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はじまりはじまり。小さな冒険?
260、それは囮ではなくて餌なのでは。
しおりを挟む父さんは一通りハンス先生とセシリア、カイルザークに説教をしたあと、大きなため息を吐く。
涙目になってマントに包まれて抱かれている、3歳児の姿に縮んでいるユージアの背を優しくさすりながら、そっと下ろす。
ぶかぶかになってしまったドレスシャツの裾を引きずりながら着替えるためだろう、ユージアがキッチンへと走り出したのを確認すると、マントを広げて付け直す。
「そろそろ戻るが……呪いのこと、毒のこと、治療に関しての話は伝えておくよ。今後の予定に関してもハンスを通してくれたら、ヴィンセントの好きに動いてくれていい。あえて言うならレイ王子も同行の方向で。まとまって行動していてもらえると嬉しい」
「……まだ、手間取っているのか?」
ハンス先生が眉を潜めるように聞き返す。
反乱は鎮圧したはずでは?との疑問も浮かんできてしまう。
「いや…王宮、王城内はあらかた片付いたんだが、教会直下の暗部が煩い」
「そうか…」
暗部って暗殺部隊って聞いたけど……それを1人で対応しようとしている事自体が恐ろしいわけですが、双方ともさらりと話してしまう。
強いって羨ましい。
ふと、何かに気付いたかのようにハンス先生があらぬ方向へと視線を向けて、小さく頷く。
すると、ハンス先生の隣に霧が集まるようにして、その場に忽然と青髪の可愛らしい少女が姿を現した。
青い、丈の眺めのドレスを優雅に広げると、カーテシーをする。
「ああ、宰相。その事だが、水の乙女が手伝いを申し出ている」
「それは助かる…が、そちらの行動に支障が出たりは…しないか」
「あくまで水の乙女の個人的な手伝いの希望だ。むしろ彼女が暴走しないようにだけ、注意してやってくれ」
「わかった。ありがたい」
水の乙女、よろしく。と、父さんが笑むと、青い髪の少女も嬉しそうに笑い、姿が文字通り霧散する。
「ユージア、キミは当面の間、外での10代の姿は避けたほうがいい。暗部にターゲットとして手配書がまわっているようだ」
「わかり…ました。こっち来る前にも、襲われてるので、そうなのかな?とは」
着替えて戻ってきたユージアは10代の姿をしていた。
まだ少し顔が紅潮していたが、落ち着けたのか、涙目ではなくなっていた。
父さんはその様子を確認して、軽く頷くとルナに声をかける。
「じゃあ、そろそろ戻るよ。ルナ、頼む」
『は~い。……先ほどより少し移動したところに出ますから、足場、注意してくださいね』
そう言いながら、2人で部屋の出口へと向かっていく。
水の乙女も姿は消してしまったけど、きっと同行しているのだろうから、3人か?
その姿を見送りつつ、フィリーがポツリと疑問をこぼす。
「……にしても、あんな短時間で、よく父様を捕まえられたわね?」
『ああ、それは簡単…と言うか、今だけですよ』
テーブルに置かれた、お茶の入れ替えとお菓子の追加を持ってきていたフレアが反応した。
そのまま『今だけ』の理由を説明してくれるのかとみんなの視線が集まるが、フレアはドアの入り口をふいっと向くと、ルナがちょうど姿を現したところだった。
『宰相は、私の眷属達と共闘…?ちょっと違うかな?ずっと行動を共にしているんですよ』
「ああ、そういわれてみれば、私が父さんと合流した時も、黒い妖精達と一緒だった気がする」
ルナは『戻りました』と、にこやかな顔で笑むとセシリアに「お土産」と何かを渡しながら、フレアからのセリフを引き継ぐように説明を始めた。
『宰相が敵をおびき寄せて、眷属達が宰相ごと飲み込む。これをずっと繰り返している感じですね。双方で戦法的なものを交渉したわけでは無いみたいなのですが……』
「宰相の直感だろう。昔からそうだ。周囲をよく見ている」
『まぁ……そうですね。実際、宰相に襲いかかってる者達は、ことごとく彼らの宝の匂いを身に纏っているんです。だから眷属達も宰相を守りつつ、餌として動いてもらえる方が効率よく宝に近付けると考えています』
「宝、か……」
ハンス先生が眉間にシワを寄せる。
精霊すら気軽に侵入できない場所に彼らの『宝』が隠されてしまっている状態になっている。
どうにか取り返したいのはわかるが、その手段になかなか近づけないのは妖精にとっても相当なストレスだろう。
その宝へと近付ける鍵となるのがセシリアの腕輪……ふとセシリアへと視線をやると、先ほどルナから受け取った物を、他の子供達と一緒に興味津々になって眺めている。
棒の先に、可愛らしい動物の形を模したものが見える。
『あれは、魔法の飴細工ですよ。味は至って普通ですけど、見栄えがするんです』
私の視線に気づいたのか、ルナが説明をしてくれる。
どの動物が良いか、取り合いになっているようだが……。
まぁ、どの子も背伸びしてると思うほどに良い子に見えたが、やっぱり歳相応の子供なんだなと少し安心する。
子供達が飴を取り合っている声に、シュトレイユ王子が起きてしまって、さらに取り合いが激しくなって……あまりの五月蝿さにフィリーに飴を没収されるという事件があったが、今は渋々でもどうにか仲良く飴を分けれたようで、それぞれが必死に飴と闘っていて静かだ。
その間に大人達は、今後の予定を立て始めていた。
まずは『監獄』に侵入する事。
これができなくてはどうしようもない。
「無事に返してやれると良いんだが」
「無事って言うのかな?宝って遺体のことなのでしょう?魔物化してても無事っていうの?」
飴と格闘しつつ、眉間にシワを寄せながらユージアがハンス先生に聞いている。
ユージアは『監獄』からセシリアと脱出した経験がある。
彼らの『宝』だと思われる魔物化した遺体を見ているのだろう。
「相手によるだろう。妖精達にすれば、守るべき対象がどんな姿であれ、手元に戻ることを望んでいる」
「ネクロフィリアか何かですか…っ!」
「まぁ…それは言い過ぎだが……妖精でなくとも、亡くなったものをどうにか手元に取り戻そうとする者は昔から存在する。回復魔法があるんだ、すでに亡くなっていても、故人の部品さえ残っていれば、そこから大切な人を再生できないものかと考える者だって、過去にいくらでも居るだろうし、実際、居た」
ハンス先生の言葉に、子供達までもが、しんと静まり返る。
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