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はじまりはじまり。小さな冒険?
173、違い。
しおりを挟む獣人って、生まれた時から私たちよりずっと体力あるみたいだし、ちょっとした遊びもびっくりするくらい身体を使うものなのかな?
脳内のイメージとしては、子犬たちが戯れあってる感じなのだけど。
って、あ、カイルザークたちは狼か!
「冗談だけど。体格がいきなりここまで変わっちゃうと、感覚が追いついていないみたいな感じがあるのは本当」
「あ、しょれはあるね。いきなりおとなになって、ドアとかぶつかりまくったよ」
無意識にドアを開けようとする手の高さが、そもそも違うから……いつもは背伸びをしてドアノブを指の先に引っ掛けてなんとか開けていたのが、腰の高さ……簡単に開けられる位置にある。
でも、いつもの癖でね、全力背伸びをしながら手を伸ばして、ドアに激突する。
無意識にやってることだから、それでいつもならドアが開くはずの動作だし、まさか開かないとは思ってもいないから、受け身も何もあったものじゃないからね。
予想外にドアに突撃すると本当に、痛い。
「うん、蹴りとかになると、アタリを考えて動くのに、届くはずの場所に脚がない……どころか、フォローに手を出そうにもリーチが足りなさすぎるし、そもそも身長も違うから、いろいろ悲惨……」
「……そのわりにはしっかり、げんきにはしってたよね?」
「あの程度ならね?でもあれで魔物に遭遇して戦闘になってたら、戦力という意味では全く動けなかったと思う」
「そういうもんなんだ?」
そういうものですよ。と、カイルザークが軽く頷いた。
カイルザークの場合は、体格の急激な変化で今までの武器も使えなくなってしまったからなぁ。
格好良かったのに、残念。
……その点で言うと、そもそも私は最初から戦力外確定だけどね!
あの場に居たのがセシリアではなくて、生前のシシリーであったとしても、移動スピードの時点で役立たずだったから。
むしろ足引っ張り担当ですね。
(魔物の氾濫に遭遇してしまったあの時、シシリーに戦闘技能が少しでもあったなら、また違った今になっていたのかな?)
でも、変わらないかなぁ……。
国が滅ぶほどだものね。私一人が変わったくらいじゃ、何も変わらないよね。
今さら過去に浸ってもしょうがないのだけど、魔導学園は、私にとってとても大切な…大切な世界の全てだった。
突然失ってしまって悔やむことがないように、今世では戦闘もしっかり勉強しよう。
……っと、ライブラリへと向かっていたことを思い出して、ぽてぽてと廊下を進み始める。
カイルザークは一瞬首を傾げつつも、そのままついてくる。
「……エルはすばしっこいから、ウォーミングアップも兼ねてジャレついてる。……あの子、良い子だね」
「うん、すごくいいこ!いいおにいちゃんでしょう?」
「誘拐の時に知り合ったんだってね…エルを、助けてくれてありがとうね」
「……?カイのほうが、エルのおにいちゃんみたいなくちぶりね」
思わず笑みが浮かぶ。
うーん、さっきの恐怖からの反動か、やたらと笑ってしまう。
あ、でも中身の年齢で言えば、エルネストのお兄ちゃんっていう位置でも間違いではないのか。
今はカイルザークの方が年下だし……あれ?どっちを基準に考えるべきなんだろうか?
あれあれあれ?と悩みそうになったところで、背後をついてきているカイルザークからため息が聞こえた。
「…あー…うーん、まぁ良いか。言いたいこと…全くもって伝わってないね?」
「ん?」
「シシリーの時からだし……まぁ、素なんだろうねぇ」
「え、なに?」
振り向くと、なぜか『いいこいいこ』と頭を撫でられた。なぜ?
伝わっていない。これを言われるとすごく耳が痛いんですけど!
なんか少し前にも言われてたよね!?っていうか、言ってたよね?
