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第十七話
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亜嵐に連れられてその部屋から出ると、先程とは違った雰囲気の廊下に出た。
天井には細かい模様が掘られ、足元の絨毯は少しの間足跡が残るほどフカフカしている。窓枠にも彫刻の様に柄が刻まれていて、壁紙はサテンの様に光沢がある。
その様子が観察できるほどに、さっきと違ってこの廊下は明るかった…
そして、ここも比較的俺の想像に近かったが、沢山反省した俺はもうそんな事ではワクワクしない…
少し予想と違ったのは、どの模様も樹木や花をモチーフにしたものだった事だけで…
髑髏とかそういった類いのものが無かった事を、俺は残念がったりしないんだっ…
「なぁ、亜嵐?…此処ってどうなってるの?」
「どうって?」
「んー?例えば一階に亜嵐の部屋があって…さっきの部屋はその上で…とか?」
「ふふっ…二琥の感覚でいうと…なんだろ?…普通じゃ無い場所?」
「は?…魔界ってだけで十分普通じゃねーし、全然想像つかないしっ!」
「んー?俺にとっては普通だし…ってかそもそも構造が無いって言うか…よくわかんないな?考えた事無かったし…まぁ、自由なんだよ」
「自由?」
「そっ♪…なんでもアリって感じで良いじゃん!なに?…二琥はこっちで建築家でも目指すつもり?」
「なんだよそれ?」
「…それよりっ…大事な話!」
「っ…そうだな…で?何処まで行くんだよ?」
「そこ出たら「在る」よ…俺達の儀式の場所」
「…え?」
亜嵐の指差したすぐそこは、いつの間にか突き当たりになっていて…
また似たようなドアが見える…
「いつの間に?」
「だから、自由なんだって…」
亜嵐がそのドアを開けると、そのドアの先とは思えない程拓けた場所だった…
「何これ?…スタジアムみたいな?」
「そうだね…それに近いかも…」
細い通路は一瞬ぐるっと繋がっているようで、足元の階段の二段に一列の間隔で、客席の様な椅子が並ぶ…
一番後ろの列であろう此処からは、中心にあるステージの様な場所の様子は良くわからなかった。
ライブとか実際行ったことが無いからわからないけど、ニュースとかで見るアーティストのライブ会場の様な、そんな印象だった…
「ここで?…儀式ってもっと…」
「神聖なイメージ?」
「まぁ…はっ!…まさか…亜嵐と俺でライブとかって話?…俺歌下手だよ?…だから、亜嵐はあんなに止めて…」
「くはっ…二琥…っく…妄想ストップ…もう、人がこんなにドキドキしてるのに…」
「は?…俺は真剣に…」
「どうする二琥?下まで行ってみる?」
「う…うん」
角度のきつい階段を降りきると、ステージは亜嵐の身長よりも少し高い位置にあって、ステージの周りの広場だけは椅子の設置が無かった。
これがアリーナ席?と言うやつなのだろうか…
「乗る?」
「え?」
俺が返事をする前に亜嵐はひょいっと俺を抱え…
身体が宙を浮いた様な感覚を少しだけ感じると、そのステージの上にそっと降ろされた…
「…けっこう高い…それに思ったより広いけど…肝心な!そうっ!亜嵐、儀式って何するんだよ?」
「…うん…そうだね…」
「此処まで来てもったいぶるなって!…別に亜嵐が教えるつもりが無くても、俺はもうやるって決めたけどな?」
「この場所にさ…そこのアリーナとか、観客席いっぱいに…同種族の…みんな姿は様々だけど、淫魔だぞ?…それに下等な…奴等も…」
「っ…おう」
「満席に近いくらいは居ると思うんだ…」
「それ位大規模な儀式って事?」
「うん…ここで俺の力を示す…のと…二琥が次の王の伴侶だって事も…」
「結婚式的なやつってこと?…俺が嫁だからドレス着るのか?…だから、亜嵐は…っく…俺…女装位なら…」
「二琥…違うよ…」
中々本題を喋らない亜嵐のせいで、的外れな妄想ばかりが頭を過る…
亜嵐の説明は歯切れが悪くて、待ちきれない俺の鼓動はどんどん早くなっていった…
「もうっ!一気に教えろよ!」
「…わかったよ」
少し離れて居た亜嵐は、俺に聞こえる位の大きなため息を一つついた…
「…ここで…同族が一挙に集っている前で…俺と二琥はセックスするんだ…」
「…っ」
