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はじまりはじまり。小さな冒険?
434、月夜の祈りと魔法と。
しおりを挟む『エルの里に、安らかな眠りを。再生の息吹を…』
響くユージアの声。
呼応するかのように突如、エルネストの周囲から、金色の蛍のような淡い光の粒が、弾けるように姿を現す。
「なに…これ……?」
「フレアに教わったんだよ。次の人生はもっともっと幸せになれるから、早く生まれ変わっておいで!っていうおまじない。……あっ」
ユージアへ、父様から鉄拳が飛んだ。
拳骨、ってやつですね。
多分『刺激するな!』って意味なのだろうけど、父様の無言の教育的指導は…初めて見たわ。
ちなみにそのユージアの本当の父親であるルークは、眉間を抑えるようにして、首を振っていた。
(……ユージア、思いっきり呆れられてるよっ!?)
そんな状況に、エルネストはくすりと笑みを浮かべた。
泣き笑いみたいになってしまって、細められた瞳からは、またもや涙がぽろぽろとこぼれ出す。
エルネストの周囲を優しく照らし出すように漂っていた光の粒たちは、徐々に高く高く舞い上がりはじめる。
……月の魔法だ。
とても明るい満月の夜に、月の光を命として、子が生まれて。
何も見えない新月の夜に、尽きた命を、月の光として還す。
──還った光は、また新たな命となって廻る。
生前の強い感情を持っていると、重くて月まで飛べない。
飛べないばかりか、重すぎて闇に沈んでしまう命へ、悲しみを癒す月の魔法だ。
名残惜しそうに、ふわりふわりとエルネストの周囲を舞っては、月へと向かって飛び立っていく金色の蛍のような光の粒たち。
ぽろりぽろりと止まらない涙を拭いながら、エルネストはそんな光の粒たちを見送る。
「うん…幸せで、いて…ほし…いっ」
「……あとで、フレアに教えてもらおう?エルがやってあげたら、もっと喜ぶ」
頭を押さえながら、痛みで涙目になっているユージアが笑いかける。
「う…んっ…」
ユージアに釣られるように、笑みを浮かべたのかもしれない。
頷きながら顔を歪めると、ぽろぽろと止めどなく涙がこぼれ落ちていった。
そのあとは、小さくなるようにうずくまると、みんなに背を向けてしまった。
(泣いているのは一目瞭然なのだけど…必死に隠している)
……私には、必死に声を抑えながらそれでも悲しみを抑えられなくて…というその仕草が、どうにも切なく悲しく見えて、胸が痛んだ。
(もっと、声を出して泣けばいい)
前世の私は子育てのベテランだった!というわけではないけど、それでも自分の子や孫、その友達が泣く時、これくらいの歳の頃なら、うるさいくらいに声をあげて泣いていたのを覚えている。
それを無意識にでも、抑えよう、隠そうという行動に出るということは、こんな小さなうちから、そうやって感情を抑えるようにして生きてこなくてはならなかった環境にいたという事だ、と考えが至ってしまい、胸が締め付けられる。
……その光景こそが、私には悲しくうつる。
******
「セシリア、代わるかい?」
静寂の中、暗闇からドアの開く音とともに、そっと抑え気味で優しげな、父様の声を耳が拾った。
あのあと、小さくなって泣いている姿があまりにも切なくて、耐え切れずにエルネストを抱え込んでしまった。
ぎゅっと抱きしめると、最初こそ抵抗したが、すぐに抵抗する腕の力が抜けて、そのまま泣き出した。
悲しみを理解することは、難しいけど、温もりくらいなら。
もう、一人じゃないよ。怖くないよ。って教えてあげたい。
……なんてね。
そんなことより何より、反射的に身体が動いてただけ。
(子供は特にだけど、こうやって誰かの温もりがあったほうが、安心できるから)
フレアのイタズラで成長してしまったこの体格差が、こんなタイミングで役に立ったと思うと、どうにも微妙な気分になってしまうのだけど、でも、よかった。
人の痛みを理解することは難しいけど、寄り添うことはできるから。
そんなこんなで、エルネストの背をさすりながら、ぼんやりと星を眺めていた。
気づけば、部屋からは誰もいなくなっていて。
あ、いや、ゼンナーシュタットはいた。
なんだか無言のまま、ずっと何かを考え込んでいて、存在感が皆無だったけど、いたよっ!
そんなゼンナーシュタットの説明によると、父様はカイルザークを小脇に抱え、ユージアの腕を掴むと、ルークを伴って、建物側の奥へ……。
今は、サロン兼、寝室部分のほとんどが満天の星が見えるような、半屋外になっているんだけど、そちらとは反対側の個室が設置されている方へと向かったようだった。
なので、父様が戻ってきたということは、もちろんカイルザークとユージアも解放されたわけで……。
「疲れた……ユージア、大丈夫?」
「僕も、もうダメ……」
2人ともふらふらと、父様の影から現れるように姿を見せると、そのままベッドへとダイブしてしまった。
……眠気が限界だったらしい。
どうやらユージアとカイルザークの2人は『ちょっと手伝え』と、父様がルークから受け取った、山のような書類の処理の手伝いをさせられていたらしい。
「いやぁ~助かった!予想外に2人とも優秀だった!また頼むよ!」
「……意外に使えたな」
「意外どころかっ!…カイは文字は拙いが、しっかり読めてるし、ユージアは読み書き完璧だ!不満はないよ?」
とても満足げに笑う父様と、相変わらず無表情なルーク…いや、口元が少し笑ってるかな?
と、いうか…この2人は真面目に、公務を幼児に手伝わせてしまったのだろうか……。
「子供に手伝わせる書類じゃないでしょ……」
「そうか?字が読めるなら、カイにだって知っておいて損はない内容ではあるんだぞ?」
ベッドに突っ伏したまま、枕にたどり着くと顔をすりすりとしながら、ぶつぶつと文句を言っているカイルザーク。
どんな書類だったんだろう……。
いつもならゆらゆらと、緩やかに揺れているしっぽも、完全に脱力中なのか、今はピクリとも動かない。
「……なかなか優秀だったな。慣れれば風の乙女並に使えるようになるかもしれん」
「お駄賃が出るなら考えるっ!難しすぎて頭が痛いよ……」
2人のぐったりとした様子に、くすくすと笑いながら発せられたルークの微妙な褒め言葉に、ユージアが遠い目をしていた。
「頭が痛くなるような内容の時はだな、無心になって処理すれば良いんだ」
「「「は?」」」
父様のとんでも発言に、全員の時が止まった。
ルークまでもが、呆気に取られている。
そんな周囲の表情を他所に、少しだけ真面目な顔になる。
「大丈夫だ。こういうのは多少おかしくても、ハンスがきっちりと帳尻を合わせてくれる」
「……なるほど。そういうことなら、たまにはチェックをやめてみるべきだろうか?」
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