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終章
しおりを挟む――それでも、選んだ先で
◆ 旅の途中(静かな共生)
旅は、長く、静かだった。
アーヴィスは剣を持たず、名を伏せた。
リュシアンは花を育て、言葉を少しずつ増やした。
二人の距離は、一定以上縮まらない。
触れれば壊れるものがあることを、互いに知っていた。
夜、焚き火を囲みながら、リュシアンが言った。
「……エリオスは、きっと怒らない」
「なぜそう思う?」
「怒る人だったら……最初から、あなたを憎めって、言ったはずだから」
アーヴィスは、その名を否定しなかった。
それが、彼に許された、唯一の敬意だった。
その夜、二人は初めて、同じ毛布を分け合った。
触れ合わないまま、背中越しに、同じ温度を知った。
◆ 変化(恋愛に至らないまま)
年月が流れた。
リュシアンは、ある辺境の町に小さな庭を持った。
子どもたちに花の名前を教え、季節を待つことを覚えさせた。
アーヴィスは、彼の影だった。
護り、働き、決して前には出ない。
ある日、誰かが言った。
「ご夫婦ですか?」
リュシアンは、即答しなかった。
「……違います」
アーヴィスは、それを受け入れた。
だが夜、リュシアンは続けた。
「でも……一緒にいる理由は、説明できない」
それは、愛ではない。
だが、共にいる選択だった。
手を取ることは、まだない。
それでも、同じ墓地に眠る未来を、否定しない程度の距離。
◆ 独白(アーヴィス)
――もしも、神がいるなら。
私は、罰を望まない。
救いも、赦しも、いらない。
ただ、この人が、
私の存在を理由に、
生を嫌いにならぬように。
それだけでいい。
私は、彼の過去を背負う資格はない。
だが、未来の重荷くらいなら、
黙って担げる。
彼が、私を選ばなくなる日が来ても、
私は、それを受け入れる。
それが、私の贖罪だ。
◆ エリオスの消失(第三者の終わり)
ある春の日。
リュシアンは、夢の中で、再びエリオスに会った。
今度は、はっきりとした輪郭を持たない影だった。
「もう、来なくていい」
リュシアンが言った。
エリオスは、少し驚いてから、笑った。
「……そうか」
「あなたは……僕の選択の中にいる。
だから、ここに縛られなくていい」
それを聞いて、エリオスは、深く息を吐いた。
「ありがとう」
それが、最後だった。
目覚めたとき、胸の痛みはなかった。
代わりに、静かな喪失だけが残った。
◆ 老い(時間の証明)
白髪が増えた。
アーヴィスの背は、少し丸くなり、
リュシアンの歩みは、ゆっくりになった。
それでも、庭には花が咲く。
ある夕暮れ。
リュシアンが言った。
「……もし、先に逝ったら」
「迎えには行かない」
即答だった。
「君が、選ばなければならないから」
リュシアンは、少し笑った。
「……それでいい」
その手が、初めて、自然に重なった。
恋人のようにではない。
長い時間を共にした者として。
◆ 看取り(選択の最終形)
リュシアンは、静かに逝った。
庭の花が咲く朝だった。
アーヴィスは、泣かなかった。
泣く資格を、最初から持っていなかった。
だが、墓を二つ並べた。
名は刻まない。
肩書も、称号も、ない。
ただ、一つの言葉だけ。
選び続けた
それが、彼らの関係のすべてだった。
◆ その後(最後の独白)
――私は、最後まで、許されなかった。
だが、
拒絶されながらも、
選ばれ続けた。
それ以上の罰も、
それ以上の救いも、
この世には存在しない。
白花は、
誰のものにもならず、
それでも、咲いた。
完
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