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はじまりはじまり。小さな冒険?
301、side カイルザーク。春は恋の季節だけど。
しおりを挟む……あれから1年が経った。
面接の時のような大失態は今のところ、おかしてはいないはずだ。
シシリー先輩は1年間室長代理として過ごした後、魔道学園の院の卒業とともに晴れて今年から室長となった。
前室長はかなり高齢のエルフで、事実上の定年退職ということなのだそうだが、外見はとても若々しく溌剌としていて、どんなに頑張っても30代程度にしか見えないので、全く実感が湧かない。
本人は『爺をこき使ってはいかん!』と、事あるごとに高齢であることをアピールするのだが、外見が伴わないので誰も理解できず。
見事に長く伸ばされた白髪も……そう白髪ではあるのだが、その白髪も艶々と美しく照りを放っており、これもまた全くもって説得力が無い。
聞くところによると、そもそも生まれつきの白髪なのだそうで。
シシリー先輩を室長にと推したのも、この前室長の鶴の一声で決まったもので、周囲からの反発があるのでは?年上の研究員たちと揉める原因になるのでは?と色々と心配してみたが、全て杞憂に終わった。
(そもそも、研究員が同年代しか残らなかったんだよな。上級生は全て抜けてしまったし)
抜けた理由もあまりにも単純で拍子抜けするものだった。
次期室長の後釜を狙っていたから!というのも一部にはいたのかもしれないが、基本的には「前室長とハンス先輩の双方が、ここの研究室と関係がなくなってしまったから」という事だそうで。
……眼福がなくなってしまうのは辛いのだそうですよ?
そう夢見るようにうっとりと、頬を赤らめて熱く語る先輩……その言葉に同意と言わんばかりに、深く頷く先輩方……そのメンバーは女性だけでは無いのですが!?
エルフの外見は……性別問わず、そこまで魅力的なものなのかと、呆れるを通り越して、気の抜けたため息しか出てこなかった。
『やだぁ!なんか勘違いでもしてそうだわ!女の子の素敵な人っていうのは「観賞用」と「本命」とがあるのよ!……カイルザークくんも可愛いから「観賞用」にされないように頑張りなさいね?』
『は、はい?』
意味がわからずに首を傾げていると、親しみを込めた笑顔とともに「やっぱり可愛いわね」と、頭を撫でられてしまった。
女の子って言ってるけど、頷いてた先輩たちって…メンバーに男性混ざってましたからね?!
……余計に訳が分からない。
ちなみに、ルーク先輩は元々この研究室の研究生…いやシシリー先輩と同じ研修生だった。
ただ、この研究室と同時に志願していた、騎士団への入団が決まったために、シシリー先輩とは道が分かれてしまった。
そんなこんなで、先輩たちはそれぞれの希望する研究室へと移動していき、私と一緒に面接を受けた仮研修生たちも、進学とともに正式加入したのは私を含め2人だけで、さらに今年の仮研修員の応募は0だった。
その結果に「去年が豊作過ぎただけだよ」と周囲はさらりと笑っていた。
そんなものなのだろうか?
前室長は「兼ね予想通り!」と満足そうにしていたし、シシリー先輩とともに残った先輩方もさして気にしている様子もなく。
去るものを必死に引き止める事もなく、新規の勧誘に力を入れる事もなくて、案外あっさりしているものなんだなぁという印象だ。
(まぁ人員の減少でこの研究室が困ることは特に無いのだけど)
あえて言うのなら、手分けして作業すべき研究があったときに人手が足りない分、時間がかかるか、人を雇うことになるので、予算が少し痛いかな?と、言ったところらしい。
さて、前方が一気に視界が開ける。
ここは学園内の中央部に存在している、広大な中庭だ。
魔導学園自体はその大半を地下施設で構成されているのだけど、ここのように地下にいるという事を、全く感じさせないような様々な工夫が、なされている。
この広い中庭や、数多く設置された大きめの窓等からの光源もその一つだ。
中庭をぐるりと囲むように、各施設の窓や、ステンドグラスが並び……なぜか真上を見ると、天井ではなく青空が見える。
魔法なのか魔道具の効果なのか、人工的な雰囲気を一切感じさせない青空だ。
青々と旺盛に育つ、芝と牧草、ハーブ群の小道を進み、薔薇のアーチを潜った先にある小さなテラス席に腰掛ける。
周囲をゆっくりと見渡してから、ひと息つくとテーブルに置かれた、小さな魔道具でもあるメニュー表を開き、軽食を注文する。
(……今は、中庭が一番静かな場所だから)
進学とともに周囲のクラスメイトたちは華やいで、服装までお洒落になって日々を楽しそうに過ごしているわけだが。
(春は恋の季節という種族が多いから、華やぐのは当たり前なんだけど……人族が一番はしゃいでいる印象なのが、とても不思議だ)
魔導学院という学園内でも成人さえしていれば、そういう色恋沙汰は特にお咎めも何も無い。
大学部、大学院生に関しては面倒な事に、さらに盛んになる。
なぜなら、家柄や血筋等にうるさい、貴族の子息がほぼ存在せず……本当の意味での身分差別のない環境になるからだ。
年齢的にも、適齢期になる種族も多くなるのも原因だろうか。
そうなると、学園内の施設のそこここで、様々な恋愛模様が繰り広げられる…のは良いんだけど、正直邪魔だったりする。
ドアの前で戯れてたり……ね。
作業進めようにもクラスメイトがそんな状況だから、効率は地の底まで落ちてしまうし。
こちらの評価にまで影響するから勘弁してほしい。
(せめて時と場所を弁えてくれ!と、思うのだけど、頭が華やいでしまった人たちには、全く通じないようだし)
多少の苛つきを感じながら、テーブルに置かれた軽食を摂り始める。
ちなみに私には、恋の季節は関係ないようだった。
どうにも気になってしょうがないという『番』の存在も学園内にはなかったし。
(まぁそうか、番が同族だとすれば、魔力持ち自体が獣人には稀だから。魔導学園内にいる事自体がまず、無いか)
あえて気になる匂いというのなら、日に日に強くなっていくシシリー先輩の、花のようなとても良い香り。
幼い頃から彼女に感じていたこの香りは、どうやら文字どおり『花』の香りだったようだ。
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