花火の思い出

ちちまる

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夜空の花束

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夏の初め、海辺の小さな町では毎年恒例の花火大会が開かれる。その日は町中が祭りの装いをまとい、どこからでも賑やかな音楽と笑い声が聞こえてくる。

若いカップルの麻衣と悠真は、この日をずっと楽しみにしていた。二人は高校を卒業してからというもの、なかなか会う時間が取れず、この花火大会が久しぶりのデートとなる。

「きれいだろう、今夜の花火。」悠真が麻衣の手を引き、人ごみをかき分けながら言った。
「うん、でも、悠真と一緒なら何でもきれいに見えるよ。」麻衣はそう答えながらも、心のどこかで不安を感じていた。卒業後、二人の距離が少しずつ開いていることを。

海岸に出ると、すでに多くの人が最高のスポットを確保していた。しかし、悠真はあえて人が少ない場所へと麻衣を連れて行った。

「ここなら、二人だけの花火が見られるから。」そう言って、悠真は麻衣を見つめた。その瞳には夏の星空が映っているようだった。

夜空に一つ、大きな音とともに花火が打ち上がる。色とりどりの光が夜空を彩り、海面にもその美しさが反射している。麻衣は思わず息を飲む。これほどまでに美しい花火を見たのは生まれて初めてだった。

「悠真…」麻衣が呟くと、悠真は優しく微笑んだ。
「麻衣、僕たちはこれからもずっと一緒だよ。どんなに離れていても、心はつながっている。だから、」彼は一瞬言葉を切り、空に再び花火が上がるのを待った。
「だから、不安に思わないで。」

花火の光が二人の顔を照らし出す。その光に包まれながら、麻衣は涙をこぼした。悠真はそっと彼女を抱きしめ、遠くで鳴る音楽と海の波の音が、その夜の美しい調べとなった。

夜が深まるにつれ、花火はさらに盛大になり、町全体が光に包まれる。麻衣と悠真は手を握りながら、この夏の一瞬、一瞬を大切に過ごした。二人にとって、この夜はただの花火大会ではなく、お互いへの深い愛を再確認する場となった。

そして、花火が最後に大輪の花を咲かせるとき、麻衣は悠真の耳元で小さく囁いた。
「ありがとう、悠真。これからも、ずっと一緒にいてね。」

夜空に花火が散り、静寂が戻る中、二人は未来への約束を交わした。この夏の記憶は、ずっと彼らの心の中で、輝き続けるのだった。
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