験』となった。
幼児期は他者とのコミュニケーションはもちろんの事だが、トラブルに直面した場合の対応の仕方……そういうものを周囲の人間を見たり教えられたりをしながら、ゆっくりと覚えるべき事を、誰にも教わる機会もないままに、実践へと放り出されてしまった状態だった。
父親である宰相の心配はもっともではある。
何か失敗をしてしまった時は、親としての責任、というものも出てくるだろう。
あぁ、私が巻き込まれた分の責務を負ってもらうとしよう。
そう考え至り、自然と笑みが浮かび、顔を上げると、こちらを見つめている宰相と目が合った。
途端にあからさまに『イヤな予感』という色が宰相の顔に浮かんできている。
「セシリア嬢が……お返しが欲しいと言っていたな」
「まぁ…セシリアが欲しがるなんて、珍しいわね」
「そうなのか?」
「えぇ、とても聞き分けの良い子で…そういえばそうね?何も欲しがられた事がないわ」
「では、ぜひ応えてやるといい」
いつまでも新婚のように仲の良い、この夫婦へのお土産の内容を知った後の反応がとても楽しみになり、思わず笑みが込み上げるが……私が笑うたびに宰相の顔は青くなる。
面白い男だ。
「測定会や晩餐会にも出たからな……他の子のドレスやアクセサリーのデザインで気になったものでもあったのだろうか?」
「お友達を呼んでのお茶会のお願いかしら?あの子、あまりはっきり言えない子みたいだから…」
「ふっ……両方ハズレだな」
一般的な娘の願いそうな内容がすらすらと出てくる。
……この環境であれば、セシリアは辛い思いをしなくても済むだろうか?
短命な種であればこそ、幼少期くらいは幸せであって欲しいと願わずにはいられない。
今度こそ、幸せだと思える家庭環境であるように。
「何かしら……ちゃんと言ってもらえるのかしら」
「魔法の勉強も……楽しみにしていたな」
それもハズレだ、と軽く首を振ると、先ほどまでの大はしゃぎはどこへ行ってしまったのか、大聖女が真剣な顔で考え込み始めてしまったので、白状することにした。
「ふっ……弟か妹が欲しいと言っていたという事だけ、伝えておこうかな」
「まぁ……」
「なっ…!」
幼い子供が無邪気によく口にする言葉だが、この新婚のように見える仲良し夫婦には効果覿面だったようだ。
互いを見つめ合うと瞬時に顔を赤らめ、双方共に視線を逸らしもじもじと静かになる。
子供達の心地よい寝息のみが聞こえる、良い静寂だ。
あまりにも初々しい反応に思わず笑みが浮かんだところで、顔を真っ赤にしたままの宰相ががばりと、勢いよく顔を上げると、私の肩をつかんできた。
「ハンス……飛ばされた先で、どんな会話があったのか…詳しく!聞かせて欲しいんだが!」
「子供達の会話が偶然耳に入っただけだ……苦情は『お土産を催促した宰相』に言うんだな」
……嘘はついていない。
宰相へ贈られるお土産に関しては、至極実用的なものであったと記憶しているし、受け取った後に驚くであろうものは、大聖女が受け取るものだから……お土産を大聖女が使わなければ『なぜ、そんな会話が出たのか』という理由も露見もしないだろう。
それぞれに渡されるお土産が、末娘の手作りの品だということ、これは敢えて説明はしないが、知ったら彼女の両親はどんな顔をするのだろうか?気になるところではあった。
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