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はじまりはじまり。小さな冒険?
193、おはよう。
しおりを挟む「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
「あ…はい」
あまりの空腹に目が覚めて、無駄に広いベッドの上で茫然となっていると、メイドがノックをして部屋に入ってきた。
そんなボクの様子を知ってか知らずか、にこりと笑うとスカートの裾をつまんで優雅な挨拶をする。
……この挨拶は女性の丁寧な挨拶で、カーテシーというらしい。
今まで見たことがなかったから、どうにも気恥ずかしい。
「はじめまして。セリカです……今まではセシリア様の専属メイドだったのですけど、これからはエルネスト様のメイドも兼任することとなりました。よろしくお願いします」
「エルで…良いです。よろしく…」
「使用人に敬称無しで名を呼ばせるのは、ダメなのですよ?」
挨拶早々に眉をひそめられてしまったけど、しょうがない。
メイドと言われても、相手は自分より大人に恭しくされる。と、いうのが初めて過ぎて怖い。
セリカは首を傾げつつ、水を注がれたコップを渡してきた。
「……うーん、もしかして『様付け』は苦手ですか?」
「苦手で、敬語も…怖い、です」
「早いうちから慣れた方が良いんですけどね……来年からは魔法学園に入学ですし」
ありがとうございます。と水を飲み干してコップを返すと、どういたしまして。と笑顔で受け取ってくれる。
こういう自然と出てくる言葉の関係ではダメなんだろうか?
「そうですねぇ…じゃあ、今週だけは普通に喋りますね。そこから徐々に敬語にしていくので、慣れていきましょうね」
「はい…」
「返す言葉は敬語なのね。えらいね。じゃあ、エル、よろしくね。私のことはセリカって呼んでね」
「よろしく…お願いします」
ふわりと笑顔がこぼれた。
ベッドから降りると、そのベッドに着替えを置かれた。
まずは着替えからかな?と思って、手を伸ばそうとすると、セリカが「そういえば……」と振り向く。
「まずは……昨日、ご飯前に寝ちゃったのだもの、お腹空いてるわよね?ご飯前だから、スープしか準備出来なかったのだけど、ご飯までまだ時間あるから……食べる?」
「……っ!!食べます!」
「ふふっ。そのかわり、御行儀も直していかないといけないから、煩く注意するかも知れないけど、頑張りましょうね」
「……はい」
セシリアに会ってからボクの世界が反転した。
全てが冷たく寂しい世界から、温かくて優しい世界に変わった。
……どう考えてもセシリアの行動に巻き込まれただけだけど。
ただ、結果的にボクは助かったし、一緒に王都へ運び込まれた身売りされた子供達の無事も確認できた。
セシリアが望むなら兄に、セグシュ兄様のような「自慢の兄」になれるように頑張りたい。
「さて、と……着替えはこれね。本当はお手伝いしないといけないのだけど、まずは自分で着てみる?」
「はい……」
今までならシャツに、今の季節なら何か羽織るものを着るくらいだったのに、目の前に用意されたものは、やたらと飾りのついたひらひらしたシャツにジャケット、ズボンと……帯?リボンか?他にもいくつかアクセサリーまで置かれていた。
「今のうちにスープ持ってきちゃうわね。じゃ、頑張ってみて?」
むむっと唸るボクを見て楽しそうに笑うと、セリカはベッドの毛布やシーツをカートに載せると速足に退室して行った。
不意にぞわり。と、お風呂の恐怖が即座に思い出されて、セリカが退室してドアが完全に閉まるのを確認するとダッシュで着替え始める。
シャツまでは着れた、ズボンもはけたしジャケットも多分あってる。
あってる……が、この残ったひらひらのリボンのようなものと、チェーンと紐が垂れ下がっているアクセサリーのようなものと、少し硬めで幅のあるリボンのような布と……いくつか用途不明なものが残った。
「……60点、ですね」
声に振り返ると、セリカが渋い顔になってドアの前で仁王立ちになっていた。
「こちらに…こっちに来て?ほら、襟が綺麗に揃ってない。袖も中でまくれちゃってるわね。シャツの裾も……っと、こうやってしまうの」
「貴族の服は、難しい…です」
「これは、ここで結くものよ。これはここにつけるの……で、これはタイだから…」
どうやらチェーンと紐の垂れ下がっているアクセサリーのようなものは、ジャケットを羽織った上からつけるものだったらしい。
大きなリボンだと思ったものは、なんとベルトだった……。
ひらひらすぎてどう見ても機能的ではない服は、どこがどうつながるのかさっぱり分からなくて、さらにそこに飾りがつくとなるともう、お手上げだった。
「これは、慣れないと本当に困っちゃうからねぇ。あ、このタイはスープを飲み終えたら着けてみましょうね」
セリカはふふふ。と楽しそうに笑うと、テーブルのセットの上にスープとパンを2つ準備してくれた。
ふんわりと美味しそうな香りが漂う。
「これ、本当は『まかない』だから、使用人にしか出しちゃダメなやつなんだけどね。公爵家のまかないはとっても美味しいのよ」
「ほんとだ、美味しい…」
ほわほわと湯気をあげる野菜がたくさん入った透明なスープと、木の実の入った焼きたてのパン。
こんなに美味しいのに使用人しか出しちゃダメって……何でだろう?
「まかないは、どうして使用人だけなの?」
「あぁ……きっと、これをエルネストが食べたって聞いたら、公爵家の料理長が悲しむわね」
「こんなに美味しいのに?」
ふふふ。と笑いながら、セリカが教えてくれる貴族の『当たり前』は、しっかり理由を教えてもらわないと、全く意味がわからなかった。
なんで美味しいって褒めてるのに悲しまれるんだ?
「料理長は腕によりをかけて美味しい料理を作るの。だから豪華だし、手の込んだものが多いのだけど。でもね、そういう料理だけだと、いつも決まった時間にご飯が摂れない人たち……主に変則的なお仕事をしている使用人は、今のあなたのようにお腹が空いて困ってしまうわね?」
「はい」
「そんな時にでも、ちゃんとご飯が摂れるようにって、お鍋を温めるだけですぐに食べれるような簡単な料理も用意しておいてくれてるのよ……これが『まかない』ね」
「じゃあ、今日みたいにご飯の時間じゃないのにお腹が空いたときは『まかない』をお願いしてもいいの?」
それなら、悲しまれないよね?そう思って聞くと、セリカは首を横に振った。
「そういう時は、私に言ってください。料理長はあなた達のご飯を作るためにここにいるのだから、食材が足りないとかではない限りは、すぐに美味しいものを作ってくれますよ」
「すぐ食べれるものがあるのなら、わざわざ作ってもらわなくても……」
「……料理を作るのが仕事の人から、お仕事を奪ってはダメよ?」
そう笑うと、空になったスープとパンのお皿を下げて、お茶を入れてくれた。
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