見習い魔法使いと黒猫

ちちまる

文字の大きさ
2 / 5

月明かりの誓い

しおりを挟む

月が輝く夜の静けさの中、見習い魔法使いのリリィは森の奥深くで呪文の練習を続けていた。翌日に控える魔法試験に合格し、正式な魔法使いになるためだ。緊張と期待が入り混じる中、彼女の手元にいた黒猫のクロが静かに声をかけた。

「リリィ、少し休んだらどうだい?無理しすぎると逆効果だよ。」

「ありがとう、クロ。でも、あと少しだけ練習したいの。明日の試験は一生の大事だから。」

クロはふわりと彼女の肩に飛び乗り、その耳元で囁いた。「大事なのは準備だけじゃないよ。心も整えることが大切だ。」

リリィはクロの言葉に一瞬考え込んだが、決心を固めて再び呪文の練習を始めた。しかし、そんな彼女を見守っているだけではいられないクロは、しばしばアドバイスを送ったり、彼女の集中力を保つために声をかけたりしていた。

その時、森の奥からかすかな足音が聞こえてきた。リリィが振り返ると、そこには彼女の同級生であり、少しだけ気になる存在のフェリクスが立っていた。フェリクスはリリィとは対照的に、いつも冷静で自信に満ちた態度を見せる少年だった。

「リリィ、こんな夜遅くに一人で何をしているんだ?」フェリクスは穏やかな声で尋ねた。

「練習しているの。明日の試験のために。」リリィは少し恥ずかしそうに答えた。

フェリクスは微笑みながら彼女に歩み寄り、「君は本当に努力家だな。でも、無理しすぎるのはよくないよ。」と言った。

クロがその場に飛び降りて、フェリクスに向かって声を上げた。「お前もリリィに無理させるなよ。大事な相棒なんだからな。」

「わかってるよ、クロ。でも、リリィが心配でここに来たんだ。」

リリィは少し驚いた。「フェリクス、どうしてここに?」

「君が気になったからさ。いつも一人で頑張っているのを見てると、放っておけなくて。」

その言葉にリリィの心は温かくなった。彼女はいつも孤独を感じていたが、フェリクスの存在がその寂しさを和らげてくれた。

「ありがとう、フェリクス。でも、私は大丈夫よ。クロもいるし。」

「それでも、少し休んだ方がいい。」フェリクスはリリィの手を取り、優しく引っ張った。「少しだけ、星を見ながら話をしないか?」

リリィは一瞬ためらったが、フェリクスの真剣な眼差しに心を動かされ、彼の提案を受け入れることにした。二人は並んで草むらに座り、夜空に輝く星々を見上げた。

「リリィ、君の夢は何だ?」フェリクスがぽつりと尋ねた。

「夢?」リリィは星を見つめながら考えた。「私は…母のような立派な魔法使いになりたい。母は私に魔法の素晴らしさを教えてくれた。そして、多くの人々を助けることができるような魔法使いになりたい。」

フェリクスは黙ってリリィの言葉に耳を傾けた。そして、彼もまた星空を見上げた。「君ならきっとなれるよ。僕も応援する。」

リリィはその言葉に少し驚いた。フェリクスはいつも冷静で感情を表に出さないタイプだった。しかし、今夜の彼はどこか違っていた。

「フェリクス、ありがとう。でも、あなたの夢は?」リリィは尋ねた。

フェリクスはしばらく沈黙した後、静かに答えた。「僕の夢は…君と一緒に立派な魔法使いになることだ。君と一緒に、いろんな困難を乗り越えて、もっと強くなりたい。」

リリィの胸は高鳴った。彼の言葉に込められた真心が、彼女の心に深く響いた。

「フェリクス…」リリィは言葉を失った。

その瞬間、クロが二人の間に割り込むように飛び上がり、「にゃあ」と鳴いた。二人は微笑み合い、星降る夜の静けさの中で、しばしの安らぎを感じた。

翌日の試験は厳しいものだったが、リリィは全力を尽くした。フェリクスもまた、彼女を見守りながら自分の試験に臨んでいた。

試験の最後の課題は、指定された魔法を完璧に使いこなすことだった。リリィは緊張しながらも、心の中で母の教えとフェリクスの言葉を思い出し、全力で呪文を唱えた。

「ルミナス・フローラ!」リリィの声が響き渡ると、彼女の手から美しい光の花が咲き誇った。その光景に観客は息を呑み、試験官たちは感嘆の声を上げた。

リリィは無事に試験に合格し、正式な魔法使いとして認められた。彼女は嬉し涙を流しながら、クロを抱きしめた。クロも「にゃあ」と喜びの声を上げた。

その日、リリィはフェリクスと共に星空の下で再び会った。フェリクスも試験に合格し、二人は正式な魔法使いとして新たなスタートを切ることになった。

「リリィ、おめでとう。」フェリクスが優しく言った。

「フェリクスもおめでとう。そして、ありがとう。」リリィは微笑んで答えた。

「これからも一緒に頑張ろう。」フェリクスはリリィの手を取り、強く握った。

リリィはその手を握り返し、星空を見上げた。未来は明るく、二人の冒険はこれから始まるのだ。

星降る夜に誓った二人の絆は、どんな困難も乗り越える力となるだろう。リリィとフェリクス、そしてクロの物語は、これからも続いていく。

星空の下で交わされた約束は、永遠に輝き続けるだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...