私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

439、朝日と、お着替え。

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 拘束の力を抜くと、私の腕からものすごい勢いで抜け出していくエルネスト。
 ふわふわの淡い藤色の髪の毛が、逆立っちゃってるよ?

 いつの間にやら、可愛らしいケモ耳としっぽは、跡形もなく、しまわれていた。

 父様も、エルネストと一緒に起きて、昨日の夜にルナが用意してくれていた衣類に袖を通す。
 まだ、エルネストは貴族の服装に慣れないのか、ボタンだらけの装飾に戸惑って、父様に直されつつの着替えとなっていた。
 可愛い……。


(うん、子供の着替え風景って、あんなもんだよね)


 一生懸命に着てるんだけど、どうにもうまく着れなくて、頭が出なかったり。
 ……そりゃ、袖から頭は出ませんよ…とか、ね。
 頑張ってるんだけど、手を出さずにはいられなくなる程に、可愛いんだ。

 ぷくぷくふにふにの小さな手は、予想外に無器用で。
 とにかく、可愛い。






 ******






 着替えという、なごみの風景に、思わずこぼれる笑み。

 大人の手のひらで、全てを覆えてしまうほどに小さな背に、幼児特有のぽっこりお腹とか、なんかもう可愛すぎる。


 隣で着替えていた父様も、ぴったりめのドレスシャツに袖を通した時、予想外の光景を目にしたし。
 ……すごかった。

 布越しに浮き上がる、背の筋肉。


(しっかりと筋肉の羽が見えましたよ?!)


 エルフのルークといい、父様といい、魔術師団の団長たちはスリムだと思っていたけど、しっかりと筋肉があるんですね……。
 細マッチョって、こういうことを言うんだろうか?

 日々の鍛錬、頑張ってるんだろうなぁ。


「どうした?」


 父様の声に、はたと我に返る。

 ……野郎の着替えを見て、にやにやしてる令嬢とか……どう好意的に見ても、単なる変態ではなかろうか。

『寝ぼけてた』と言い訳をするにしても、自分の行動の怪しさに、ふるふると急いで顔を横に振りながら……戦慄していた。


「に…にゃんでも、にゃ、ない!」

「ぶ…っ。お姉さんになってるのに、噛むのか…」


 笑われたって良い…変態行為に気づかれてなければ…っ!!


「見た目は成長してても、やっぱり中身はいつものセシーなんだなぁ……」


 と、くすくすと笑っている父様。
 ああ、いや、気づいていないようで、何よりです。

 ……自分の父親の、筋肉に見惚れてたとかね。
 うん、だめだ。

 でも、綺麗な筋肉だった。
 筋トレをしてつけた筋肉ではなくて、実践でついたのだろう、無駄のない筋肉。
 私も鍛えたら、つくのかな?
 欲しいな。


(あそこまでムキッとしなくて良いから、体型維持ができるくらいには、欲しい)


 筋力が落ちるとね、姿勢が自然と悪くなるんだよ。
 だから、老後は意識をして背筋を伸ばしていても、曲がってきちゃう。

 若いうちから鍛えていて、筋肉がある人の方が、綺麗な姿勢を維持できるんだって、聞いたから。
 私も頑張って鍛えよう。

 なんか、父様の隣で、青い顔で怯えるエルネストと目が合う。

 もしかして、私に怯えてる?
 もしかして……バレた?!






 ******






 私も上体を起こして、周囲を見渡す。
 そういえばゼンナーシュタットがいない。

 カイルザークの可愛らしい寝姿が見えるってことは、その手前にいた、ゼンナーシュタットはどこへ行ったんだろう?

 ちなみにその奥には、ユージアとシュトレイユ王子とレオンハルト王子。
 みんなすやすやと、気持ちよさそうな寝息を立てているのだけど、1番端で寝ているはずのルークの姿も無かった。


「ああ、セシリア。おはよう……飲むかい?」


 簡単に木が組まれた屋根続きの先、キッチンの内装を変えて作った食堂風カウンターの奥から、紅茶のセットを乗せたカートを押して、ゼンナーシュタットが姿を現した。

 ゼンナーシュタットはすでに着替えを終えていた。
 柔らかな金の髪にアクアマリンの瞳によく似た、濃青の制服の一揃えが、よく似合っている。
 シュトレイユ王子の『少しだけ成長した姿』を借りているゼンナーシュタットだ。


「……セシー。起きるなら、着替えなさい」

「はい……?」


 1人だけ女の子だからと、寝る場所を気にしていた父様が、この場で着替えろという。
 さっきの逆で、私の生着替えをご披露しちゃう事になっちゃうのでは?と少し焦ったのだけど……。

 まぁ、隠すほどのものは何もないけどね!

 あ、でもそんな未発達な女の子を好む変態も、いるんだっけ?
 うちの家族や、王子たちが(まだ寝てるけど)そういう性癖の持ち主じゃないことを、祈りつつ着替え中の父様の近くに寄る。

 綺麗に小分けにたたまれて置かれている衣類に視線をやり『ここにセシーの分も着替えがあるぞ』と、教えてくれた指の先を見て、納得した。


 私が着ていたのはパジャマっぽいけど、インナーのドレスとしても使えるタイプだったようで。
 あとは、上にオーバードレスを羽織るだけで良いように、準備がされていた。


(このチョイスもきっと、セリカが考えてくれてたんだろうなぁ…感謝感謝!)


 白いインナーのドレスに、藤色のオーバードレス。
 まぁドレスというよりはワンピースって言ってしまった方がわかりやすいかな?
 ドレスはドレスでも、子供向けだから、丈が膝下くらいだし。

 皮のブーツが編み上げになっていて、うまく結えずにいると、父様が笑いながら綺麗に結い上げてくれた。

 今のセシリアわたしは小学校5年か6年生の体格だから、そろそろドレスの裾が長めになってくる。
 ブーツもスタイル重視であれば、少しヒールがついたものが多くなってくる…のだけど、中身は3歳児だからね?

 ちゃんと、ヒールのないブーツを選んでくれてあった。
 ありがたい。


「ありがとうございます」

「さぁ、行っておいで。ただ……朝ご飯前だから、食べすぎないようにな?」


 父様の注意もそこそこに、うんと頷いて、ゼンナーシュタットのそばへ向かう。

 いつの間にセットしたのか、ゼンナーシュタットはカウンター近くのテーブルセットの椅子の上に立ち、お茶を入れ始めていた。

 流石にユージアのようにすんなりと…は、いかないみたい。
 5歳児の体格だから、身長やら、腕の長さやら、スマートに動くには色々と足りないもんね。


(それはそれで、頑張ってお茶を入れてくれているという、あどけない雰囲気が可愛くて…思わず見入ってしまうのだけど)


 その表情はとにかく上機嫌で、にこにこと今にも鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だった。
 昨日までの、険しく不機嫌なゼンナーシュタットは、どこへ行っちゃったんだろう?
 まぁ、機嫌は良い方がいいけどね。
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