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夏の終わりの記憶
しおりを挟む田舎の夏は、都会とは一味違う。空気が澄んでいて、星がよく見え、生活のリズムが自然に寄り添っている。東京から遠く離れたその小さな村に、大学生の直人は夏休みを過ごすために帰ってきていた。
「直人、久しぶりだね。元気だった?」
帰省初日、彼を出迎えたのは幼なじみの華子だった。二人は小さいころからの友達で、お互いの家が畑を挟んで向かい合っている。
「うん、なんとかね。華子は相変わらずだね。」
直人は笑いながら応えた。華子の笑顔は変わらず、彼にとっては夏の風物詩の一つだった。
翌日、直人は華子と一緒に村を散策した。田んぼの緑は眩しく、セミの声が賑やかに響いている。
「直人、覚えてる?あの夏、二人で川に落ちたこと。」
華子が指さしたのは、村のはずれに流れる小川だった。二人はそこでよく遊んだものだ。
「ああ、あれは大変だったな。お互いずぶ濡れで帰ったんだから。」
直人は懐かしそうに笑いながら答えた。夏の記憶が、心地よい風と共に甦る。
その夜、村の青年部と老人会が共同で夏祭りを開いた。直人と華子も参加し、久しぶりに村全体が一つになる時間を楽しんだ。
祭りでは、焼きそばやたこ焼き、金魚すくいなどの屋台が立ち並び、子供たちの笑声が絶えなかった。直人は華子と一緒に屋台を回りながら、田舎ならではの温かさを感じていた。
「直人、今夜は星が綺麗だね。」
食べ歩きを終えた後、二人は祭りの会場を少し離れて、夜空を眺めた。田舎の夜は、都会では考えられないほど星が明るく輝いていた。
「本当だ。こんなに星が見えるのも、田舎ならではだね。」
しばらくの間、二人はただ黙って星空を眺めた。そして、華子がぽつりと言った。
「直人、私、この田舎が好きだよ。都会にはない、何かがここにはあるんだ。」
「うん、わかるよ。僕も、東京にいるといつもここが恋しくなるんだ。」
星の下、二人の会話は夜遅くまで続いた。それはまるで、時間が止まったかのような、特別な時間だった。
夏休みの最後の日、直人は再び東京へと戻る準備をした。荷物を車に積み込みながら、華子が手を振っているのを見た。
「直人、また来年も帰ってきてね!」
「ああ、もちろんだよ。約束だから。」
車が動き出し、村の景色が後ろに遠ざかる。直人はバックミラーで、華子の姿が見えなくなるまでずっと振り返っていた。
田舎の夏は終わり、新しい季節が待っている。でも、直人の心の中には、この夏の思い出が新たな光として刻まれていた。そして彼は知っていた、来年の夏もまた、同じ場所で同じ時間を過ごすことを。
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