私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

273、痴話喧嘩を観察してみる。

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「やだ!なんなの…羽のように軽いってやつじゃないっ!」


予想外に軽かったのか、セグシュ兄様が抱き上げたときのように、同じくタタラを踏みかけていたが、フィリー姉様は軽々と、フレアをお姫様抱っこにして、ヴィンセント兄様の後へと続いて移動を始めた。


「この子なら片手でもいけるわ」

「フィリー姉さん……なんかすごい力持ちに見えるよ」

「それ良いわね!…どう?強そう?」


眠ってしまったかのようにピクリとも動かないフレアを、軽々と持ち上げてダンスのステップを踏むかのように優雅にくるりとまわってみせる。
セシリアとよく似た柔らかな銀髪がふわりと広がるって、教会の天井付近から差し込む、ステンドグラス越しの色のついた光を受けては、キラキラと不思議な遊色をする。

そんな2人のやりとりを、少し呆れて見つめつつ、ため息混じりにヴィンセント兄様が呟く。


「それにしても…この二人に何があったんだろうな」

「ヴィンセント兄様がわからないのなら、私に分かるはずがないじゃないですかっ」

「そこ、胸を張っていう所じゃないから……」


セグシュ兄様まで、周囲を警戒しつつ、呆れた視線を送っていた。
そんな大人たちの会話の中、背後からクスクスと笑い声が聞こえる。
シュトレイユ王子だ。


「エルのお兄ちゃん達は面白いね。……兄弟が多いってだけで賑やかだよね」

「……だな、2人だけだと流石にここまで賑やかにはならないからな」


そしてニコニコと、セグシュ兄様がフィリー姉様に、とても自然な動作で足蹴にされてるのをみてさらに笑う。

そんな子供たちの笑い声をBGMに、ヴィンセント兄様がぶつぶつと考えをこぼし始めた。


「ああ、フィリー、すまない。弱音を吐いたわけではないんだ。ユージアはエルフとは言え生身の人間だ、突然倒れるにしても、いろいろな要因が起因しての…という考えが浮かびはするんだが、フレアは精霊だ。いわば魔力の塊が人の姿をしているようなものなんだよ。それが倒れて反応がないっていうのはどういう事なんだろうねって思ってね。……あくまで魔力の塊であるなら、倒れるのではなくて、姿を維持できなくなるのでは?と思ってたんだよ」

「……そういう事。まぁそうよね、つまり、精霊フレアとユージアという条件の全く違う2人が同時に身体に異常を起こしてしまったことに対しての違和感ってことね?説明としては理解できたけれど……やっぱり、理解できないわ」


フィリー姉様の足取りは、人を一人抱えてるとは思えないほどに軽い。
気づけばカテドラルの天井から差し込む、色とりどりの光が無くなり、いつの間にか所々には魔石のランプが揺れる、レンガ敷きの廊下を歩いていた。


「なんだそれ……まぁ、実際何があったのか聞こうにも、2人ともこれじゃ、どうしようもないし」

「……セグシュ。あんた本当に単純なのね。びっくりだわ」

「?」

「フィリー、いちいちセグシュに絡むのはやめなさい……」


一向に呆れた顔が抜けないヴィンセント兄様が、目の前に現れたドアを開けると、そこは既に『避難所』の室内だった。
ヴィンセント兄様は、そのまままっすぐベッドへと向かうと、ユージアをそっと寝かせた。


「それにしても…エル、よく2人の異常に気づいてくれたね。王子達も。状況の説明がとても上手にできていたよ。えらいね」


そう言うと、ヴィンセント兄様は目を細めるように笑い、気軽にそれぞれの頭を撫でる。
レオンハルトは少し恥ずかしそうに俯いてしまったが、広角は上がり……表情はとても嬉しそうに見えた。
シュトレイユはそのまま、嬉しい!とニッコリ。


「しかし、本当に反応がないわね…」

「姉さん……急病人にいたずらするのは、止めようよ」


ユージアに続いて、隣にフレアを寝かせていたフィリー姉様が、意識のないフレアの顔を指で突きまくっていた。
セグシュ兄様の制止の言葉に何故か、フレアへの悪戯が激しくなり、必死に止められていた。


「ここまで反応がないと思わず…」

「ダメっ!……というか、この精霊がダウンしたままだと、ハンス先生やセシリア達とも連絡が取れないんじゃないかな」


フィリー姉様の悪戯をしたい手と、それをやめさせたいセグシュ兄様の手とが、何かのゲームのように素早く攻防戦を繰り広げているのを見ていると、背後から小さなため息のような音が聞こえた。

その音に、フィリー姉様も気付いていたようで、セグシュ兄様の腕を派手に払い除けると、ベッド前から立ち上がりまっすぐレオンハルトとシュトレイユの前へ立った。


「もう…夕方近いものね。眠いなら少し寝てて良いのよ?お昼寝の時間よね?」


セグシュ兄様を前にした時とは全く違う優しげな表情で、声で、話しかけると有無を言わさず抱き上げて、ベッドへと連れて行ってしまった。


「ほら!あなた達も!レイ1人じゃ寂しいから、一緒に寝ちゃって?」


そう言うと、僕たちも問答無用でベッドへと誘導される。
誘導しながらも、先ほどの会話が続いていて……。


「まぁ、緊急ならハンス先生の精霊だっているんだから、大丈夫でしょ?」


……大人たちの会話を聞きながら、ベッドに寝かされて毛布をかけられると不思議と急激に眠くなっていった。
セシリアとカイルザークが戻ってきていないけど、先生と一緒なら大丈夫だよね?と思いながら……。

完全に意識が途切れる本当に直前、部屋に轟音が響き渡った。
そして目の前にはセシリアを咥えた、大きな……。
大きな獣がいた。


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