173 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
173、違い。
しおりを挟む獣人って、生まれた時から私たちよりずっと体力あるみたいだし、ちょっとした遊びもびっくりするくらい身体を使うものなのかな?
脳内のイメージとしては、子犬たちが戯れあってる感じなのだけど。
って、あ、カイルザークたちは狼か!
「冗談だけど。体格がいきなりここまで変わっちゃうと、感覚が追いついていないみたいな感じがあるのは本当」
「あ、しょれはあるね。いきなりおとなになって、ドアとかぶつかりまくったよ」
無意識にドアを開けようとする手の高さが、そもそも違うから……いつもは背伸びをしてドアノブを指の先に引っ掛けてなんとか開けていたのが、腰の高さ……簡単に開けられる位置にある。
でも、いつもの癖でね、全力背伸びをしながら手を伸ばして、ドアに激突する。
無意識にやってることだから、それでいつもならドアが開くはずの動作だし、まさか開かないとは思ってもいないから、受け身も何もあったものじゃないからね。
予想外にドアに突撃すると本当に、痛い。
「うん、蹴りとかになると、アタリを考えて動くのに、届くはずの場所に脚がない……どころか、フォローに手を出そうにもリーチが足りなさすぎるし、そもそも身長も違うから、いろいろ悲惨……」
「……そのわりにはしっかり、げんきにはしってたよね?」
「あの程度ならね?でもあれで魔物に遭遇して戦闘になってたら、戦力という意味では全く動けなかったと思う」
「そういうもんなんだ?」
そういうものですよ。と、カイルザークが軽く頷いた。
カイルザークの場合は、体格の急激な変化で今までの武器も使えなくなってしまったからなぁ。
格好良かったのに、残念。
……その点で言うと、そもそも私は最初から戦力外確定だけどね!
あの場に居たのがセシリアではなくて、生前のシシリーであったとしても、移動スピードの時点で役立たずだったから。
むしろ足引っ張り担当ですね。
(魔物の氾濫に遭遇してしまったあの時、シシリーに戦闘技能が少しでもあったなら、また違った今になっていたのかな?)
でも、変わらないかなぁ……。
国が滅ぶほどだものね。私一人が変わったくらいじゃ、何も変わらないよね。
今さら過去に浸ってもしょうがないのだけど、魔導学園は、私にとってとても大切な…大切な世界の全てだった。
突然失ってしまって悔やむことがないように、今世では戦闘もしっかり勉強しよう。
……っと、ライブラリへと向かっていたことを思い出して、ぽてぽてと廊下を進み始める。
カイルザークは一瞬首を傾げつつも、そのままついてくる。
「……エルはすばしっこいから、ウォーミングアップも兼ねてジャレついてる。……あの子、良い子だね」
「うん、すごくいいこ!いいおにいちゃんでしょう?」
「誘拐の時に知り合ったんだってね…エルを、助けてくれてありがとうね」
「……?カイのほうが、エルのおにいちゃんみたいなくちぶりね」
思わず笑みが浮かぶ。
うーん、さっきの恐怖からの反動か、やたらと笑ってしまう。
あ、でも中身の年齢で言えば、エルネストのお兄ちゃんっていう位置でも間違いではないのか。
今はカイルザークの方が年下だし……あれ?どっちを基準に考えるべきなんだろうか?
あれあれあれ?と悩みそうになったところで、背後をついてきているカイルザークからため息が聞こえた。
「…あー…うーん、まぁ良いか。言いたいこと…全くもって伝わってないね?」
「ん?」
「シシリーの時からだし……まぁ、素なんだろうねぇ」
「え、なに?」
振り向くと、なぜか『いいこいいこ』と頭を撫でられた。なぜ?
伝わっていない。これを言われるとすごく耳が痛いんですけど!
なんか少し前にも言われてたよね!?っていうか、言ってたよね?
