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時を越える恋
しおりを挟む「なぜ、こんなことに…」彼女の声が震えながらも、静かに夜の闇に溶けていった。まり子はその時、初めて過去に戻れる力を手に入れていた。彼女の恋人である洋介が事故でこの世を去ってしまったのは、たった一週間前のことだった。
まり子は、洋介との思い出が詰まった公園のベンチに座り、涙をこらえながら時計の針を逆回しに動かした。ふと気がつくと、彼女の目の前には生前の洋介が笑顔で立っていた。「まり子、どうしたんだい? 泣いてるの?」彼は心配そうに尋ねる。
「いいえ、何でもないわ。ただ…君がいてくれて嬉しいだけ。」まり子は泣き笑いを浮かべながら、彼に抱きついた。この瞬間を永遠に繰り返したいと思ったが、彼女はよく知っていた。時間はいつか進んでしまい、洋介は再び彼女の元を去る。
「洋介、君ともっとたくさんの時間を過ごしたい。今度の日曜日、海に行こう。」
「うん、いいね。それ、楽しみにしてるよ。」
その日、二人は一緒に海辺を歩き、未来のことや夢について話し合った。まり子はこの時間が終わることを心の底から恐れていた。彼女は時計の針を何度も戻し、同じ日を繰り返し体験した。しかし、時間を重ねるごとに、彼女の心と体は疲れていくのを感じた。
ある日、洋介が突然真剣な表情でまり子に問いかけた。「まり子、僕たち、ずっと同じ日を過ごしている気がするんだけど…もしかして、何か隠してることがあるの?」
まり子は震える手で洋介の手を握り、全てを話した。彼女の能力と、彼が本来この世にいないこと、そして彼女が彼との時間を何度も繰り返していたことを。
洋介は静かに聞いていたが、彼の目には悲しみが浮かんでいた。「まり子、ありがとう。でも、これは僕たちにとって良くないことだね。本当に大切なのは、過去を変えることじゃなくて、与えられた時間を大切にすることだよ。」
その言葉に心を打たれたまり子は、深く頷いた。二人は最後に一度だけ、本当の別れを迎えるために過去へと戻った。洋介の事故の日、まり子は彼を抱きしめながら、全ての思い出を胸に刻んだ。「ありがとう、洋介。あなたと過ごした時間すべてが私の宝物だわ。」
そして、彼女は時計の針を動かさずにその場を後にした。時を超えた恋は終わりを告げ、まり子は新たな一歩を踏み出す勇気を胸に未来へと向かった。時には苦しく、時には甘美な記憶を抱きながら。
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