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窒息

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 突然胸苦しさが強くなった気がした。

 なんだか、口を開けて空気を入れ込もうとしているのに、はあはあなって、

 胸が苦しくなる。

 何度も息を吸うようにするのに、息ができない。

 いったいなんの病気にかかった。僕は? 風邪? 風邪じゃぜったいない。

 なにか息が苦しい。

 僕ははあはあしながら、周りを見ると、周り中が全部倒れている。

 父が倒れてる。母が倒れてる。

 ジェイガンも倒れてる。マーサも倒れてる。

 みんな助けたいけど、赤ん坊で0歳児の僕にはどうすることもできない。

 僕は這って家から出て、

 そこで町中に倒れてる人を見た。

 騎士が倒れてる。農民が倒れてる。騎士は女を犯してる途中で、女にチンチンを入れながら倒れてる。

 どうしょうもない。

 なにか強烈な疫病がやって来たというのはわかるけど、対処のしようがない。

 そこで、僕は真っ暗な世界の中で意識を失って、そのまま、闇の中の地獄に落ちた。



 真っ暗だ。

 息が苦しい。

 ぐぐぐぐ

 真っ暗だ。

 息が苦しい。

 ぐぐぐぐ

 無限に続く闇の中で、僕は窒息地獄の中にいる。

 どこにいても何も見えない。まったく何も見えなくて、息だけが苦しくて、それがずっと続いて僕は死ぬ。

 それを永遠の繰り返しの中で、僕は窒息して死に続ける。

 真っ暗だ。息が苦しい。

 ぐぐぐぐ

 100憶回のそれを繰り返してると、小学生のイジ川がぼうと光のように僕の前に現れた。

「宇宙に無暗に出てやたらに無制限に繁殖すると、人類はずっと窒息する地獄の中で、永遠に取り残されることになる。アタシはそのとき、あんたの同僚で、必死で宇宙で起こる無制限の繁殖を止めるために文書を書いて、上官に知らせようとしたあんたに横領の罪を着せてあんたの描いた宇宙酸素精製理論を奪って出世した。そのせいでどん詰まりにいる」

 イジ川は僕の体に覆いかぶさってキスをして息を吹き込んだ。

「まったく息ができない世界で、アタシは何度も水で溺れる世界から転移して、水から発生する酸素をあんたに入れ続けてる。それで少しは呼吸ができるはずだよ。慶瞬。さあ、イメージするんだ。精神の世界を。そこに逃げ込んで、科学の可能性を見せるんだ。人類を救うために」

 イジ川のキスは酸素と似てる。僕はそこで呼吸ができる。

 僕はそこでイメージをして、精神の世界を再び呼び戻す。

 最後にイジ川が言った。

「絶滅する可能性の世界をアタシはあんたにイメージさせる。なぜって、絶滅する世界だと、他の遊んでるアホたちが、総勢で狂いながらすぐに壊して食いつぶしちまうんだ。だから、あんたの世界はいつでも滅びる世界だ。慶瞬。そこで人類が生きられる可能性を手繰り寄せな。酸素だ。慶瞬」

 僕はファンタジーの世界に戻って来た。

 不思議なことにそこで僕だけが息ができるようになった。

 苦しくない!!!!

 赤ん坊の僕だけが息ができる状態で生きている。

 何人もの人間が死んでいる。息が出来ずに街中を這って移動して確かめるけど、

 大勢の人間が倒れて、紫色の顔をしながら、ぴくぴく言っている。

 0歳児で赤ん坊の僕だけが生きて動いてる。

 そのとき、僕はこの疫病の原因を知った。

 シアルフィにはいくつも疫病の原因はあるけど、それはウィルスだとか、植物の毒性の変異とかあるけど、

 今回、僕らが死のうとしているのは、酸素不足だ。

 シアルフィの周辺の森を好き放題にドズル、マズル、アカネイアの竜騎士が焼いた。

 山は標高が高くなると、空気が薄くなって人が倒れるようになる。

 それと同じ状態が平地でも起こるんだ。緑が少ないと、人は用意に酸素不足で死ぬ。

 植物も枯れて酸素不足で死ぬんだ。

 人は緑をなくしてはいけない。酸素がなくなってみんな死ぬから。

 過剰酸素というのもあるけど、とりあえず、一番大切な原始的なファーストステップは緑をなくさないことだ。

 ただ、緑がない!!!!

