260 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
260、それは囮ではなくて餌なのでは。
しおりを挟む父さんは一通りハンス先生とセシリア、カイルザークに説教をしたあと、大きなため息を吐く。
涙目になってマントに包まれて抱かれている、3歳児の姿に縮んでいるユージアの背を優しくさすりながら、そっと下ろす。
ぶかぶかになってしまったドレスシャツの裾を引きずりながら着替えるためだろう、ユージアがキッチンへと走り出したのを確認すると、マントを広げて付け直す。
「そろそろ戻るが……呪いのこと、毒のこと、治療に関しての話は伝えておくよ。今後の予定に関してもハンスを通してくれたら、ヴィンセントの好きに動いてくれていい。あえて言うならレイ王子も同行の方向で。まとまって行動していてもらえると嬉しい」
「……まだ、手間取っているのか?」
ハンス先生が眉を潜めるように聞き返す。
反乱は鎮圧したはずでは?との疑問も浮かんできてしまう。
「いや…王宮、王城内はあらかた片付いたんだが、教会直下の暗部が煩い」
「そうか…」
暗部って暗殺部隊って聞いたけど……それを1人で対応しようとしている事自体が恐ろしいわけですが、双方ともさらりと話してしまう。
強いって羨ましい。
ふと、何かに気付いたかのようにハンス先生があらぬ方向へと視線を向けて、小さく頷く。
すると、ハンス先生の隣に霧が集まるようにして、その場に忽然と青髪の可愛らしい少女が姿を現した。
青い、丈の眺めのドレスを優雅に広げると、カーテシーをする。
「ああ、宰相。その事だが、水の乙女が手伝いを申し出ている」
「それは助かる…が、そちらの行動に支障が出たりは…しないか」
「あくまで水の乙女の個人的な手伝いの希望だ。むしろ彼女が暴走しないようにだけ、注意してやってくれ」
「わかった。ありがたい」
水の乙女、よろしく。と、父さんが笑むと、青い髪の少女も嬉しそうに笑い、姿が文字通り霧散する。
「ユージア、キミは当面の間、外での10代の姿は避けたほうがいい。暗部にターゲットとして手配書がまわっているようだ」
「わかり…ました。こっち来る前にも、襲われてるので、そうなのかな?とは」
着替えて戻ってきたユージアは10代の姿をしていた。
まだ少し顔が紅潮していたが、落ち着けたのか、涙目ではなくなっていた。
父さんはその様子を確認して、軽く頷くとルナに声をかける。
「じゃあ、そろそろ戻るよ。ルナ、頼む」
『は~い。……先ほどより少し移動したところに出ますから、足場、注意してくださいね』
そう言いながら、2人で部屋の出口へと向かっていく。
水の乙女も姿は消してしまったけど、きっと同行しているのだろうから、3人か?
その姿を見送りつつ、フィリーがポツリと疑問をこぼす。
「……にしても、あんな短時間で、よく父様を捕まえられたわね?」
『ああ、それは簡単…と言うか、今だけですよ』
テーブルに置かれた、お茶の入れ替えとお菓子の追加を持ってきていたフレアが反応した。
そのまま『今だけ』の理由を説明してくれるのかとみんなの視線が集まるが、フレアはドアの入り口をふいっと向くと、ルナがちょうど姿を現したところだった。
『宰相は、私の眷属達と共闘…?ちょっと違うかな?ずっと行動を共にしているんですよ』
「ああ、そういわれてみれば、私が父さんと合流した時も、黒い妖精達と一緒だった気がする」
ルナは『戻りました』と、にこやかな顔で笑むとセシリアに「お土産」と何かを渡しながら、フレアからのセリフを引き継ぐように説明を始めた。
『宰相が敵をおびき寄せて、眷属達が宰相ごと飲み込む。これをずっと繰り返している感じですね。双方で戦法的なものを交渉したわけでは無いみたいなのですが……』
「宰相の直感だろう。昔からそうだ。周囲をよく見ている」
『まぁ……そうですね。実際、宰相に襲いかかってる者達は、ことごとく彼らの宝の匂いを身に纏っているんです。だから眷属達も宰相を守りつつ、餌として動いてもらえる方が効率よく宝に近付けると考えています』
「宝、か……」
ハンス先生が眉間にシワを寄せる。
精霊すら気軽に侵入できない場所に彼らの『宝』が隠されてしまっている状態になっている。
どうにか取り返したいのはわかるが、その手段になかなか近づけないのは妖精にとっても相当なストレスだろう。
その宝へと近付ける鍵となるのがセシリアの腕輪……ふとセシリアへと視線をやると、先ほどルナから受け取った物を、他の子供達と一緒に興味津々になって眺めている。
棒の先に、可愛らしい動物の形を模したものが見える。
『あれは、魔法の飴細工ですよ。味は至って普通ですけど、見栄えがするんです』
私の視線に気づいたのか、ルナが説明をしてくれる。
どの動物が良いか、取り合いになっているようだが……。
まぁ、どの子も背伸びしてると思うほどに良い子に見えたが、やっぱり歳相応の子供なんだなと少し安心する。
子供達が飴を取り合っている声に、シュトレイユ王子が起きてしまって、さらに取り合いが激しくなって……あまりの五月蝿さにフィリーに飴を没収されるという事件があったが、今は渋々でもどうにか仲良く飴を分けれたようで、それぞれが必死に飴と闘っていて静かだ。
その間に大人達は、今後の予定を立て始めていた。
まずは『監獄』に侵入する事。
これができなくてはどうしようもない。
「無事に返してやれると良いんだが」
「無事って言うのかな?宝って遺体のことなのでしょう?魔物化してても無事っていうの?」
飴と格闘しつつ、眉間にシワを寄せながらユージアがハンス先生に聞いている。
ユージアは『監獄』からセシリアと脱出した経験がある。
彼らの『宝』だと思われる魔物化した遺体を見ているのだろう。
「相手によるだろう。妖精達にすれば、守るべき対象がどんな姿であれ、手元に戻ることを望んでいる」
「ネクロフィリアか何かですか…っ!」
「まぁ…それは言い過ぎだが……妖精でなくとも、亡くなったものをどうにか手元に取り戻そうとする者は昔から存在する。回復魔法があるんだ、すでに亡くなっていても、故人の部品さえ残っていれば、そこから大切な人を再生できないものかと考える者だって、過去にいくらでも居るだろうし、実際、居た」
ハンス先生の言葉に、子供達までもが、しんと静まり返る。
0
あなたにおすすめの小説
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる