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はじまりはじまり。小さな冒険?
204、犬。
しおりを挟むそれにしたって『脱走してるうちに、やらかしちゃったから私のせいじゃないよ?』ってわけには、いかないからね。
私は誰かを襲えなんて、そんな命令は一切してないわけです。
……これは被害が大きくなる前に、現行犯で捕まえるべきだよね。
「えものってどういうこと?」
『……』
私をかばうように前に立っていたカイルザークのさらに前へと出て、ルナの前まで進む。
ルナは私と目線を合わせる為に片膝をついた。
……まぁ、ルナは俯いちゃってるから目線は合わないんだけどね。
でも、ダンマリは許しません。
「……けいやくいはんで、けいやくかいじょするわよ?」
『やめてっ!セシリアのためって』
ばっと私を見上げたルナの顔は、やっぱり泣きそうなのを必死にこらえてる顔で。
それでも、誰の命令か?何が目的なのか?も、全く話そうとはしてくれない。
「わたしのためになってないよ。ぜんぜん、なってない」
「セシリア……」
どうしてくれようか、そう思った時にルークの声がして振り向くと、ルークは真っ黒なスライムに捕われた団員の足元を指差している。
団員の足元の近くで、団員を捕らえているのとはまた違う黒いゲル状の塊がぼこぼこと沸騰するように、蠢き始めていた。
「それにルナ、ないてるじゃない。わたしのためなら、そんなことしなくていい」
……ルナは自分の力を使うたびに、相手を思って泣いてしまう優しい精霊だから、力は借りるけど絶対に泣かさないよって約束してから契約したんだからね?
わざわざ自分から悲しい思いをする行動をしないでほしい。
私を見上げるまま固まっているルナの頭を撫でると、綺麗な黒髪がさらりと流れた。
精霊特有って言ってもいいのかな、どの性別・年齢の姿になっても端正な顔をしている。
悪ささえしなければ可愛いのになぁ…。
「イヤなら、わたしのおもうばしょにいきなしゃい……かわるから」
『わかり…ました……ごめんなさい。ありがとう』
ルナの泣き笑いのように細められた瞳から、涙がポロリとこぼれおちる。
そのまま、足元に広がった闇へと沈み込むようにして姿を消してしまった。
ふう、と思わずため息がでてしまう。
やっぱりルナもフレアも子供にしか見えない。
人間よりもずっと長く生きてるのにね。
……困ったなら、そのまま私に話してくれればいいのに。
さて。と、黒いスライム状のものに捕われたままになっている魔術師団の団員…の足元でぼこぼこと沸騰してるみたいになっている黒い塊を見る。
……多分というより確定で精霊ではないから、最初は魔力を込めて声をかけてみる。
『いらっしゃい』
ぶわりとゲル状の闇が浮かび上がりると、四つ脚の生き物の形をとり始める。
思ったより大きい……って私が幼児から余計に大きく見えてるのかな?
少し待っていると真っ黒で大きな犬の形になった。
私を背に乗せるために大きくなってみせたゼンナーシュタットよりずっと大きくて、私からは思いっきり見上げてしまうほどになった。
『はじめまして、ブラックドッグ…?あなたはヘルハウンドかしら?』
『初めましてルナのマスター。ここのブラックドッグは言葉が得意では無いので、私が代わりに』
ブラックドックもヘルハウンドも種族的には妖精だ。
永く生きて精霊格となるものもいるそうだけど…否定しないってことは、このこはヘルハウンドと呼んでもいいのかしらね?
ヘルハウンドは、私と視線を合わせようとしてくれたのか伏せのような姿勢になってくれたのだけど……大きすぎてそれでも高い。
でも、視線を合わせようとしてくれるくらいには、少なくとも私には友好的なのが分かり、ほっとする。
「えっと……」
『言わずとも聞こえておりました。その男、暫し預からせていただきます』
いただく、とはっきり言われてしまっているので、これは拒否されたくない事なんだろうけど……暴言だけで殺されたりしてはたまらない。
というか、彼らはルナがいたからついでのように出てきたんだろうけど…あ、一応、ルナの眷属の……はずなんだ。
けど……それにしても直接出向いてくるほどに怒らせるような、何かをしてしまったのだろうか。
どれだけ凄い暴言を言ったのだろう?
「ころしゃないで…ね?」
『私は会わせるだけです。どうするかは、不名誉な被害を受けた「彼」が決める事です……では』
真っ黒で大きな犬も地面に沈み込むように姿を消していってしまった。
真っ黒なスライムに捕われた団員とともに。
沈み込んで消えていく瞬間、ヘルハウンドの血のように真っ赤な眼が見え、思わず見惚れるが、その直後がくりと脚の力が抜けた。
「セシーっ!!」
父様の呼び声とこちらへと走ってくる姿にはっと我に返ると、脚に渾身の力を込める。
ふ…踏みとどまったぞ!今回は倒れてない!
なんか魔力ごっそり持っていかれたけどっ!!
とは思うものの、渾身の踏ん張りも長くは続かず……立ってられなくなると、父様の悲鳴のような叫び声を聞きながら、視界がぐらりぐらりと上へ向き始める。
あ~これは倒れたな。頭打つのは嫌だなぁ。そう思いつつ倒れる。と、なる前にふわりと身体が浮かび上がった。
仰向けに倒れ込む直前にルークが受け止めてくれたようで、そのままルークに抱きあげられていた。
「また…無茶をする。あれは教会の息がかかった者だ。……ルナに監視を頼んでいたのは私だが…ルナは私でも暴走するのか……すまない」
「あれは、ぼうそうじゃないよ。なかまをけなしゃれたから、おこっただけ……だとおもう」
だと思う。としか言えない。だって暴言は耳を塞がれたみたいに全然聞こえなかったし、気づけばルナは勝手に動いてるし、ヘルハウンドが来るしで、訳わからないし。
ついでに魔力ぎれで、全身ぐったりで何も考えられないというか、考えたくないし。
ふわりと鼻腔をくすぐる白檀の香りと抱っこされている温もりとで、安心してしまうみたいで意識も遠のきかけてるし。
「そうか……すまない」
ルークに申し訳なさそうに謝られるというのも中々レアな光景だよな…とか、その伏せ目がちな優美な顔を見上げながらぼんやりと考えていると、一瞬ぎゅっと抱く力が強くなり、おでこに頰が当てられる。
さらさらとルナと同じ漆黒の艶髪が流れるのが見えて……って、顔近いよ?!
……先ほどまでルナやヘルハウンド達がいた場所は、昼下がりのリンゴの花の緩やかに舞う、麗らかな陽気に戻っていた。
黒いスライム状の拘束や、ヘルハウンドの放つ闇の痕跡は一切残っていなかった。
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