 僕は赤子だ!!!!

 動けない!!!!

 それでも、酸素不足を感じず、なぜだか僕だけが動けるから、僕が動いてなんとかしなきゃならない。

 なにか一気に酸素を増やす方法がないか?

 そこで上空にまたどこかの国の竜騎士が飛んでやって来てるのを見た。

「ひゃははっ。大勢ぶっ倒れてやがるぜえええええ。焼却ぅーーーーーーーー!!」

 竜騎士はそう言いながら、倒れてる人間に次々にミサイルを撃ち込んでいる。

 竜騎士は次々にシアルフィの倒れてる人間にミサイルを撃ち込んで殺し続ける。

 ぼおおおおおおおおおおお

 ピキーーーーーーン

 ファイヤーを撃ったり、アイスを撃ったり。

 大地が氷ついたり、燃えたりして好き放題だ。

 だけど!!!

 僕はそこで気づいた。

 アイスを撃った後に、ファイヤーを撃たれると、水蒸気が上がって、そこに酸素が出来てる!!!

 人は死んでるけど、水蒸気が上がった地帯から、

 急激に酸素が発生して、そこから、動き出せる人間が多量に出て、息を吹き返して動いてる。

 僕は生き返って動き始めて逃げて行くシアルフィの人間たちに大声で知らせた。

「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」

 シアルフィの農民たち、騎士たちは僕が何を言ってるのかわからなかったから、最初従わなかった。

 僕はずっと叫んだ。

「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」

 そのうちに、竜騎士に追われていた人間たちが、僕の言葉で動いた。

 僕はそれなりに有名人だったから、なにかにすがるつもりで、燃えて焼ける地面に

 巨大なマンコマークを土で次々に描いて行った。

「ぎゃはははっ。なんじゃこりゃっ。マンコがいっぱいだぜぇえええええ。撃てっ。撃てっ。撃てっ」

 竜騎士が面白がって、上空からマンコマークに向かって、ファイヤーとアイスを撃った。

 ぼおおおおおおおおおお

 ピキピキピキーーーーー

 じょおおおおおおおおおおん

 街中のマンコマークが描かれた場所に巨大な水蒸気が上がって、そこから人が次々に蘇って行く。


「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」
「でかぁいまんこぉまぁーくかくぅううううう。それでたすかるぅううううう」

「ぎゃはははっ。なんじゃこりゃっ。マンコがいっぱいだぜぇえええええ。撃てっ。撃てっ。撃てっ」

 ぼおおおおおおおおおお

 ピキピキピキーーーーー

 じょおおおおおおおおおおん

 町中が水蒸気に覆われて、そこから人々が窒息から蘇って行った。

 魔法を詠唱できなくなった竜騎士が去って行った後、みんな呆然としながら、なにもかもがなくなった町で立ち尽くして竜騎士が消えた空を見つめていた。

 酸素が不足したとき、

 人は緑じゃなく、酸素を蒸発させて、一気に酸素濃度を上げて酸素不足を補うことができる。

 ただし、過酸素もあるし、水の消費量が増大し、水が減るので、酸素不足を越えたら、人間は人口を減らして、緑を増やした上で、徐々にひとりっこ政策を取り、文明を保ちながら、数の制限を掛けていく必要がある。

 そうしなければ、水の消えた大地のどんづまりに人間は行くことになるんだ。

 そんなことを思いながら、僕は家に這って戻った。

 母と父は酸欠で死んでいた。多くのものが死んだ。老騎士のジェイガンと、僕をあやしてくれていたマーサは生き残った。

 そこで僕は、領主の息子という地位を完全に両親が死んで失ってしまったんだ。

 僕はジェイガンに好き放題に殴られてオモチャにされ、食べ物を与えられなくなった。

 父の家臣であったはずのジェイガンの虐待がはじまった。

 それは僕の痛みの記憶。
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