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第14話 ドラゴンステーキ

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リズが言ってきた。

「ちょっとセロリ市に来て欲しいかしら? 店を開こうにもお金が十分じゃないから、店が立たない状態なの。それで、セロリ市の実情を見て動いて欲しいの」

「わかった」

それで、俺はリズと二人でセロリ市に来ていた。

畑はある・・・。お店も細々とある。だが、明らかにお金が回っていない状態だ。

金というのは有限なものだ。無限に金を増やすと金の意味がなくなるし、人がムチャクチャになる。そして、金が絞られれば、経済資源が少ない場所がどうしても出来てしまう。その場所では商売もまともにできなくなるんだ。

そんな場所がセロリ市だ。そこかしこに浮浪者がいて、みんなガリガリにやせ細っていて、その上でそんな人たちに誰も見向きもしない。

多分日常習性的に、落ちる人間を見慣れていて、それが当然になってしまっている状態なんだ。

「サラダ市に浮浪者を移動すべきじゃないかしら?」

「まあ、そうすると当然のごとく、サラダ市の生存競争が激しくなる」

「生きられるインフラを一気に作って、仕事を活性化する感じにするかしら?」

「お金がよく流れ込んで来ない場所で店を増やしても、店が潰れるだけだな」

「食料を全部食べられる状態に持って行って、そこからお金を少しだけ入れ込む状態にする感じかしら?」

「浮浪者に畑を耕せると、仲間の農民が暮らせなくなるな」

「鶏舎と、豚舎と畑を、コメ畑を多量に増やして欲しいの。セージ」

「なるほど。とりあえず、経済に参加するという側面じゃなく、物理的にすべてを豊かに養える状態に持って行きたいとリズは思うんだな」

「お金が入って来ない場所はあるから。それを集合的に物々交換で補える場所にしたいかしら。私たちが仕切る形で。お金だけでやり取りをすると、食べられない人間が大勢出るから」

「なら家賃という形で食べ物を作ってもらおう。そして作った食べ物を収めてもらう。ただし、必要品はすべて支給する形だな」

「服も均質なのを支給したいの。だから、麻の生産と、製糸工場、布工場を作りたいかしら」

「仕方ない。やるしかないな。仲間の店を持つのが少し遅くなるが、それらを徹底的に買って、巨大な物々交換を実現するしかないな。金がない状態なら仕方ない」

「男爵と交渉して、一気に土地を買いたいかしら」

「ああ。俺は男爵に今会える状態だからな。交渉してみよう」

俺は男爵と交渉した。

「大規模に土地を買いたい。金はあるから、いらない土地の所有権を譲ってもらおう」

男爵は言った。

「今ある畑や、土地は売れんぞ。売るなら、いらない何もない土地しか売れん」

「それでいい。とにかく広い土地をもらおう」

「山地なら渡そう。ただ、川も流れぬ土地だがな。3つばかりだ。それでいいなら、1億で売ろう」

「それをもらおう。ただし、水源を海まで引かせてもらう。お前の土地の個人所有じゃない道で」

「勝手に開拓は困るが・・・」

「食える土地が増えれば、お前は税収が上がる。金は俺の金だ。文句を言うな」

「・・・わかった」

山地を見て、リズは絶句した。

川も流れない広陵とした赤い山が三つだ。草木もほとんど生えていない。

「・・・セージ。こんな土地買ってどうするの? ほとんどの資産を使ってしまったわ」

「まあまかせろ。1000人の仲間なら寄り過ぐりを全員集めるっ。三日ほどで一気にやるぞ」

仲間のうちで、最大の魔力を巨大隕石魔法を持つリザダンが動いた。

「ミサイル魔法。エキザバイトメテオッ」

ドガドカドカ! ドガドカドカ! ドガドカドカ! 

俺が考えた土地計画で、海から山地までの水の水利を一気に作る。

溝の中に海水が巨大な流れで一気に山地に流れ込んで来た。

ごおおおおおおおおおおおおおおお

そこにブラッケンがブラックホール魔法を使って、巨大なダムを作った。

「バリフェイドブラックホーーールぉおおおおおおお」

ぞおおおおおおおおおおおおおおお

海水を貯めるダムが出来上がったら、次は浄化だ。

ジャニスがとことこやって来て、創造魔法を使った。

「みてねーーーーーー。巨大フィルターーーーー。塩水除去ーーーーーーっ」

ダムから流れる海水が、巨大フィルターを通って普通の飲める水に変わった。

次はダイカクが山地を飛んで、強烈なハリケーンを放つ。

「グラバルタハリケーーーーーーンっ」

精細な制御されたハリケーンが瞬く間に、赤土の大地を襲い削り、段々畑が赤土の山を覆うように作られた。

さらにダイカクはだんだん畑じゃない場所に巨大水路を作った。

そこにジャニスがやって来た。

「水をーーーーー山にーーーー上げるのはーーーーーいきおーーーーーい」

ジャニスがダムの堰を開けると、一気にきれいな水が山の頂上に上った。

クラビスがやってきて、千岩魔法で、段々畑の横に水路を作って行く。

「千岩万華ぁああああああっ」

段々畑の横に水路が出来上がった。そして、山の頂上に流れた水が一気に水路に流れ込む。

農水魔法士のキットンがやって来た。

「・・・栄養フィルムです。赤土でも、岩地でも、このフィルターを使えば、全部畑にできます。材料は雑草と鶏糞からできています。あと、田んぼに栄養を行き渡らせる凝縮農薬です。この農薬水を使えば、田んぼでコメが育ちます。ただ、これらを作るのに、100人の仲間が常に必要です」

俺はキットンに言った。

「暮らせない浮浪者から100人その仕事に移動してもらう。給料を払う必要はない。コメと、野菜、卵、肉は、十分にすべて支給する形にするから。それで働いてくれる浮浪者を送る」

リズが聞いて来た。

「今の時期は春だから農作業をして収穫するまでには食べるものはどうしようかしら?」

「今いるコメ畑の仲間から支給する形にする。秋までは持つだろ?」

「たぶん、大丈夫かしら。それじゃあ、豚舎と鶏舎を作るわね。餌のためにダイズと菜っ葉も植えるわ」

「うん。それで頼むよ。この三つの山に住むものはお金を使わない。ただし、男山と、女山、夫婦山に分かれてもらう。夫婦はコンドームをつけて以外でのセックスは許さない。セックスをしたいなら、山を下りて、通常の生活をしてもらう形にする。この山は俺たちの共有財産だ。これを徹底してくれ」

「抗議の声が上がるわ」

「守れないヤツは田畑も共有畑もなしだ。ここは暮らせない人間が逃げ込める場所として作ったもので、セックスができる余裕があるものの居場所じゃない。ここは1000人の俺たちの土地だ。ルールは守ってもらう。同性でのセックスは好きにしろ。繁殖しないのなら構わない。ただ、異性はダメだ。ルールだ」

それから、そのルールの元、暮らせない浮浪者たちが全員で畑を耕し始めた。ほとんど男で、女山の方は、老婆が多い状態だったが、みんながまとまって共同生活を送れるようになった。

そこで、俺はリズとセロリ市を後にした。

セロリ市は、浮浪者が一切いなくなって、町は閑散としているが、平和な状態になった。セロリ市の孤児たちはみんな男山と女山に移って、そこで、共同生活をしている。

セロリ市から帰る途中、リズが言った。

「ちょっと寄り道していいかしら? セージ」

「いいけど、どこに行くんだ?」

「美味しいもの食べましょうよ」

「・・・俺は金がないぞ」

「あなたに財布の中身なんて期待してないかしら。私は奢るわ」

「それならいいけど。何を食べるんだ?」

「ドラゴンステーキ。ワインもつけるわ」

「ドラゴンなんて獲れるのか? セロリ市は」

「S級冒険者のドラスのパーティ以外は取れないけどね」

「ああ。あのハーレムパーティか。セロリにいたのか」

「一パーティだけずっとセロリに張り付いてるの。ドラゴンステーキ。1枚5万円よ。それだけでセロリ市は持ってるの。だから、セロリではドラスが男爵に続いて地位が高いの」

「・・・そんなドラゴンステーキを、俺に食わせたいのか? リズ」

「ドラゴンが狩れるパーティを増やせれば、セロリの経済が動くわ」
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