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はじまりはじまり。小さな冒険?
192、帰る家。
しおりを挟む「キミは、ダメに決まってるでしょう?」
「でもっ!」
「だーめ!今日は顔合わせだけの約束だよ?」
守護龍とゼンの言い合いのあと、突然の出来事によって止まっていた周囲の時間も、はっと我に返ったように動き出した。
「困ったわね……進行役がいなくなってしまったわ」
「母様…心配しないのですか?」
あらら…。と言った様子で王妃様の声にレオンハルト王子が呆れたように反応していた。
「ハンスが一緒だから…大丈夫よ。守護龍も大丈夫だって言ってたでしょう?だから、大丈夫よ。それより、このあと、あなた達の初めてのお勉強の予定だったのだけど……」
「あ……講師が、いません」
「そうなのよねぇ」
どうしましょうね。と和かに笑う王妃につられて僕も笑ってしまったけれど、笑ってる場合ではないよな。
国の中心の建物である王城内で得体の知れない魔法陣が展開して、国の要職と子供2人が行方不明になっているのだから。
……本当にその反応で良いのか?
ボクの心配をよそに彼らの心配事は、勉強の件のみになっていった。
ねぇ、本当に、良いの?!
「あぁ、お勉強に関しては、今日は私が引き受けさせてもらうよ……傍で見張っていないと今にもセシリア嬢の元へ飛んでいきそうな子がいるからね?」
「ゼン……」
おどけて笑う守護龍の後ろに、長いしっぽを掴まれたまま、ぐったりとうなだれているゼンがいた。
牢のような馬車の中で『大切な子だ』と優しげな眼差しになってセシリアを見つめていたゼンの…レイの姿を借りてはいたのだけれど、あの表情を思い出す。
随分セシリアのことを気にかけていたようだし、心配だろうな。
ユージアも一緒だし、ハンス先生?も一緒なのだから大丈夫だ、と思うことにはしたけれど、ボクも心配で……でも、無事を祈ることしかできないのがもどかしかった。
ちなみに、守護龍を講師としての初めてのお勉強会は……わかりやすくてとても…宿題も多くて。
まぁそもそも龍から教えを受けるなんて滅多にできることではないのだから、この勉強自体がとても貴重なものなのだけど。
(……メンバーもとんでもなかったけどな。王子とボクも一緒にとか…信じられない)
本来であれば公爵令嬢であるセシリアだって同席することのない王子のための個人授業を、まぁ今はボクも公爵家の人間という認識なのだろうけど、それでも今までの境遇から考えて、ボクが受けてしまったということが何よりも驚きで……。
ま、そうやって興奮してたのも最初のうちだけで。
授業が終わる頃には、頭に情報を詰め込まれすぎてボクもレオンハルト王子もグッタリとしてしまっていた。
そして目の前には講義が進むごとに、どんどんと積み上げられていった宿題の山。
「……今日中に終わる気がしないんだが。エルは出来そうか?」
「僕も無理かな」
「レイはいいよなぁ……」
「……ははっ」
「今、呆れただろ?……でも無理なものは無理だ~っ!」
笑って返そうにも、疲れ切って乾いた笑いしか出てこなかっただけなのだけど。
羨ましがられてるシュトレイユ王子は、一緒に勉強するはずだった同学年にあたる2人……セシリアとユージアがいなかったために、今日のお勉強会はお休みとなってしまっていた。
とても残念がっていたけれど、3歳児に同じような宿題の山は……させられない。
一緒に頑張れる仲間がいなければ……ボクの場合はレオンハルト王子だが、彼がいなかったらあっさりと挫けてしまえる気がした。
……ちなみに監視付きのゼンは、ボク達が授業を受けてる間、丸くなって不貞寝を決め込んでいたが、時折り守護龍によって内容の質問をされるとしっかり答えていた。
どうやら、授業に参加させられていたらしい。
ちなみに、しっかりと答えられていたから、ゼンには宿題がない。
ボクとしてはむしろ、宿題無しのゼンのほうこそ羨ましかった。
テーブルに突っ伏して半泣きのような状態になっているレオンハルト王子を宥めていると、ガレット公爵……セシリアの父親が迎えに来たので一緒に帰宅した。
「エル、セシリアは無事だそうだよ。ただちょっと危険な魔物の出る地域を通っての帰宅になるから、今日、すぐには戻って来れないけれど……」
「よかった…です」
セシリア達は安全な場所の確保ができていて、しっかりご飯も食べれたと。
ただ、戻ってくるには危険な地域に足を踏み入れることが前提なので、少しでも魔物との遭遇を避けるために、魔物の活動が鈍る早朝にこちらへ向けて出発することになったとのことで。
そんな連絡がハンス先生から大人達には届いていたそうだ。
ほっと一安心だった。
「寒くないと、いいな」
馬車の小窓から外の風景を見ながら呟いた。
まだ、春を迎えたばかりだから、夕方になってくるだけでもかなり冷え込む……あの牢のような荷馬車の中も、夜はとても寒くて、幼い子供達を抱えるように冷やさないようにと必死だった。
「……ちゃんとベッドで寝れるそうだよ。一体どんなところへ強制転移してしまったんだろうね」
ふっと息を吐く音が聞こえて、馬車の向かい側に座るガレット公爵を見上げると、おいで。の声とともに、膝の上に抱え込まれてしまった。
……大きく成長してしまったセシリアにもされたけど…悔しいけど安心してしまう。
「エルも寒かったね。手が冷たくなってる。これで温かいかな?今度からはセシリア達も乗るし当面はブランケットを準備したほうがいいな」
「あ…大丈夫、です」
「大丈夫じゃないから、冷たいんだよ……これから冷え込む時間帯だからなぁ。温かいものを準備してもらおうな」
「はい……」
……こんなに優しくしてもらっていいんだろうか?
養母は、何かが出来るようになれば手放しで褒めてくれたけれど、それでも他の子の『お母さん』でもあったから、忙しいのはわかってたから…こうやって抱えられたり、一対一での優しい言葉は少なかった。
どう、反応したらいいんだろう?
「ごめんな、本当なら歓迎会を開いて、エルをしっかりと家族に紹介したいんだけどな……そういえば!誕生日がそろそろらしいね?……あぁ、それまでにセシリアが少し落ち着いてくれるといいんだが……」
「歓迎会?ですか?」
歓迎会まで開いてくれるらしいです。
本当に、どう反応したらいいのか分からなくて固まっていると、頭を撫でられてしまった。
「そう、エルの歓迎会だ!うちは家族が多いからね?エルは養子とはいえ、うちの子になったのだから、ちゃんと家族全員に紹介しなくちゃいけないんだよ。あぁ、そうだった、言ってなかったけど、エルには新しい父さんと母さんの他に、お兄さんとお姉さんが5人できました!」
「5人?!」
「5人だよ。そして、エルには妹もできました……かなりお転婆だけど。これはセシリアのことだよ。仲良くしてあげてね」
「……はい」
セシリアの兄様!と紹介されていたのがセグシュ様。
その他にも兄や姉が4人も……全く想像がつかない。
まぁ子供がたくさんいる環境なら、今までの養母の家と変わらないんだけど。
……これからどんな暮らしが始まるんだろう?
「しかし、うちの末っ子は……本当に…まぁ、元気で戻ってくれるなら、良いか」
ガレット公爵のため息とともに呟かれた言葉を聞きながら、馬車の揺れと人の温もりとでボクはぐっすりと寝てしまった。
眠りが深かったのか、次に目が覚めたのは明け方で、ひどい空腹とともに……という、なんともいえない公爵家での初めての目覚めとなった。
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