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はじまりはじまり。小さな冒険?
262、診察なのかな?。
しおりを挟むルークは私たちを抱えたまま、手近な個室へと入ると中に設置してあったベッドにユージアを落とす。
……ユージアに抱えられていたカイルザークも一緒に転がり落ちたわけだけど。
先ほど入室した、姫の部屋ほどの豪華な作りでこそ、なかったが『使用人の部屋』という割には、シンプルではありつつもしっかりとした作りの調度品が置かれている。
「さて、私は今、片手がセシリアで塞がれているんだが……自分で脱ぐか、強制的に脱がされたいか選べ」
いや、あなた、片手塞がれてようが塞がれてなかろうが関係ないでしょ……。
と、思ったのはさておき、ルークはあからさまに怒っているといった表情で、ユージアを見下ろしていた。
「ユージア、キミの傷の痕を見たいようだから、素直に見せた方がいいよ?」
「えっ?あ……うん。セシリアに全部消してもらえたと思ってたのに。古い傷は戻ってきちゃうんだね……」
そう言いながら、ベストとタイを外し、ドレスシャツを寛げる。
私には、それだけで十分だった。
鎖骨より下、胸のあたりから腰のベルトの上まで、ミミズ腫れのようになった無数のケロイド状の傷痕が見えた。
「あら……結構はっきり戻ってきてるね、綺麗になってたのになぁ」
「うーん、これは……深いし、古い傷だね。かなり出血もあったんじゃないの?」
「……昔過ぎて覚えてない、かな」
「古いものほど、なかなか消えないから」
カイルザークの言葉に淡々と答えていくユージア。
深くなければ傷痕なんて残らない。
それこそ縫わなければならないほどの傷、もしくは放置されて悪化した傷。
……その、両方か。
あの『籠』の環境からして、衛生状態は最悪だった。
最悪だったからこそ、同じ境遇にあった子達を看取る…何人も、みおくる事になってしまったのだし。
魔導学園で洗いまくったユージアの身体の、あのとんでもない量の垢から考えても容易に想像がつく。
不意に私を抱き上げていたルークの腕に力がこもる。
そりゃそうか…日々のユージアへの態度が辛辣!とか思っていたけど、それでもやっぱり息子なんだね。
自分の子じゃなくても、これは許せないけどね。
「……全部、脱げ」
ルークの唸るような低い声が聞こえて、びくりとする。
「全部は……セシリアもいるし…」
ユージアはこちらを見て、困ったような笑みを浮かべつつ、頬を染めている。
あ、そうだった。
恥ずかしいよね!というかいろいろ差し障りがあるよね。
「全部脱がなくても、大体見えるよ」
「ちょっと!見えるって何?!」
「ん~臭い?かな?ルーク、傷は古いが切創……刺創が無数にある」
カイルザークの説明に、怒りがふつふつとこみ上げてくる。
切り傷と刺し傷の事で……刺し傷が無数にあるとか『籠』ってどんな環境だったのよ。
ルークの私を強く抱えている腕に、もぞもぞと動いて『降りたい』アピールをしてみる。
するとすんなり気づいてくれたのか、そっと降ろしてくれたので、そのままユージアの元へと近づく。
「ね?僕は、汚れてるって言ったでしょう?」
ポツリとユージアの悲しげな声が響いた。
汚れてなんかないのに。
「じゃあ、キレイにしてあげゆ。またうかんできても、ぜんぶ、けしゅ。ユージアはよごれてなんかないよ」
「この傷と同じだけ…人を傷つけてきたんだ」
……泣かないで欲しい。
その傷があるから泣いてしまうなら、全て消してあげるから。
そう、心から思う。
実際、泣いてはいなくても、ユージアの悲痛とも言える感情が私へと流れ込んできていた。
『花紋』の影響なのだろうか?
相手の感情がわかる、と言うのは結構大変なのかもしれない。
「それでも、ユージア……生きていてくれて、ありがとう」
ユージアは悪くないもの。
そしてその辛い環境の中でも、必死に生き抜いてくれて、ありがとう。
あの時『監獄』で助けることができて、本当に良かったと思う。
「けしゅよ」
「……今は、いいよ。これから出かけるんだから、魔力を使うようなことは控えておかないとね。……また動けなくなっちゃうよ?」
やっぱり困ったような悲しそうな笑みを浮かべられてしまった。
笑顔は、楽しい!っていう表情しか認めませんよ?
「しっかし、これだけ傷痕が酷いと、身体を動かした時に引き吊れたりとかはしてないの?」
「今まで違和感なくうごけてたから、そういうのは…なかったと思う。それに」
どんな言葉をかけていいのか分からずに、固まってしまっていた私を見ると、ユージアは手を伸ばして、私を抱き上げる。
「今は、痛いことなんて絶対ないもの。だから、大丈夫」
ぎゅうっと私を抱え込んでしまった。温かい。
私の視界は、ユージアの鎖骨あたりしか見えなくなってしまったのだけど、その体温が生きているという実感となって少し嬉しく感じる反面、少し違和感があって……。
「ユージアって……きんにくないね?あばらが、ういてる」
「ちょ……!どこ見てるの?!」
「いや、なんかゴリゴリしゅるんだもん」
「これからつく予定なのっ!しかも全然ないわけじゃないんだからね?!」
ないわけじゃない。そう言う割には、本当に何もないんだけどなぁと、思わず手で胸の辺りをぺたぺたと触っていると、腕を掴まれてしまった。
「っていうか、傷跡が見たかったんでしょ?筋肉は…って!ちょっと!やめっ…!!」
「……?なあに?どうし…えっ??」
私を抱え込んでいるユージアから布の感触が消えた。
いや、視界がシャツを寛がせているから、大きく広がった襟元から鎖骨が見えてたような状況だったのだけど、本当に一面肌色に……。
あれ?と思っているとユージアの悲鳴がこだまする。
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