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はじまりはじまり。小さな冒険?
195、side エルネスト。ごちそうさま。
しおりを挟む思わずほっとする。
まさかね?とは思ったけど、流石にないよね?
ごめんなさいの気持ちでセリカを振り返ると、にっこりと笑顔で返されてしまった。
「……勿体無いと思ってくれるのは素晴らしいことだけど、それでも、みんなは美味しく食べて欲しくて頑張ってくれているのだから、そんなに無理して詰め込むようにしてはダメよ?」
「はい」
たしかに大聖女の言うとおりだ。とは、思うのだけど、やっぱり食事を残してしまうと言うことに抵抗がある。
養母の家では、そもそも、食事を残ることがなかった。
食べ盛り、育ち盛りがいっぱいいたから…あ……たまにあったかなぁ。
調理失敗して、噛みきれない肉とか。
……里の食事事情が公爵家とは全然違うから、肉自体が硬いものが多くて煮込みが足りなかったりすると、人族より立派な牙や顎の力があっても噛みきれない時がある。
それでもなんとか食べれないかと、一度は口に入れて必死に噛むものだから、諦めて口から出てくる頃には、かなり小さくはできてるのだけど。
「エルは優しいね。可愛いなぁ……」
セグシュ兄様がくすりと笑う。
可愛い……可愛いのか?
食事は残さないのがマナーだと習っていたし…まぁ残ったことはなかったけど、それを考えれば、急いでるから残すというのはどうしても許せなかったんだ。
当たり前だと思った事、しかもこの程度で感心するように褒められてしまうのは……恥ずかしい。
里では、こんな事で褒められたことはなかったのに。
「もしよかったらだけど、次の休暇でその家畜も見に行ってみるかい?」
「ぜひ!」
「懐かしいわねぇ。セグシュは家畜の大きさにびっくりして怖くて泣いてしまったのよね?」
「母さん……」
セグシュ兄様が少しバツの悪そうな顔になる。
大人たちにとっては『微笑ましい』お話かもしれないけど、自分の小さい頃の失敗談を弟や妹たちに披露されてしまうのは、イヤだろうなぁ……。
ボクも言われないように、気を付けないと。
「ヴィンセントは躊躇無く触りに行って、仔馬に肩を噛まれたんだよな……」
「そうそう!こう、綺麗に肩に丸い歯形作って!ふふふっ。あの時たしか、フィリーが面白いこと言ってたのよねぇ」
「あぁ!そうそう!牛舎に行った時だな。肉として加工や出荷されるのと、牛乳をもらうために育ててるのとがいるって説明をされて」
「「ちょこっとお肉の味見をさせてください!」」
公爵と大聖女が同時に言葉を発して、笑い始める。
ボクはと言えば、その言葉に愕然としていた。
「真面目な顔で言ってたもんなぁ……牛乳ならともかく、肉はどうやって味見するつもりだったんだろうね?真面目な顔してスプーン握ってたし」
「『ちょっとだけで良いのよ!』って真剣に、牛舎のスタッフに迫ってたんだよなぁ」
家畜は里にもいたし、世話は里の全員で受け持っていたから、肉として食べるまでにはいくつか工程が必要なのは知っていた。
まずは屠殺して血を抜かないといけない。
……すぐ食べちゃうなら、抜かなくても良いんだけどな。
抜いた血をそのまま香草や調味料と混ぜて、ハムなんかの材料にも使える。
(血を使ったウィンナーとか、美味しいんだよな。収穫祭の時に一切れだけもらえるのがすごく……また食べたいな)
ただ、出荷となるとそうもいかないんだ。
それこそ今朝、屠殺してそのまま朝食として食卓に並ぶのなら、血抜きは要らないけど、昼食以降に出すのであれば血抜きは必須だ。
『血抜きをしないと臭い肉になる』
これ、実は血が臭いわけじゃないんだよなぁ。
血が腐るのが早いだけなんだ。
肉だって時間経過で傷むけど、それでも数日はおいておけるくらいには緩やかに傷んでいく。
ただ、その肉の中に存在する血が先に腐れば、『食べれるけど臭い』となるのは、当たり前だよな。
だから、狩では獲物はすぐに血抜きをするし、食肉として外部へと出荷されるものは血抜きが必須になる。
懐かしいね。と、楽しげに話す夫婦の会話は、どんどん弾んでいって、完全にふたりの世界へと突入して行ってしまった。
ただ、当時の状況を事細やかに話すものだから……小さなスプーンを握って「味見させて!」と、仔牛にねだる子供の姿が頭に浮かんで、思わず笑ってしまう。
……実際に味見されてしまうと、踊り食い?にでもなるのだろうか?生きたまま喰いつかれてしまうのだから。うーん。
「ドロッセルとセオドアの時も……」
「父さん、母さん、馬車が到着したみたいだよ?おーい、母さーん?」
正餐室のドアがそっと開くと、家令と呼ばれていた年配の執事が軽く礼をしていた。
セグシュ兄様はそれに気づくと、公爵と大聖女夫婦に声をかけるが……盛り上がった話は止まらない。
会話にはフィリー、ヴィンセント、ドロッセル、セオドア……初めて聞く名前が並んでいた。
ボクに新しくできた兄や姉達……かな?
忘れないように覚えておかないと……と思いながら急いでデザートを食べていると、やっとセグシュ兄様の声が届いたのか、大聖女が席を立つ。
「あらあら、じゃあ、行きましょうね?エルはしっかり食べれたかしら?」
「は…はぃ……ぅぐっ…?!」
「エル!お水お水!焦らなくて良いんだから!……うん、落ち着いて……大丈夫?……ふふっ。頑張っておいで」
セグシュ兄様が、ボクを見て吹き出しそうになりながら、駆け寄ると背をさすってくれて、水をくれた。
デザートに出ていたリンゴのコンポートをたっぷり使ったアップルパイが美味しくて美味しくて、最後の一個をどうしても残したく無くて…一気に口に詰め込んでしまっていた。しかもしっかり見られてた……恥ずかしい。
「いって……きます」
「行ってらっしゃい」
正餐室から出て、玄関フロアという広い部屋を抜けて……目の前に止められた馬車に乗り込んだ。
……乗り込もうとしたら、セグシュ兄様に持ち上げられて乗せられてしまったのだけど。
外側もだけど内側も、今まで乗ったことのあるどの馬車よりも大きくて、高そうな装飾が見事で、座るところがいっぱいあった。
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