私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

438、喪失の悼みと、夜明け。

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「でも、亡くなったなんて、聞いてなかったよ?」


 聞いてないどころか、様子の変化に気づけもしなかった当時の自分に…ああ、それでもシシリーわたしは当時小学生か…。
『気づけ!』と言いたいけど、わからないよね。

 自己嫌悪に陥りそうになって、思わず吐いたため息で、エルネストの耳の長い毛が月明かりにきらきらとしながら、揺れる。


「そうだね…言わなかった。母親が亡くなったのを知った時だって、エルほどじゃないけどショックだったし、すぐ里に戻ろうかとも思ったけど。でも、それよりも…僕は、みんなの傍にいる事の方が、嬉しかったから」

「カイはすごいね……色々考えてて」


 私には…『母親の記憶』はあまり無い。
 今までの転生の中で、両親の姿は無かった。
 知っているのは、前世にほんの母親と、今の母親。

 前世にほんの母親に関しては、幼い頃に亡くなるなんて事はなく、持病はあったものの、しっかりと大往生だった。


(母親の死を知っても、取り乱すこともなく『頑張ったね。お疲れさま』としか言葉は出てこなかった)


 ああ、ショックはあったのよ?
 やっぱり悲しかったし。
 でもね、もう私も独り立ちして、自分の家族もいたし、きっとエルネストの悲しみとは違うと思うんだ。

 それは愛情の加減と言うわけではないのだけども。
 母親が嫌い、というわけでもないし。

 エルネストのように小さな子供の『母親的存在』は子供にとって『世界の全て』だから。
 そして、当時の私の『母親の存在』は、自分を産み、育ててくれた大切な人ではあるけれど『私の世界の全て』では、無い。

 多分、その違い。

 ……当時、独身で母親と同居していた歳の離れた末の妹は、ずっと泣いていたし。
 いつも一緒にお出かけしたり、ちょっとした小旅行に行ってみたりと、母親とずっと一緒にいたから。

 近距離別居の、結婚し子育て真っ盛りの、中の妹がヤキモチを焼いて、私に愚痴電話を延々とかけてくるくらいには、母親は末の妹の世界の大半を占めていた。

 中の妹も泣いていたが、私は泣かず。


(そういえばあの時、妹たちに『冷たい!恩知らず!』とか、軽く八つ当たりされたりしたんだっけ)


 思わず、苦笑いが浮かんでしまいそうになるのを、こらえる。
 正直、泣くより…葬儀の手配や、死亡の書類…お金の管理等々、そちらに奔走していてそれどころではなかった!とも…少し言い訳はしたかったな。

 死亡から火葬するまでの手続きだけでも、テレビドラマなら一瞬で終わっちゃうようなシーンでも、実際はものすごく煩雑はんざつな手続きだらけなんだよ……。

 っと…思考が暴走してしまった。

 でもさ、やっぱり、幼い頃に親を亡くすのは…精神的なダメージが大きいと思うんだ。
 それを、1人で乗り越えたカイルザークは、頑張ったと思う。


「えらいよ、本当に」

「……褒めても、なにも出ないよ?」


 少し、はにかむような、照れている声の色に変わる。
 ……直後に『いい加減、重いっ!』と、再度ゼンナーシュタットの毛布の中に、引きずり込まれそうになって、すごい勢いで逃げていく姿に、思わず笑ってしまったけどね。


(……本当に、こんなに可愛いのに、どうしてそこまで我が子を嫌えるんだろうか)


 今、抱え込んでいるエルネストにしてもそうだ。

 思わず抱える腕に力がこもってしまう。
 無意識に、その柔らかな髪、そしてひょっこりと顔を出すケモ耳とを優しく撫でる。

 この銀にも近い淡い藤色の髪の色が、彼らの種族では特異だった、というのは聞いた。
 それが『この子の個性だ』で、済まなかったのだろうか?

 それほどまでに、種族内で忌み嫌われる容姿だったのだろうか?
 子を守り切れないほどに、母親を取り巻く環境からの圧が強かったのだろうか?


(想像つかないし、そもそも理解もしたくはないけれど)


 非難は…きっと、できない。

 ただ、一つだけ思うのは……感謝だ。

 殺さずに、いてくれてありがとう。
 ここまで、育ててくれてありがとう。


(……今までの私なんて、追い出されるどころか、殺されてたからね)


 シシリーの時は、死ぬ直前に助けられた。
 そのまま魔導学園へ保護されて…あれ?

 そういえば、私は…『なに』から、助けられたのだっけ?
 ……『誰』に?どうやって?

 歳かしら?
 自分が助けられた時のことを、覚えていない。
 でも、助けられたのは覚えてる。

 とても辛かったはずなのに、全く記憶に、ない。
 あれ……?






 ******






 昨日は、考え込んでいるうちに寝てしまったみたい。

 ぼんやりと広がった視界には、いつの間に戻ってきたのか、隣には寝ている父様の大きな背が見えた。
 腕の中にはエルネスト……って、あれ?
 私、縮んでないじゃない。

 ……まだ、お姉さんのままだった。


 朝日までもうすぐ、という感じの白み始めた空が目に入ってくる。
 まだ、ぎりぎり星の光も存在する。
 日の入りを示すオレンジと夜空の藍の色と、それに混ざる空の白とで、えもいわれぬ表情を見せる、この時間帯の空は、何とも幻想的で好きだ。

 日の出が始まると、空の色は目まぐるしく変化する。
 あれほど世界を埋め尽くしていた美しい星たちの光景は、元から存在していなかったかのように、幻のようにその姿を消してしまう。

 天蓋のゆらりふわりと風に揺れる、シフォンのようなカーテン越しで見つめる夜明け。


「ぅ…ん?…朝?……うわぁああっ?!」


 私の身じろぎでエルネストを起こしてしまったみたいで、胸に顔をすりすりとしていて……ふと動きが止まったと思った瞬間、叫びと共にじたばたとし始めた。


「…あ?…朝か。セシー、おはよう…姿は…戻ってないね?」


 その振動で、隣に寝ていた父様まで起こしてしまったようで、大きな背が動くと、こちらへ向き直った。


「えっと…セシー?…エルが、もがいてるから、そろそろ解放しなさい……」

「はい……」


 顔を無意識にだろうけど、擦り付けてくる仕草がとても可愛らしくて、思わず私もエルネストの額に頬をすりすりとしていたら、父様の少し呆れた声をもらってしまった。

 残念!
 でも、なかなかに幸せな時間でした。


「可愛かった…!」

「えぇと…。兄だからな?一応、義理にはなるが、エルはセシーのお兄さんだからね?……そうやって襲っちゃ、いけません……」


 父様、弟だったら良いのかしら?
 なんの気なしにカイルザークに視線をやると、両の手を顔の下に綺麗に揃えて、小さく丸くなって寝ている姿が見えた。

 ぽよぽよのぷっくりした頬の下に、揃えて添えられている小さな手。
 やだ、可愛すぎ。
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