今までの色々から想像出来そうだったソレを、俺は考えない様にしていた…
そんなに予想通りの訳がないと、頭に薄っすらと浮かぶ度に気付かない振りをしていただけで、実は想定の範囲内だったのだろうけど…
この「会場」の規模と、俺がさっきした「ライブ」の妄想のせいで目が回る…
俺が膝から崩れるようにその場に座り込むと、そっと近付いた亜嵐が後ろから抱き締めてきた…
「俺は…二琥を見世物にしたくない…」
「……」
「二琥が…結婚を受け入れてくれた頃は…二琥を抱くのを見せつけるだけで…なんて、むしろ嬉しい事だと思ってたんだ…二琥が俺のだって事を大勢に見せつけて…俺以外の誰も二琥に手を出せなくなるんだから…一石二鳥位に思ってたんだけど…」
「うん…」
「でも…二琥と気持ちが通じたり…すれ違ってみたり…そんな風に日々を重ねてたら…そのうちにセックスが快楽だけじゃなくて…俺の感情の満足にもなってて…二琥は俺の腕の中で可愛く鳴いてて…こんなの誰にも教えたく無いって思った…例え家族の…種族全体に関わる事だとしても…」
「うん…」
「二琥に説明したって、「俺の為なら」って無理してでも受けちゃうだろ?…だから、俺が王位を放棄しちゃうのが一番だと思って…でも…」
「…じーちゃん…そんなにヤバいのか?」
「…思っていたよりも…後は二琥を襲った奴らの事…種族の秩序が崩壊でもしたら…」
「…どうなるの?」
「俺らは人間と共存するために…この王政を代々受け継いできた…他の魔族と争わなくて済んでいるのも、俺ら種族に絶対的な王が居て統率が出来てるからなんだ…王の力が弱ければ、種族の中から王座を奪おうとする奴も出てくるだろうし…種族内で争いが起きると…最悪はそれを嗅ぎ付けた他の魔族に種族ごと狙われるかも…そんな発想の奴らに任せたら…人間との関係もどうなるか…」
「そんな…」
「俺、じーちゃんの魔力はすげーって記憶しかなくて…もう暫く余裕だと思ってたし…その内に誰か…俺の代わりが育つだろうって…でも、じーちゃん…」
俺には亜嵐の気持ちが揺らいでいるのが手に取るようにわかってしまった…
こんなに重要な儀式なのに、俺の為に亜嵐は王座を放棄してまで回避しようとしてくれていたが…
亜嵐がこんなに迷っているということは、じーちゃんの状態もかなり悪いのだろう…
セックスだって亜嵐としかしたことがないのに、それを大勢の前で披露するなんて…
亜嵐の想像通り、到底俺に耐えられるような事ではない…
でも…
これさえ乗り越えられたら亜嵐は王様になって、しかも種族が平穏無事に暮らしていける…
直ぐ助けて貰った俺でさえ、襲われた時の事がトラウマになっているのに…
あんなのが増える事や、想像もつかない他の魔族に襲われる可能性に怯えながら、これまで通り亜嵐と暮らしていけるとは…
俺にはもう思えなかった…
「亜嵐?…やろう?儀式…」
「二琥…」
「だって、どう考えたって亜嵐が王様になるのが一番じゃんか?…そしたら、このまま皆平穏に暮らせるんだろ?…亜嵐が…その…俺の事大事に想ってくれてるのは十分わかってるし…気持ちも嬉しいし…俺だってその儀式はちょっと…」
喜んで引き受けられる様な儀式では無いけれど…
それと引き替えに手に入る、亜嵐との平穏な日々の方が魅力的だと俺は気付いた…
「嫌でしょ?」
「嫌ってか…そりゃ…不安はあるけど…」
「それに、二琥が可愛いの誰にも教えたく無い…」
亜嵐は抱き締めた腕に力を込め、俺はもたれ掛かる様に亜嵐に体重を預けた…
亜嵐にこんなに大事に想われている、その事なら大勢の前で示されたいと思えてきた…
「…俺が亜嵐だけのだって示す儀式なら…俺、出来るよ…」
「っえ?」
「俺には誰も手を出せなくなるんでしょ?…俺を…その…俺を気持ち良くさせれるのは、亜嵐だけだって…示せるんだよ?」
「二琥?」
「セックスを…見せるとか…その内容じゃなくて…俺が亜嵐に…次の王様にこんなに想われてるんだって示す…みたいな…そんな儀式だって…そう思えば…」
「二琥はそれで良いの?」
「…うん…俺だって、やたら襲われるの嫌だし…亜嵐と…これからずっと平穏に暮らしたい…」
こめかみの辺りにかかる亜嵐の吐息が熱くなった気がしたけど、俺は振り返りはしなかった…
「二琥…ありがとう…」
少し震えたその声に、俺は返事も何もしないまま…
亜嵐の強い鼓動を背中に感じながら、しばらくそのままお互いの体温を共有していた…
…………
……
天井には細かい模様が掘られ、足元の絨毯は少しの間足跡が残るほどフカフカしている。窓枠にも彫刻の様に柄が刻まれていて、壁紙はサテンの様に光沢がある。
その様子が観察できるほどに、さっきと違ってこの廊下は明るかった…
そして、ここも比較的俺の想像に近かったが、沢山反省した俺はもうそんな事ではワクワクしない…
少し予想と違ったのは、どの模様も樹木や花をモチーフにしたものだった事だけで…
髑髏とかそういった類いのものが無かった事を、俺は残念がったりしないんだっ…
「なぁ、亜嵐?…此処ってどうなってるの?」
「どうって?」
「んー?例えば一階に亜嵐の部屋があって…さっきの部屋はその上で…とか?」
「ふふっ…二琥の感覚でいうと…なんだろ?…普通じゃ無い場所?」
「は?…魔界ってだけで十分普通じゃねーし、全然想像つかないしっ!」
「んー?俺にとっては普通だし…ってかそもそも構造が無いって言うか…よくわかんないな?考えた事無かったし…まぁ、自由なんだよ」
「自由?」
「そっ♪…なんでもアリって感じで良いじゃん!なに?…二琥はこっちで建築家でも目指すつもり?」
「なんだよそれ?」
「…それよりっ…大事な話!」
「っ…そうだな…で?何処まで行くんだよ?」
「そこ出たら「在る」よ…俺達の儀式の場所」
「…え?」
亜嵐の指差したすぐそこは、いつの間にか突き当たりになっていて…
また似たようなドアが見える…
「いつの間に?」
「だから、自由なんだって…」
亜嵐がそのドアを開けると、そのドアの先とは思えない程拓けた場所だった…
「何これ?…スタジアムみたいな?」
「そうだね…それに近いかも…」
細い通路は一瞬ぐるっと繋がっているようで、足元の階段の二段に一列の間隔で、客席の様な椅子が並ぶ…
一番後ろの列であろう此処からは、中心にあるステージの様な場所の様子は良くわからなかった。
ライブとか実際行ったことが無いからわからないけど、ニュースとかで見るアーティストのライブ会場の様な、そんな印象だった…
「ここで?…儀式ってもっと…」
「神聖なイメージ?」
「まぁ…はっ!…まさか…亜嵐と俺でライブとかって話?…俺歌下手だよ?…だから、亜嵐はあんなに止めて…」
「くはっ…二琥…っく…妄想ストップ…もう、人がこんなにドキドキしてるのに…」
「は?…俺は真剣に…」
「どうする二琥?下まで行ってみる?」
「う…うん」
角度のきつい階段を降りきると、ステージは亜嵐の身長よりも少し高い位置にあって、ステージの周りの広場だけは椅子の設置が無かった。
これがアリーナ席?と言うやつなのだろうか…
「乗る?」
「え?」
俺が返事をする前に亜嵐はひょいっと俺を抱え…
身体が宙を浮いた様な感覚を少しだけ感じると、そのステージの上にそっと降ろされた…
「…けっこう高い…それに思ったより広いけど…肝心な!そうっ!亜嵐、儀式って何するんだよ?」
「…うん…そうだね…」
「此処まで来てもったいぶるなって!…別に亜嵐が教えるつもりが無くても、俺はもうやるって決めたけどな?」
「この場所にさ…そこのアリーナとか、観客席いっぱいに…同種族の…みんな姿は様々だけど、淫魔だぞ?…それに下等な…奴等も…」
「っ…おう」
「満席に近いくらいは居ると思うんだ…」
「それ位大規模な儀式って事?」
「うん…ここで俺の力を示す…のと…二琥が次の王の伴侶だって事も…」
「結婚式的なやつってこと?…俺が嫁だからドレス着るのか?…だから、亜嵐は…っく…俺…女装位なら…」
「二琥…違うよ…」
中々本題を喋らない亜嵐のせいで、的外れな妄想ばかりが頭を過る…
亜嵐の説明は歯切れが悪くて、待ちきれない俺の鼓動はどんどん早くなっていった…
「もうっ!一気に教えろよ!」
「…わかったよ」
少し離れて居た亜嵐は、俺に聞こえる位の大きなため息を一つついた…
「…ここで…同族が一挙に集っている前で…俺と二琥はセックスするんだ…」
「…っ」
今までの色々から想像出来そうだったソレを、俺は考えない様にしていた…
そんなに予想通りの訳がないと、頭に薄っすらと浮かぶ度に気付かない振りをしていただけで、実は想定の範囲内だったのだろうけど…
この「会場」の規模と、俺がさっきした「ライブ」の妄想のせいで目が回る…
俺が膝から崩れるようにその場に座り込むと、そっと近付いた亜嵐が後ろから抱き締めてきた…
「俺は…二琥を見世物にしたくない…」
「……」
「二琥が…結婚を受け入れてくれた頃は…二琥を抱くのを見せつけるだけで…なんて、むしろ嬉しい事だと思ってたんだ…二琥が俺のだって事を大勢に見せつけて…俺以外の誰も二琥に手を出せなくなるんだから…一石二鳥位に思ってたんだけど…」
「うん…」
「でも…二琥と気持ちが通じたり…すれ違ってみたり…そんな風に日々を重ねてたら…そのうちにセックスが快楽だけじゃなくて…俺の感情の満足にもなってて…二琥は俺の腕の中で可愛く鳴いてて…こんなの誰にも教えたく無いって思った…例え家族の…種族全体に関わる事だとしても…」
「うん…」
「二琥に説明したって、「俺の為なら」って無理してでも受けちゃうだろ?…だから、俺が王位を放棄しちゃうのが一番だと思って…でも…」
「…じーちゃん…そんなにヤバいのか?」
「…思っていたよりも…後は二琥を襲った奴らの事…種族の秩序が崩壊でもしたら…」
「…どうなるの?」
「俺らは人間と共存するために…この王政を代々受け継いできた…他の魔族と争わなくて済んでいるのも、俺ら種族に絶対的な王が居て統率が出来てるからなんだ…王の力が弱ければ、種族の中から王座を奪おうとする奴も出てくるだろうし…種族内で争いが起きると…最悪はそれを嗅ぎ付けた他の魔族に種族ごと狙われるかも…そんな発想の奴らに任せたら…人間との関係もどうなるか…」
「そんな…」
「俺、じーちゃんの魔力はすげーって記憶しかなくて…もう暫く余裕だと思ってたし…その内に誰か…俺の代わりが育つだろうって…でも、じーちゃん…」
俺には亜嵐の気持ちが揺らいでいるのが手に取るようにわかってしまった…
こんなに重要な儀式なのに、俺の為に亜嵐は王座を放棄してまで回避しようとしてくれていたが…
亜嵐がこんなに迷っているということは、じーちゃんの状態もかなり悪いのだろう…
セックスだって亜嵐としかしたことがないのに、それを大勢の前で披露するなんて…
亜嵐の想像通り、到底俺に耐えられるような事ではない…
でも…
これさえ乗り越えられたら亜嵐は王様になって、しかも種族が平穏無事に暮らしていける…
直ぐ助けて貰った俺でさえ、襲われた時の事がトラウマになっているのに…
あんなのが増える事や、想像もつかない他の魔族に襲われる可能性に怯えながら、これまで通り亜嵐と暮らしていけるとは…
俺にはもう思えなかった…
「亜嵐?…やろう?儀式…」
「二琥…」
「だって、どう考えたって亜嵐が王様になるのが一番じゃんか?…そしたら、このまま皆平穏に暮らせるんだろ?…亜嵐が…その…俺の事大事に想ってくれてるのは十分わかってるし…気持ちも嬉しいし…俺だってその儀式はちょっと…」
喜んで引き受けられる様な儀式では無いけれど…
それと引き替えに手に入る、亜嵐との平穏な日々の方が魅力的だと俺は気付いた…
「嫌でしょ?」
「嫌ってか…そりゃ…不安はあるけど…」
「それに、二琥が可愛いの誰にも教えたく無い…」
亜嵐は抱き締めた腕に力を込め、俺はもたれ掛かる様に亜嵐に体重を預けた…
亜嵐にこんなに大事に想われている、その事なら大勢の前で示されたいと思えてきた…
「…俺が亜嵐だけのだって示す儀式なら…俺、出来るよ…」
「っえ?」
「俺には誰も手を出せなくなるんでしょ?…俺を…その…俺を気持ち良くさせれるのは、亜嵐だけだって…示せるんだよ?」
「二琥?」
「セックスを…見せるとか…その内容じゃなくて…俺が亜嵐に…次の王様にこんなに想われてるんだって示す…みたいな…そんな儀式だって…そう思えば…」
「二琥はそれで良いの?」
「…うん…俺だって、やたら襲われるの嫌だし…亜嵐と…これからずっと平穏に暮らしたい…」
こめかみの辺りにかかる亜嵐の吐息が熱くなった気がしたけど、俺は振り返りはしなかった…
「二琥…ありがとう…」
少し震えたその声に、俺は返事も何もしないまま…
亜嵐の強い鼓動を背中に感じながら、しばらくそのままお互いの体温を共有していた…
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