私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

440、大好きなお茶と、不協和音。

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「どうぞ。好きでしょう?」


 そう言われて……テーブルに並べられているお茶菓子クッキーと、紅茶を目にして……少し嫌な予感がした。
 どストライクに好物がそろったメニューなのに、大きな違和感と、嫌な予感。

 頭の中で『警戒』の鐘が鳴り響いている。


「ありがとう。いただきます」


 にこにこと対面に腰掛ける、ゼンナーシュタット。
 その視線は何故か、じっとお砂糖を見つめている。

 ローズヒップティーにレモンをたっぷり。

 お砂糖もたっぷり…と行きたいのだけど、今日は食事前だからお砂糖はスプーン1杯で良いかな?
 ……シシリーいつもなら、4杯は軽く入れていたのだけど。

 あれは、研究・実験と頭を使いまくって、カロリー不足の茫然状態を防ぐためでもあったから、今は必要ない。


(……味を楽しむ、と言う意味では有用だけどね?甘酸っぱいのは大好きだし!)


 私がお砂糖を入れ終わったのを見ると、ゼンナーシュタットは小さく息を吐いた。
 少し、残念そうに。

 うーん、やっぱり今日も引き続き、不機嫌さんだったのだろうか?


「もう少し砂糖…入れた方が、甘くて美味しいよ?」


 予想外に甘めを勧められたけど『要らないよ』と首を横に振る。
 あからさまにガッカリの表情になったゼンナーシュタット。

 今までは、にこにこ笑顔の可愛い子だったのに。
 ここのところみたいに、眉間に皺をよせて、また考え事をしているみたいな表情に戻ってしまった。

 私の方こそ残念な気持ちになってしまって、思わず小首を傾げていると『なんでもない』と、薄く笑みを返してくる。
 いや、なんでも、あるでしょう?

 本当に、どうしちゃったんだろう?






 ******






「ねぇ、僕の種族ってね。すごく長命だから、成長のために身体の更新をする時があるんだ」

「こ、更新?」


 無言のままお茶を飲み始めたと思ったら、唐突に会話が始まった。

 徐々に淡く日がり始める、朝の空を景色を、パノラマ状態で眺めながら飲む紅茶とか、滅多にない体験だものね…と、ぼんやりとしていたところだったので、びくりとする。


「そう。更新。さらに身体を大きく成長させるために、脱皮を繰り返す生き物がいるね?……あんな感じに、僕の種族は、数百年おきに身体の更新をするんだ」


 両手を頬に当てて、軽く肘をつきながら、こちらを見つめている。


「季節ごとに起こる、カイたちのような換毛期もあるけどね……「更新」が、一番効率よく成長できる手段なんだ」


 にこりと笑いながら話す。
 その様は、とても生まれたばかりの子が喋る内容にはとれなくて。

 頭の中で『警戒せよ』と警鐘が、鳴りまくっていた。


「ちなみにだけど、その方法はいくつかあって。僕らの種族だと、自らの分身を卵として産む場合と、自分の属している血族の子として、生まれ直す場合がある……今回の僕は後者なんだけどね。これって戯曲なんかでよくある、転生みたいでしょう?」


 にっこりと笑うと、ポットに手を伸ばし、新しく紅茶を入れ始める。
 新しい紅茶は、普通の紅茶で…ああ、うん、えっと、高価な紅茶ってさ、香りはいいなってのは理解できる。


(昔から…ある意味、飲めれば良い!ってところがあったから。その香りや味で、産地や『この茶葉は当たり年のものだね?』とか、そんな薀蓄うんちくを傾けれるほどの興味は、無かったんだよなぁ)


 だから、全くもって詳しくはないのよ。
 紅茶は好きだけどね。
 わかるのは、ハーブティーか紅茶か。
 今回のゼンナーシュタットが淹れているのは、紅茶。

 お湯で茶葉を遊ばせている時間が、少し長めかな?と。
 ……まぁ小さいから、手際よく淹れられないだけかもしれないけど。
 ちょっと懐かしい淹れ方だった。

 さらりとレモンを浮かし、ひらひらと舞わせて、すぐに取り出す。
 うん、私とは全然違う、とてもお上品な飲み方だね。


シシリーわたしは、強い酸味が欲しいから、レモンのスライスを潰してみたり、そもそもレモン汁・もしくは絞れる形状のレモンを……頼んでたもんなぁ)


 そんな一通りの動きを、ぼんやりと見つめていると、ゼンナーシュタットは嬉しそうに、口元をほころばせながら、紅茶を手にとる。


「実際、この方法で身体を更新した者を、僕たちの種族間では『転生体』と言うんだけどね……僕は今回、初めてこの方法で身体の更新をしたんだ。けど、これがね、初体験なだけあって、色々大変だったんだよ!」


 言葉の後半から急に、目をきらきらと輝かせながら、楽しげな口調に変わっていった。
 もう、この雰囲気になると、シュトレイユ王子の姿を借りてるから当たり前なのだけど、シュトレイユ王子にしか見えなくなってくる。


(本当のレイは、笑顔のとても可愛らしい子だからね)


 さて、ゼンナーシュタットの話によると、元々、何度かは『自分の分身を産み落とす』という手段で、身体の更新をしたことがあったのだそうだ。

 その場合は、その分身が卵から孵ると同時に、意識も機能も全て分身へと切り替わり、目の前には以前の身体…自分の亡骸が、転がっているという状況になるのだそうだ。

 まぁ亡骸といっても、生身の肉体が転がってるわけではなくて『大きな、魔石化した以前の身体』が、転がっている状況になるのだそうだけど。


(生まれ変わるにしても…目の前に、以前の自分の遺体が転がっている光景とか、イヤだなぁ……)


 魔石化……つまり、分身に移行しきれなかった魔力の残りが、結晶化しているモノなので、生後3日から1週間ほどかけて、その魔石化した自分を、ただひたすらに吸収していくのだそうだ。

 ただ、今回に関しては『自分の属している血族の子として生まれ直す』という方法を取った。

 しかも初めて!

 そうしたら、方法ごとのメリット・デメリットを考える以前に、全く状況が違っていたとかで、ひどく混乱してしまったのだという。


「いやぁ。生まれたてが、文字通り『生まれたて』でさ……。生まれてすぐは分身の時みたいに意識がはっきりどころか、本当に赤ちゃんだし。今まで当たり前にしてた行動が、何もできなくなってるし……困った困った」


 笑いながら、そっと肩をすくめてみせている。
 一見、楽しげに話しているけど、どうしても一緒に笑って聞ける気分にはなれなくて、私は、ただ呆然と聞き入っていた。
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