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はじまりはじまり。小さな冒険?

276、笑いが止まらない時ってあるよね。

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大きな口?赤黒い洞窟のようにも見える一点に、ぎょろぎょろと動く目玉が房のように連なって揺れている。

怖い。気持ち悪い。
この二人だけでもなんとか逃がせないだろうか?
……なぜかこの目玉を見ていると、そんな死を目の前にした感情が全て吹き飛んでいった。

目玉の動きがコミカルだから?それとも目玉の位置?
……いや、そもそも何を見るための目玉なのか?
背にも赤く光る何か…と思っていたものが、全身に散りばめられた目だということにも気付いたが、それは外敵を察知する為だろうというのは察しが行く。
が、喉の奥に揺れる目玉の意味は?
しかも葡萄の房のようになって、ゆらゆら揺れている必要はあるのか?


(なんであんな…視界だけでも酔いそうなところに、わざわざ目玉を配置する必要が?そう進化を望んだ理由は?)


きっと、極度の緊張状態から来る精神状態の異常かもしれないとは思いつつも、どうにも気になるし、さらには笑いがこみ上げてきて抑えきれない。


「……ふっ…あははは」

「?!…セシリア?どうしたの?」


突然の私の爆笑に、カイルザークが杖を構えてドラゴン(?)を見つめたままに、ぎょっとする。
なんて説明すべきかよりも、それの何がどう面白かったのか?伝えようと思って困る。
えっと、何が面白かったんだろう?

そう困ってるうちにも、私とカイルザークを抱えているルナが寄りかかる壁ごと抉るように、大きく裂けた顎だったものが上下の壁に突き立てられる。
視界はすでにドラゴン(?)の喉の奥しか見えない。

そのままパックン、ゴックンで終了だ。

流石にそれは困る!そう思って両の手に集めていた魔力を、魔法として放出した。


『ふぁいやーぼーるっ!』

「えっ……いや、なんか違うでしょそれ……」


即座にカイルザークの突っ込みが入ったけど、気にしない。
炎のボールだもん。
ちゃんと飛んで行ったもん。

ていうかそもそも、私は攻撃魔法なんて専門外なんだから、完璧な魔法を求めちゃいけないのよ。
本業であれば限界まで威力や精度を高めるために、形状はこうあるべきだとか、イメージから魔力の込め方、量まで、こと細やかに調整していかなければならないのだけど、そもそもその魔法を私は間近で見たことがない。
名前は知っていてもイメージ自体が存在しない。


(それにだよ、魔力のコントロールに難がある人間に、即興で攻撃魔法を操れという方が無理なんだから!)


とりあえず、ファイヤーボールっぽいものは、ぽよーんと緩やかに喉の奥へと飛んで行き、先ほど私を笑わせてくれた目玉の房に直撃をした。

強く投げつけるような勢いではなくて、文字通り、ぽよーんである。

私の投げたファイヤーボールは、目玉の房を火炙りに……しなかった。
ジューっと焼け焦げる臭いを、煙を上げながら、房にゆっくりと張り付いたまま沈みこんでいった。


「いや…確かに球状だけどさ……あれだと溶岩マグマとか言うんじゃ…っ」


目玉だから、危険な状況なのは見えてたはずなのに全く避ける気配がなかったなぁとか、そんな考えの中、カイルザークのぼやきが聞こえて…と途中で言葉が途切れる。
流石に痛さは理解したのか、喉の奥から強烈な臭気と液体とが吹き出してきたのだった。

一瞬、ドラゴン特有のブレス攻撃か?と焦ったのだけど、そうではなく。
どうやら悲鳴だったらしい。と言うことに気づく。
なぜなら、直後、身体を捻るようにもがきながら、壁に張り付くことすら放棄し、地面へと墜落していったからだ。


「全方位の障壁展開…きっつい…」


杖を構えたまま、肩で息をしてぐったりなカイルザーク。
この状態で次の攻撃を耐えることは、厳しいだろう。


「原材料、ゾンビなのに痛覚あるんだね…」

『セシリア…そこじゃない。関心すべきはそこじゃないよ』

「まぁそれはともかく…この次はどうしようか?相変わらずあのドラゴン(?)はドアの前で転がってるし……」


口蓋垂を焼かれる…まぁ聞いただけでゾッとするんだけど、それはドラゴン(?)も同じだったようで、地面に墜落した後、その場でごろごろと…のたうちまわっている。
もしできることならば、この隙に出口と向かいたかったのだけれど、その寄りかかる背の下に出口が存在していた。

時間的にも昼下がりからここにきている。
つまりこのまま長居していると、夜になり魔物がさらに活性化していくので、ただひたすらに私達が不利な状況になっていくのが目に見えているのだ。


『ん~、まず心配すべきはさ「この次は」じゃなくて「今」なんだよね…』

「と、いうと?」

『アイツ、僕達をひと飲み込みにしようと、上下の壁を抉ってたでしょう?…つまり』

「あ、周辺の壁ごと剥がれ落ちる?」

『そうそう。ほら、崩落が始まった…』


ずずず…と、嫌な地響きと共に、視界がゆっくりと下方へスライドしていく。
ルナはすぐに隣の、今いた場所と同じように飾り彫りのバルコニーへと飛び移る。
……同じ高さの横にずらりと同じ飾り彫りが多数あるのだ。

が、同じことを何度も繰り返している場合では無いのはわかっている。
しかし、他に足場にできそうなものが何もない。


『こうやって逃げてる間に、出口から少しでも退いてくれたら、少しは勝機がありそうなんだけどなぁ』


滞空中、もう少しで次の飾り彫りのバルコニーに着く!というところで、地上でのたうちまわっていたドラゴン(?)がこちらへ向かって飛び跳ねてきた。
間一髪のところで、ドラゴン(?)の爪をかわして、バルコニーに着地できたのだと思った瞬間、すごい勢いで視界が横に流れた。


「うわっ……ぎゃああああああっ!」


急速に身体が上下されるときの、内臓への重力を感じて思わず悲鳴が出る。
そして、さらに自分の身体がルナの腕による抱きかかえから、単純に上下から圧迫されている状態になっていることに気づき、自分の胸から下を確認しようとして絶叫となった。

黒い獣に喰われ…いや、咥えられていた。

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