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はじまりはじまり。小さな冒険?
160、視力。
しおりを挟む『この度はユージア様の救命、解放していただき、まことにありがとうございました。お陰様で私も消滅せずに済みました』
「消滅って……」
そんなに酷い状況だったのね!
……まぁ、あの時はユージアを助けるのに必死で、それどころじゃなかったし、終盤はそのユージアに吹っ飛ばされて意識がなかったので、わからなかったんだけど。
びっくりしていると、水の乙女は軽く頷くと、ふわりと微笑みながら話を続けていく。
『私も、ユージア様を守るために力を使い果たしていましたので、あの時救命していただけなければ、私もそのまま消えてしまっていたでしょう。本当にありがとうございました』
「そんなに大変な状態だったのに、ユージアを助けるお手伝いをしてくれてたんだね……私の方こそ、ありがとう。もう、動けるの?大丈夫?」
『はい、おかげさまで。なので、こうしてご挨拶とお礼に』
あの時、必死だったってのもあるけど、正直、前世の記憶が今よりももっと曖昧で……しかも今も使い慣れてないけど魔法も触ったことがない状態。
ゼンと水の乙女のサポートがなかったら、きっとどうすることもできなかったに違いない。
「あなたは、ユージアの精霊なの?」
「違うよ。僕にも契約してる精霊がいたら、エルフっぽいんだろうけどねぇ~」
ユージアは戯けるように軽い笑みを浮かべながら、首を軽く振った。
エルフっぽいって言ってるくらいだから、エルフに対しての偏見ではあるのだけれど、エルフとしての成長段階をすっ飛ばしてしまったユージアには、欲しくてたまらないんだろうなと思う。
……だって目が笑ってないよ?
『確かに、違います……が、いずれは』
水の乙女はユージアの言葉を肯定するように、頷きながら返事を。
そしてぽつりと小さく続けた言葉に、ユージアが首を傾げる。
「ん……?どういう事?」
「ん~、さっさと契約できるレベルに育てって事」
呆れからか少しジト目になっているカイルザークが、ユージアに水の乙女がいわんとしている事を教える。
正解だったのか水の乙女は嬉しそうな笑みを浮かべると肯いた。
『今は誰にも仕えておりません』
「あ、はい……精進します。水の乙女もよろしくね」
「これだけ格の高い精霊に好かれるのって、エルフでも凄い事なんだよ?愛想尽かされる前に頑張るんだね」
「……水の乙女はそのつもりで、長い間…常にユージアの側にいたのだが…ユージアが気付いてなかった、というのが正解かな」
カイルザークとルークの呆れてる感が酷かった。
……でも、ユージアを助けるとき、私も姿を見つけることができなかったんだよなぁ。
そう考えると、ルナフレアとの契約ってシシリーからの引き継ぎって事になっちゃってるのかしら?
そうだとしたら、シシリーの時以上に制御不可になっちゃったりしない……?
「見えなかったもんなぁ……あ!今は見えるようになったって事?!」
『本当に、見えますか?』
ユージアの嬉しそうな声に、ふわりと…悪戯っぽく水の乙女が笑った気がした直後、周囲をひんやりとした空気が顔を撫でると妙な違和感に襲われ始める。
急激に水の乙女の気配が消えていった。
そこにそのまま存在し続けているのに、いないような、そこに『いる』とわかっているのに、それを水の乙女と認識しにくい、なんとも言えない感覚に襲われる。
「……見えません。ぐぐぐ…」
直後に、降参!と白旗を上げるように両手をあげるユージア。
全く見えなくなってしまったらしい……。
「あら?見えるわよ?」
「私も、見えるよ」
母様には見えるようで、でも気配がないという違和感に妙な表情になっている。
私にも見えてる、けど気配がないのが何かすごく気持ちが悪くて、なんとも言えない。
「見えるね」
「僕も……見えるんだけど」
カイルザークも普通に見えているっぽい。
エルネストは見えていること自体が不思議な感じで、水の乙女を凝視している。
「僕は、なんとなく気配がある気がする」
「……私も気配程度だな」
父様とセグシュ兄様は姿を見失ってしまったらしく、キョロキョロしているが、それでも水の乙女がいるあたりをなんとなく見ている。
『……では、少し認識を上げましょう……これは、見えますか?』
水の乙女は愉しげに微笑みを浮かべると、口元へ当てた手を前へ差し出し、ふうっと息を吹きかける。
すると手から、小さな水のウサギが何匹もぴょこぴょこと飛び出し、部屋を跳ね回る。
あまりの可愛さに、触ろうとすると、群れを成して一斉に中央に集まりはじめる。
最後の1匹が、勢いよく群れに飛び込むと、その全てが弾け、飛沫の中から数匹の立派な牡鹿が飛び出してくる……。
牡鹿が正餐室を大きく疾走し、きらきらと雪の結晶を散らして行く。
「うっすらとだが姿が……これは…っ!見事だ」
「そうねぇ」
父様と母様は、目を見開きそのまま茫然とするように、夢現の光景にうっとりと見惚れている。
父様は不思議な光景は見えるけど、水の乙女の姿は薄っすらとしか見えていないみたいで、セグシュ兄様も同じ状況なのか、周囲の景色に目を見張りながら、こくりと頷いている。
『失礼』とフレアが淡く笑みを浮かべると、部屋に控えていたスタッフ達の肩を軽く叩いて行く。
すると、みんな同じ様に茫然となり、動きが止まってしまった。
『折角だから、楽しまないとね?』
「フレア、ありがとう」
『ううん、人間ってこんなのが面白いんだね?これくらいなら僕にも出来そう』
「そうね、悪戯よりずっと喜ぶし、誉められると思うよ?」
にこにこと嬉しそうに笑うフレアの場合は、水の乙女の作り出した幻想的な景色よりも周囲の人間の反応が面白いみたいで、その表情の変化を興味深げに見て回っている。
人間の、とにかくいつもと違う反応が見たい!と言った感じだ。
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