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はじまりはじまり。小さな冒険?
253、治るものと治らないもの。後半、side ヴィンセント その1。
しおりを挟む「魔法でも簡単に治らないものがあるんだな!」
笑いつつだけど一丁前に感慨深げなレオンハルト王子、やっぱり素直に笑えると可愛いなぁ。
あ、違うか、同年代の子から見れば『格好良い』って表現すべきなのかな?
まさに王子様然とした、整った顔立ちしてるもんなぁ。
子供特有の可愛らしさも相まって本当に…。
……まぁ、一つ物申すとすれば、笑ってる内容が私に関することばかりって事かな。
今も歳相応にいろんなことに興味を持てるくらいには、今もエメラルドさながらに目をキラキラとさせて、好奇心旺盛に周囲にくらいついて行く。
ただ、会話に間が開くと無意識にでも悲しそうな顔になってしまうのは、弟のシュトレイユ王子の様子が気になるからなんだろうなぁ。
いつのまにやらフィリー姉様の腕から脱出したのか、カイルザークがレオンハルトのそばにいたエルネストにじゃれつきつつ、声をあげる。
「レオン…呪いや毒、もちろん怪我もね、受けてすぐなら、魔法ですぐに治せるんだよ。でもね、例えばほら……これ!」
「わわっ!なにっ?」
これ。と言いながら、カイルザークはそばを擦れ違ったユージアの腕をぶら下がるようにして掴む。
カートを戻しに行こうとしていたユージアは、いきなり腕を掴まれてびっくりしているのだけど、気にせず腕を掴んだままカイルザークは説明を続けていく。
「ここに怪我の痕がある…怪我をしてからずいぶん経ってしまっているから、痕になっちゃってるんだよね。でもこれだって魔法で治せるんだ。あくまで『怪我の痕』だから、元からあったものではないからね」
「あれっ…?ここ、セシリアが治してくれたはずなのに……」
指摘されて初めて気付いたかのように、ユージアはびっくりして自分の腕を確認する。
カフスボタンを外して袖を大きくまくられた腕には、変色こそしていなかったが大きくえぐられた痕がケロイド状になり、はっきりとした凹凸を見せていた。
「随分、古い傷なのかな?もともと傷であったとしても、出血は止まっていて皮膚もそれなりに再生した。生活には支障がなくなっている。そうすると身体がね……これが『元々あったもの』として憶えてしまうんだよ。そうなるとこうやって、ちゃんと治しても徐々に戻ってきてしまうんだ」
「これは傷の場合だけど、呪いも毒も一緒。身体に長く在ると『元からあったもの』と混同してしまうんだ。だからなかなか消えてくれない。特に呪いは──」
「「わっ!!」」
カイルザークが言い終わるか終わらないかで、周囲の景色が流れた。
そしてとても不機嫌な……ルークの低い声が小さく聞こえた。
「身体を戻せ。今すぐ、だ。元の姿に戻れ」
「……は?」
目の前にユージアがいた。
いや、違うか、林檎を食べていた席から瞬時に、ルークが私を抱えたまま、ユージアの前に移動したのだった。
「いい……来いっ!」
「ええ…ちょっ……!なに?なんなの…?」
グイッと視界が沈むと、隣には二つ折りのようにして肩に担がれてしまったユージア。
えっと、二人同時抱っこですか?
そのまま、すたすたとキッチンの奥、幾つもある使用人用の部屋と言われていた個室へと進んで行く。
……あ、10代の姿のまま担がれているユージアはさらに、カイルザークを抱えていた。
そういえばさっき、腕にしがみつかれてたもんね。
逆さま抱っこになってるけど、カイ、大丈夫かしら。
ルークも3人を同時に担ぐとか、結構な重量あると思うんだけどな……。
******
side ヴィンセント
「守り切れるか…自信無いですよ?」
こう、答えた私に、母さんはふわりと笑った。
「あなたなら大丈夫よ。いつも気にしている技術云々より、今回は特に機動力が必要なの。騎士団遠征でのあなたの評判は耳にしているわ。支援、得意なのでしょう?子供達を守ってあげてね。足りない技術は……そうね、あの顔ぶれなら足りないってことはないと思うわ」
治療院……ここは主に病気や怪我の知識はもちろんの事、治療についての魔法や技術に長けた者が集まっている。
そして母さん…私の母は、この治療院の院長であり実力でも常にトップを走り続けている。王からは『大聖女』の称号を戴いている訳だが……その息子である私は、残念ながらいまいちパッとしない。
それだけ周囲の人材が優秀なのだ、そう言ってしまえば聞こえは良いが、私の回復魔法は…本当に弱い。
そもそも私は光の属性持ちではない。
なので、どう頑張っても、光の属性持ちの才には敵わない。
それなのに、光の魔法が微力ながら使えてしまっているので、所属は治療院になっている。
今回の任務も、母のお情けでの仕事の斡旋かと思ったくらいだ。
まぁよくよく聞いてみれば、現在進行形で『王都で大規模な反乱が起きた』とのことで、そもそもの頼める人員がいなかったようだ。
(……王族の避難所が目的地だったから、どのみち私は『入室のための鍵』としての同行は命じられていたのだろうが)
途中で合流するはずの弟妹のフィリーとセグシュ。
彼らは無事だろうか?
護衛対象の1人と言われたフィリーは……あの子は、まぁ無事だろう。
むしろ護衛いるのか?
だが、緊急事態とはいえ、セグシュに至っては新任だ。
なにかあってからでは遅い。とにかく急いで合流場所へ向かわなくてはと、気持ちだけが焦っていると前方から、子供…男の子のような声が響いた。
「ヴィンセント様、ですよね?」
不意に声が響くと、王宮内の通路の陰から浮かび上がるように、馬ほどの大きさの獣の影が現れた。
反射的に杖を構えると、更に背後から肩に手を置かれる感触があった。
警戒を!と警笛を鳴らし始めていた心臓が、更に飛び上がる。
挟み撃ちにされたのか?と全身に寒気が駆け抜けていく。
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