カイルザークはまた呆れたように深くため息を吐くと、真面目な顔になって話を始める。
「……セシリアは獣人が差別されてるってのは知ってる?」
「うん」
「それは…『知識や常識的な情報』として知ってるだけだよね。差別をされる瞬間を見たことないでしょ?」
「あるはずだよ?カイがしたうちされてたでしょ?」
小さい時から、カイルザークは特例というわけではなかったのだけれど、少し早めの時期に……入学前から魔導学園の寮で暮らし始めていた。
魔導学園内では、貴族とか家柄的な身分差からの差別を禁止していたが、どうしても固定概念を覆すことは難しいのか、小さなトラブルはよく見かけていた。
まぁ主に貴族からしてみればだけど『貴族として尊大に振る舞え!』って教育されてきたのに『今日からお前は平民だ!』なんて言われたら発狂してしまう勢いだし。
そもそもメイドとかに傅かれて暮らしてた生活から、すべてを自分で行え!ってのも無理がある話で。
そういうイライラもあってか、平民出身の子や、それこそ他種族の生徒たちにキツくあたる貴族の子息たちがかなり、いた。
まぁ、大体そういうのは、後から見事なしっぺ返しをくらうみたいで、高学年へと上がるごとに姿を消して行くのだけど。
シシリーは孤児だったから……貴族だった子はもとより、平民の子からも多少の風当たりはあった。
貴族はしょうがないな、そもそも人種が違うんだ。そう思って生温かくスルーする事にしていたけど、まさか自分と同じだと思っていた平民出身の子からも、孤児というだけで嫌がらせを受ける立場だったとは夢にも思わず、衝撃を受けた事はある。
……正直、家族や親族の存在を知っているカイルザークが、ちょこっとだけ羨ましかった時もあった。
「……あんな物じゃないよ。僕の場合は、学園内で暮らしてたから舌打ち程度で済んだけど。獣人の扱いは、もっとずっと酷くて……犯罪奴隷のと、そんなに変わらない」
少し俯きながら、小さな声でカイルザークの声に、悲しくなってくる。
犯罪奴隷……当時、この呼び名を使われる奴隷達というのは、俗に言う凶悪犯罪者の事だ。
それこそ、彼らの被害者となってしまった者やその遺族達だって存在するわけだから、恨まれるのは当然、という風潮も無きにしも非ずではあった。
だからって、見かけたら石をぶつけても良い、罵声を浴びせかけても良い、というわけでは無い。
無いが、それでも恨まざるを得ない人は存在する。
それも理解はしているけれど、今は、少なくとも今は犯罪奴隷として、それぞれの作業に従事している以上、更生とまではいかないだろうけども、罪の償いをしている最中なのではあるのだから。
でも、獣人ってだけでのその扱いは……無い。許されない。
何も悪いことしてないよ?
「……そんな暮らしの中で、里を作って身を寄せ合って助け合いながら暮らしてるはずの、その仲間である獣人からも僕達は…厭われる生まれなんだよ……そんな環境から『エルを救ってくれてありがとう』この、ありがとうだからね?」
「どんなすがたでも、エルはエルだし、カイはカイでしょう?うまれで、なおしようのないことで、さべつなんてさいていだよ?」
身を寄せ合って、小さくなって……そういう環境であればある程、閉鎖的な環境の中では少しの違いや違和感でも、大問題になることがある。
田舎暮らしに馴染めずに村八分にされちゃうような……えっと、こういうのを集団ヒステリーっていうんだっけ?
(仲間のはずの存在をなんだか適当な理由で生贄にしたくなっちゃう病ってやつだよね。怖いよね)
ぶっちゃけムカつくなら、集団で虐める前に、面と向かってむかついてる理由を相手に伝えれば良いのにね。
歩幅的に少し置いて行かれ気味になっていた、カイルザークの頭を背後から「いいこいいこ」する。
「それに、こんなにきれいなのに、きらうなんていみがわからないわ!」
ん~、ふわふわの髪も素敵だけど、一緒に触れてしまう耳がさらに柔らかくて魅力的!
いつまでも触っていたいくらい幸せな感触に、思わず笑みがこぼれてしまう。
……やっと爆笑の波が落ち着いてきたのにね。
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