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夏の約束
しおりを挟む夏の空は高く、清々しい青さを湛えていた。大学生の真司と友人たちは、夏休みを利用して山あいのキャンプ場にやって来ていた。彼らにとってこれは、忙しい学期を終えた後の恒例行事だった。
「今年も来れたね!」
友人のハルが声を上げると、他のメンバーも笑顔で応えた。真司は特に心からの笑みを浮かべていた。キャンプは彼にとって、ただの楽しい時間以上の意味を持っていた。それは、亡き父との大切な思い出だったからだ。
彼らの設営したテントの周囲には、既に多くのキャンパーが自分たちのスペースを構えていた。子供たちの歓声、焚き火の匂い、そしてどこかで聞こえるアコースティックギターの音。それら全てが、夏の訪れを告げていた。
「真司、今年は何を担当する?」
「うん、僕は焚き火だね。父さんが教えてくれた通りにね。」
真司は薪を丁寧に組み立てていく。その手際の良さは、毎年の経験が生み出したものだ。他の友人たちは食材を準備したり、周囲の景色を写真に収めたりしていた。
夜になると、彼らは焚き火を囲みながら、持ち寄った食材でバーベキューを楽しんだ。肉や野菜が焼ける音、香ばしい匂いが夜空に広がる。
「真司、この焚き火、毎年上手くなってるよな。」
「父さんがいつも言ってたんだ。火を大切にする心が、人を温めるんだって。」
その言葉を聞いて、友人たちはしばし無言になった。真司の父は、このキャンプグループの大切な一員でもあったからだ。
話は次第に昔のキャンプの思い出話へと移っていった。彼らは父との思い出を語りながら、涙を流すことも笑うこともあった。
「ねえ、真司。また来年もこうしてみんなで来ようね。」
「うん、約束だ。」
キャンプの最終日、真司は一人、朝早くに湖畔に立った。水面に映る朝日が、彼の心を穏やかにしていく。彼は小さな紙ボートを湖に流した。それは父へのメッセージが書かれたものだった。
「父さん、また来年も僕たちはここに来るよ。あなたの教えを胸に、ずっとね。」
紙ボートはゆっくりと湖を渡り、やがて見えなくなる。その後ろ姿を眺めながら、真司は深く息を吸い込んだ。新しい夏が、彼にとって新たな始まりを告げていた。
キャンプを終えて帰路につく車の中で、友人たちは次の夏の計画をすでに話し始めていた。彼らにとって、この年間の一回の集まりが、一年を生き抜く力となっていた。
「真司、来年はどんな焚き火を見せてくれるの?」
「もっともっと上手くなるさ。約束だから。」
笑顔でそう答える真司の目には、決意と父への深い愛が宿っていた。夏の終わりが近づいていたが、彼の心には終わりのない約束が刻まれている。
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