上 下
8 / 17

父の語る周辺事情

しおりを挟む
「結局、誰かがモラルを守って育てなければ容易に世界は崩壊してしまうと俺は気づいた。
 28年掛かったがな。
 俺は昔盗賊の手下でワルだったが、そのことに気づいてこの領を作ったんだ。
 アーク。そこでお前は俺の大事な跡取りというわけだ。父を尊敬しろ」

 父さんのアンリが僕を抱きしめて、あやしてくれる。

「アンリさま。アーク様はまだ0歳の子どもですぞ。そんな話をされてもなぁ」

 老齢の騎士である陰でレイプで遊ぶジェイガンが父をたしなめる。

 僕は父の言うことがわかる。

 0歳児で、アークという子供に転生した僕は転生する前は、

 32歳である父よりもひとつだけ年上の小学校の教師であったのだから。

「あちゃぅ。ちちぅえ、ただちぃ」

 つたない言葉で僕は父の意見を肯定して、父アンリの指を握った。

 定型句以外で言葉がじょじょに操れるようになって来た。

 そろそろ普通の会話もできるようにしたい。

 そんなのんきなことを僕は考えていた。

「おう。アーク。お前、0歳なのに言葉がしゃべれるのか?
 こりゃすごい。俺は最高の跡取りを持ったっ。これで世界は救われるぞっ。わはは」

 父上が喜んで僕の体を盛大に高々とあげてあやす。

「あなた、うれしいのはわかりますが、アークを乱暴に扱ってはいけませんよ。
 ほら。アーク。お母さんのお乳を飲んで大きくなりなさい」

 母が僕に乳をくれて、僕は母の乳を飲んだ。あまり味がしない。

 少し甘い。

 そして眠くなる。

 ふと、悪夢のような前転生の中で殺され続けて、イジ川に助けられた最初のことを思う。

 100憶回以上も繰り返された転生、あの日々が単なる悪夢で、

 今ある世界が本当の世界?

 平和な世界にいると自分がどんなひどい状況にずっといたのかを忘れてしまう。

 父が言う。

「それにしても、ドズルと、マズル、アカネイアはひどい。
 竜騎士を好き放題に使って、ファイヤーで上空から魔法を打ち続けて、
 世界を滅ぼし続けている。まったくやってられない。だいたい
 宗主国のアカネイアが我が領を襲うのはどうにもならん。頭がいたい」

「贈り物をして襲うのを止めようにも我が領はカツカツですしな。
 ファイヤーはシェライートが地上を混乱から救うリーダーを定めるために、
 この世界の権力者たちに授けた魔法でしたなぁ」

 僕は父とジェイガンの話から情報を得続ける。

 この世界で生きるためには、絶対情報だ。

 0歳児で一切戦えない状態でも、生きるための情報を得続けること。

 僕は生きられる幅が増えて強くなれるはず。

 父の話だとこうだ。

 この世界には、シェライートという、特別な種族がいて、

 魔法を授けることができる。

 そして、そのシェライートは世界に治安を作って世界を守るため、

 それぞれの大陸の権力者にファイヤーとアイスの魔法を授け、

 それを人に配れる力を与え、操れて空を飛べる番の竜を渡して、権力の補助をした。

 だけど、それによって権力者たちがやったのが、

 世界の統治ではなく、数限りない竜騎士を使った世界のムチャクチャ支配。

 それから好き放題の乱交と無茶あばれ。

 母は元々はその王の一族で好き放題に人々を魔法で殺していく王族に従う貴族の中で、

 特別に贅沢ができる環境で好き放題、乱交をやって遊び暮らしていたらしい。

 王族は、ファイヤーの魔法とアイスの魔法で農地を焼き、人々を脅して、

 遊び暮らし続けている。ただ、世界は滅びかけていると父は言う。

「王族たちは農地を守ることをしない。作物や家畜は勝手に湧いてくると思っているのだ。
 それだから農地から搾取して、生産管理も行わない。
 アーク。人間っていうのはな。あまり力を持つと、自分たちの食事がどう作られ
 続けるのかをまったく意識しなくなるんだ。それで世界が滅びるとはまったく気づかない。
 そのことを俺は母さんの話から理解したのだ」

 それによって、世界は竜騎士が飛び回り、常に人々は武器の脅威にさらされ続けることになったらしい。

「我が領シアルフィは田舎だから、ドズルもマズルも、アカネイアもめったに攻めて来ない。
 だが、油断はならん。空を飛ぶ竜を見たら隠れろと騎士に徹底しろ。ジェイガン」

「まあ、気をつけましょう。それでは上空の監視の任務を兵士に命じて来ますぜ」

 父の言葉に老騎士であるジェイガンは表面上おとなしく従って、部屋を出て行った。

 ジェイガンがまともな仕事をしてるかどうかは怪しい。

 ともかく、このシルビア大陸は、アカネイアと、ドズル、マズルという三つの強盗国家の脅威に晒されている。

 3つの国はそれぞれ王を名乗って、お互い同士竜騎士を放って戦い続け、

 そして、王族は遊び暮らしながら、各地を竜騎士に襲わせて、

 メチャクチャに世界を荒らしまわって遊びまわってるらしい。

 そして、それはこのシルビア大陸以外でも同様であるらしい。

 だが、シェライートはなぜこんなヤツラに世界を渡したんだろう。

 父のような人間に力を渡すことはなぜできなかったんだろう。

 そんなことを思っていると、そのうちに母がまた僕の木造のベビーベッドにやって来て、僕をあやした。

「私はね。実にアカネイアの貴族の産まれなのですよ。アーク。
 盗賊であるアンリに攫われて説得して人の心を育てたのは私です。アーク。
 セックスの力によってね。アーク。女はセックスを使えば、人の心を作れるのですよ」

 母の言葉に僕は呆然とした。

 まったく僕の考え方と違う母の生き方がそこにあった。

 母は昔乱交に明け暮れた人間だったらしいが、何が母を替えたんだろう。

 盗賊であった父に攫われた母。その母が父を説得した手段とはなんだったんだろう?

 そんな無想に駆られている時間がこのときの僕にはあった。

 けど、その翌日から、僕の平和であったこのファンタジー世界の小さな町シアルフィは、

 まったく壊れてしまったんだ。

 シアルフィ領が崩壊したのは、次の日だった。
しおりを挟む

処理中です...