カイルザークはまた呆れたように深くため息を吐くと、真面目な顔になって話を始める。
「……セシリアは獣人が差別されてるってのは知ってる?」
「うん」
「それは…『知識や常識的な情報』として知ってるだけだよね。差別をされる瞬間を見たことないでしょ?」
「あるはずだよ?カイがしたうちされてたでしょ?」
小さい時から、カイルザークは特例というわけではなかったのだけれど、少し早めの時期に……入学前から魔導学園の寮で暮らし始めていた。
魔導学園内では、貴族とか家柄的な身分差からの差別を禁止していたが、どうしても固定概念を覆すことは難しいのか、小さなトラブルはよく見かけていた。
まぁ主に貴族からしてみればだけど『貴族として尊大に振る舞え!』って教育されてきたのに『今日からお前は平民だ!』なんて言われたら発狂してしまう勢いだし。
そもそもメイドとかに傅かれて暮らしてた生活から、すべてを自分で行え!ってのも無理がある話で。
そういうイライラもあってか、平民出身の子や、それこそ他種族の生徒たちにキツくあたる貴族の子息たちがかなり、いた。
まぁ、大体そういうのは、後から見事なしっぺ返しをくらうみたいで、高学年へと上がるごとに姿を消して行くのだけど。
シシリーは孤児だったから……貴族だった子はもとより、平民の子からも多少の風当たりはあった。
貴族はしょうがないな、そもそも人種が違うんだ。そう思って生温かくスルーする事にしていたけど、まさか自分と同じだと思っていた平民出身の子からも、孤児というだけで嫌がらせを受ける立場だったとは夢にも思わず、衝撃を受けた事はある。
……正直、家族や親族の存在を知っているカイルザークが、ちょこっとだけ羨ましかった時もあった。
「……あんな物じゃないよ。僕の場合は、学園内で暮らしてたから舌打ち程度で済んだけど。獣人の扱いは、もっとずっと酷くて……犯罪奴隷のと、そんなに変わらない」
少し俯きながら、小さな声でカイルザークの声に、悲しくなってくる。
犯罪奴隷……当時、この呼び名を使われる奴隷達というのは、俗に言う凶悪犯罪者の事だ。
それこそ、彼らの被害者となってしまった者やその遺族達だって存在するわけだから、恨まれるのは当然、という風潮も無きにしも非ずではあった。
だからって、見かけたら石をぶつけても良い、罵声を浴びせかけても良い、というわけでは無い。
無いが、それでも恨まざるを得ない人は存在する。
それも理解はしているけれど、今は、少なくとも今は犯罪奴隷として、それぞれの作業に従事している以上、更生とまではいかないだろうけども、罪の償いをしている最中なのではあるのだから。
でも、獣人ってだけでのその扱いは……無い。許されない。
何も悪いことしてないよ?
「……そんな暮らしの中で、里を作って身を寄せ合って助け合いながら暮らしてるはずの、その仲間である獣人からも僕達は…厭われる生まれなんだよ……そんな環境から『エルを救ってくれてありがとう』この、ありがとうだからね?」
「どんなすがたでも、エルはエルだし、カイはカイでしょう?うまれで、なおしようのないことで、さべつなんてさいていだよ?」
身を寄せ合って、小さくなって……そういう環境であればある程、閉鎖的な環境の中では少しの違いや違和感でも、大問題になることがある。
田舎暮らしに馴染めずに村八分にされちゃうような……えっと、こういうのを集団ヒステリーっていうんだっけ?
(仲間のはずの存在をなんだか適当な理由で生贄にしたくなっちゃう病ってやつだよね。怖いよね)
ぶっちゃけムカつくなら、集団で虐める前に、面と向かってむかついてる理由を相手に伝えれば良いのにね。
歩幅的に少し置いて行かれ気味になっていた、カイルザークの頭を背後から「いいこいいこ」する。
「それに、こんなにきれいなのに、きらうなんていみがわからないわ!」
ん~、ふわふわの髪も素敵だけど、一緒に触れてしまう耳がさらに柔らかくて魅力的!
いつまでも触っていたいくらい幸せな感触に、思わず笑みがこぼれてしまう。
……やっと爆笑の波が落ち着いてきたのにね。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる