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第十八話
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じーちゃんと鷲尾さんに報告しようと「会場」を後にすると、「もと居た部屋」だと亜嵐が言ったドアを開ける…
その途端、俺は誰かに抱き付かれて視界を塞がれた…
(じーちゃん?…にしては、柔らかくない…)
ぎゅっと抱き締められてから解放されると、鷲尾さんが満面の笑みで立っていた。
じーちゃんは僅かに出遅れた様で、その直ぐ後ろで文字通り指を加えてこちらを見ている…
「二琥様!…よくぞご決断くださいました!…お二人の門出の儀式を、この鷲尾が責任を持ってご準備させて頂きますっ!」
「っえ?…俺まだ、何も…」
「じーちゃん、鷲尾…また見てたの?俺らに任せるって言ったのに…」
「ん?また?って…」
「ふぉっふぉ…すまんすまん…本当にお前達に任せたんだよ?…ただ…孫達のラブな様子を見逃したくなくて…」
「ったく…そうだろうとは思ってたけど?」
「良いものを見せて戴きました…」
「えっ?…どういう…」
「んで?…いつにする?俺…この勢いのまま済ませないと…ダメかも…二琥だって早く終わらせたいだろ?」
「んっ?…あっ、あぁ…」
「そうですね…一週間後でしたら…色々と準備も整うかと…」
「わかった。一週間後ね?…二琥、本当に大丈夫?」
「っ!おう…」
「じゃあ、後は鷲尾に任せちゃって良い?」
「はい!かしこまりました!」
亜嵐は何だか吹っ切れたように、サクサクと色々決めていく。
その勢いに押され、何で俺らが二人で決めた事を、じーちゃん達が知っていたのかを、俺は誰にも聞けないままで…
さっきまでしおらしかった亜嵐は、とっとといつもの感じに戻ってしまうし…
俺だけなんか取り残されている…
「ありがとな…二琥君…」
そんな中トテトテと俺に近付いて来たじーちゃんが、感慨深そうに自分の髭を撫でながら、俺の尻を揉みはじめていた…
…………
……
それから一週間は「禁欲」しなきゃいけないとかで、その響きも俺をソワソワさせたけど、なるべく儀式の事は考えない様にしていた…
大学から帰って来ると、そのまま我が家の階段を下りて「亜嵐の部屋」に来る。
最初の二日は鷲尾さんが家事全般をやりに来てくれて、お弁当まで作ってくれたけど…
料理は気分転換にもなるし、鷲尾さんも忙しそうだったから俺がやる事にしてもらい…
三日目からはお洒落なカウンターキッチンにいる時間が長くなっていた…
亜嵐も流石に忙しい様で、全然一緒に居られないし、暇すぎる俺はお菓子作りにも手を出している。
大学はしょうがないとして、亜嵐が側にいないこっちではもう一人で出歩く気も起きない…
それに、ここからでは全く実感がわかないけど、亜嵐とじーちゃんの交代と儀式の開催が伝えられ、こっちではもうすでに盛り上がりをみせ始めていると鷲尾さんが言っていたから…
俺もこちらでかなりの有名人になっているようで、あまり気安く出掛けられないようだ…
冷蔵庫で寝かしておいた生地を取り出し型で抜くと、余熱が終わったオーブンへ入れた。
この数日何度も作ったクッキーは、レシピ等見なくても出来上がる位になっている…
オーブンから温かく甘い香りがしてくる頃、その匂いを嗅ぎ付けてか、じーちゃんがいつもの様にこの部屋にやってきた…
毎日こうやって遊びに来るじーちゃんと、俺はすっかり仲良しになっていた。
「もうそろそろかの?今日は何味かな?」
「今日は普通のだよ?っあ、焼けた…」
オーブンの音が鳴り扉を開けると、更に甘い香りが部屋に広がった。
じーちゃんはソワソワと俺の後ろからその焼け具合を確認している…
「また熱々食べたいの?」
「良いかの?二琥君…鷲尾に頼むと知らぬ間に作っておって、娘や孫娘も居らんもんで…二琥君の焼いたクッキーを熱々で初めて食べてからというもの、すっかり病みつきなのだよ♪」
「くくっ…良いけど、火傷しないでね?」
オーブンから取り出したばかりのクッキーを、皿に乗せてじーちゃんに渡すと、じーちゃんはハフハフしながら美味しそうに食べ始めた。
こうしているとじーちゃんが王様だなんて想像出来ないし、ずっと前から俺のじーちゃんだった気もしてくる…
「亜嵐が居なくて寂しいかい?」
「っえ?…別に…重大な儀式だから、色々忙しいんでしょ?ってか…じーちゃんはこんな所に居て大丈夫なの?」
「ふぉっふぉ…ここまで来たら、 もう隠居したようなもんでね?…亜嵐も頑張ってるみたいだし…」
「そっか…」
「肇と儀式を交わしたのが…つい昨日の様に思えるが…」
「亡くなってもう百年以上なんだっけ?…寂しい?」
「そりゃあ…もう…」
「やっぱりさぁ、俺も亜嵐より先に死ぬって事だよね?」
「ん…」
「亜嵐も寂しいかな…?先の事なんて考えたこと無かったけど、俺は人間だし…亜嵐とは、その…種族が違うわけで…」
「二琥君は本当に優しいんだな?」
「別に…」
「ごめんな?私のせいで随分と先の事まで考えさせてしまったみたいだね…」
「じーちゃんのせいじゃないよ…ここ数日何か色々思い出してたけど…亜嵐と突然結婚する事になって…何かめっちゃ濃かったけど…思い出すと結構あっという間で…何かこのままあっという間に俺、死んじゃうんじゃないかって…でも、亜嵐は生きてるだろうし…」
「くくっ…亜嵐も幸せ者だな…」
「えっ?」
「二琥君…亜嵐を宜しく頼んだよ…あれも優しくて自慢の孫だが、自分の本当の希望より他人を優先してしまうし、一度自分で決めると頑固でな?…急に周りを頼らなくなる所があるので心配しておった…でも二琥君を想っている亜嵐は、二琥君が悲しむ事は決してしないだろう?…この先…もし、亜嵐が自分を犠牲にしようとしたら…その時は二琥君…どうか止めてやって欲しい…」
「…わかった」
「もちろん、二琥君も自分を大切にな?…じーちゃんにとって、二人ともかけがえのない孫なのだから…この前みたく、無茶はせんでくれよ?」
じーちゃんは優しく微笑むと、温かい手で俺の頭を撫でている。
亜嵐だけじゃなくて、じーちゃんにまで想ってもらえる俺も凄く幸せ者だ…
「っく…もう、大丈夫だって!」
「ふぉっふぉ…おっと!…いつの間にか…」
「どうしたの?」
「クッキーを全部食べてしまったようだよ!」
「っくは…美味しかった?」
「もちろんっ♪…でも…」
「もうちょっと食べたいの?」
「次はあの2色のやつが…」
「はいはい…ちょっと待っててね?」
俺がもう一回材料を計り始めると、それを嬉しそうに見守るじーちゃんが何だか可愛くて幸せだった…
…………
……
「氷寿様っ!…また二琥様の所でしたか?」
「今日も沢山二琥君の手作りクッキーを食べれて幸せだったのぉ♪」
「そんな…呑気に…もう儀式は明日ですが?どうでした?…その…二琥様の御様子は?」
「大丈夫だよ…でも…ちょっとだけ…」
「えっ?ちょっと…とは?」
「何て言ったかの?…っお!そうだ!…マリッジブルーってやつかな?…おセンチになっておった…」
「マリッジブルー…ですか?」
「少しだけな?随分と先の事まで心配しておったよ…ふふっ…まぁこれからも、あの二人なら何でも乗り越えられるだろう…」
「そうですか…でも何だか、鷲尾の方が緊張してしまいます…」
「ふぉっふぉ…二琥君も…亜嵐だって緊張はするだろうが…あれだけお互いを想い合っているのだから、何も心配いらんよ…」
「…そうですね」
「鷲尾も準備ご苦労だったね…ありがとう」
「とんでもない!お任せ頂き光栄でした」
「明日が楽しみだな…」
「はい…」
その途端、俺は誰かに抱き付かれて視界を塞がれた…
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ぎゅっと抱き締められてから解放されると、鷲尾さんが満面の笑みで立っていた。
じーちゃんは僅かに出遅れた様で、その直ぐ後ろで文字通り指を加えてこちらを見ている…
「二琥様!…よくぞご決断くださいました!…お二人の門出の儀式を、この鷲尾が責任を持ってご準備させて頂きますっ!」
「っえ?…俺まだ、何も…」
「じーちゃん、鷲尾…また見てたの?俺らに任せるって言ったのに…」
「ん?また?って…」
「ふぉっふぉ…すまんすまん…本当にお前達に任せたんだよ?…ただ…孫達のラブな様子を見逃したくなくて…」
「ったく…そうだろうとは思ってたけど?」
「良いものを見せて戴きました…」
「えっ?…どういう…」
「んで?…いつにする?俺…この勢いのまま済ませないと…ダメかも…二琥だって早く終わらせたいだろ?」
「んっ?…あっ、あぁ…」
「そうですね…一週間後でしたら…色々と準備も整うかと…」
「わかった。一週間後ね?…二琥、本当に大丈夫?」
「っ!おう…」
「じゃあ、後は鷲尾に任せちゃって良い?」
「はい!かしこまりました!」
亜嵐は何だか吹っ切れたように、サクサクと色々決めていく。
その勢いに押され、何で俺らが二人で決めた事を、じーちゃん達が知っていたのかを、俺は誰にも聞けないままで…
さっきまでしおらしかった亜嵐は、とっとといつもの感じに戻ってしまうし…
俺だけなんか取り残されている…
「ありがとな…二琥君…」
そんな中トテトテと俺に近付いて来たじーちゃんが、感慨深そうに自分の髭を撫でながら、俺の尻を揉みはじめていた…
…………
……
それから一週間は「禁欲」しなきゃいけないとかで、その響きも俺をソワソワさせたけど、なるべく儀式の事は考えない様にしていた…
大学から帰って来ると、そのまま我が家の階段を下りて「亜嵐の部屋」に来る。
最初の二日は鷲尾さんが家事全般をやりに来てくれて、お弁当まで作ってくれたけど…
料理は気分転換にもなるし、鷲尾さんも忙しそうだったから俺がやる事にしてもらい…
三日目からはお洒落なカウンターキッチンにいる時間が長くなっていた…
亜嵐も流石に忙しい様で、全然一緒に居られないし、暇すぎる俺はお菓子作りにも手を出している。
大学はしょうがないとして、亜嵐が側にいないこっちではもう一人で出歩く気も起きない…
それに、ここからでは全く実感がわかないけど、亜嵐とじーちゃんの交代と儀式の開催が伝えられ、こっちではもうすでに盛り上がりをみせ始めていると鷲尾さんが言っていたから…
俺もこちらでかなりの有名人になっているようで、あまり気安く出掛けられないようだ…
冷蔵庫で寝かしておいた生地を取り出し型で抜くと、余熱が終わったオーブンへ入れた。
この数日何度も作ったクッキーは、レシピ等見なくても出来上がる位になっている…
オーブンから温かく甘い香りがしてくる頃、その匂いを嗅ぎ付けてか、じーちゃんがいつもの様にこの部屋にやってきた…
毎日こうやって遊びに来るじーちゃんと、俺はすっかり仲良しになっていた。
「もうそろそろかの?今日は何味かな?」
「今日は普通のだよ?っあ、焼けた…」
オーブンの音が鳴り扉を開けると、更に甘い香りが部屋に広がった。
じーちゃんはソワソワと俺の後ろからその焼け具合を確認している…
「また熱々食べたいの?」
「良いかの?二琥君…鷲尾に頼むと知らぬ間に作っておって、娘や孫娘も居らんもんで…二琥君の焼いたクッキーを熱々で初めて食べてからというもの、すっかり病みつきなのだよ♪」
「くくっ…良いけど、火傷しないでね?」
オーブンから取り出したばかりのクッキーを、皿に乗せてじーちゃんに渡すと、じーちゃんはハフハフしながら美味しそうに食べ始めた。
こうしているとじーちゃんが王様だなんて想像出来ないし、ずっと前から俺のじーちゃんだった気もしてくる…
「亜嵐が居なくて寂しいかい?」
「っえ?…別に…重大な儀式だから、色々忙しいんでしょ?ってか…じーちゃんはこんな所に居て大丈夫なの?」
「ふぉっふぉ…ここまで来たら、 もう隠居したようなもんでね?…亜嵐も頑張ってるみたいだし…」
「そっか…」
「肇と儀式を交わしたのが…つい昨日の様に思えるが…」
「亡くなってもう百年以上なんだっけ?…寂しい?」
「そりゃあ…もう…」
「やっぱりさぁ、俺も亜嵐より先に死ぬって事だよね?」
「ん…」
「亜嵐も寂しいかな…?先の事なんて考えたこと無かったけど、俺は人間だし…亜嵐とは、その…種族が違うわけで…」
「二琥君は本当に優しいんだな?」
「別に…」
「ごめんな?私のせいで随分と先の事まで考えさせてしまったみたいだね…」
「じーちゃんのせいじゃないよ…ここ数日何か色々思い出してたけど…亜嵐と突然結婚する事になって…何かめっちゃ濃かったけど…思い出すと結構あっという間で…何かこのままあっという間に俺、死んじゃうんじゃないかって…でも、亜嵐は生きてるだろうし…」
「くくっ…亜嵐も幸せ者だな…」
「えっ?」
「二琥君…亜嵐を宜しく頼んだよ…あれも優しくて自慢の孫だが、自分の本当の希望より他人を優先してしまうし、一度自分で決めると頑固でな?…急に周りを頼らなくなる所があるので心配しておった…でも二琥君を想っている亜嵐は、二琥君が悲しむ事は決してしないだろう?…この先…もし、亜嵐が自分を犠牲にしようとしたら…その時は二琥君…どうか止めてやって欲しい…」
「…わかった」
「もちろん、二琥君も自分を大切にな?…じーちゃんにとって、二人ともかけがえのない孫なのだから…この前みたく、無茶はせんでくれよ?」
じーちゃんは優しく微笑むと、温かい手で俺の頭を撫でている。
亜嵐だけじゃなくて、じーちゃんにまで想ってもらえる俺も凄く幸せ者だ…
「っく…もう、大丈夫だって!」
「ふぉっふぉ…おっと!…いつの間にか…」
「どうしたの?」
「クッキーを全部食べてしまったようだよ!」
「っくは…美味しかった?」
「もちろんっ♪…でも…」
「もうちょっと食べたいの?」
「次はあの2色のやつが…」
「はいはい…ちょっと待っててね?」
俺がもう一回材料を計り始めると、それを嬉しそうに見守るじーちゃんが何だか可愛くて幸せだった…
…………
……
「氷寿様っ!…また二琥様の所でしたか?」
「今日も沢山二琥君の手作りクッキーを食べれて幸せだったのぉ♪」
「そんな…呑気に…もう儀式は明日ですが?どうでした?…その…二琥様の御様子は?」
「大丈夫だよ…でも…ちょっとだけ…」
「えっ?ちょっと…とは?」
「何て言ったかの?…っお!そうだ!…マリッジブルーってやつかな?…おセンチになっておった…」
「マリッジブルー…ですか?」
「少しだけな?随分と先の事まで心配しておったよ…ふふっ…まぁこれからも、あの二人なら何でも乗り越えられるだろう…」
「そうですか…でも何だか、鷲尾の方が緊張してしまいます…」
「ふぉっふぉ…二琥君も…亜嵐だって緊張はするだろうが…あれだけお互いを想い合っているのだから、何も心配いらんよ…」
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