学校の怪談

ちちまる

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亡霊の囁き

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夜が更け、校庭に人影はなく、月明かりが校舎の窓に映るだけだった。大河原中学校の生徒たちは、学校に伝わる「七不思議」の話題で盛り上がっていた。

「本当に見たんだ、幽霊を。」一年の後藤健太が興奮気味に語る。彼の話に耳を傾けるのは、同じく一年生の松本美咲、山本直人、藤田絵里、そして転校生の長谷川蓮。

「そんなの嘘だろう。幽霊なんているわけないじゃん。」直人が鼻で笑う。

「でも、健太の話、信じられないけど興味あるわ。」美咲が目を輝かせる。

「じゃあ、今からみんなで確かめに行こうよ。どうせ部活も終わったし、時間あるだろ?」健太が提案すると、みんなはしばし沈黙した。

「怖いけど、ちょっと見てみたいな。」絵里が勇気を出して言った。

「よし、決まりだな。行こう。」蓮が立ち上がり、他の四人もそれに続いた。

彼らは薄暗い廊下を進み、まずは「音楽室の幽霊」の噂がある場所に向かった。夜中に無人の音楽室からピアノの音が聞こえるという話だった。音楽室の前に立つと、皆は緊張の面持ちで中に入った。部屋の中央には古いピアノが置かれていた。

「何も起こらないじゃん。」直人が言ったその時、不意に鍵盤が一つ音を立てた。

「えっ、今の聞いた?」美咲が息を飲んだ。

「気のせいじゃないの?」直人が言うが、その瞬間、もう一度鍵盤が音を立てた。

「もうここを出ようよ。」絵里が恐怖で震えながら言ったが、健太はまだ興奮していた。

「次は理科室だ。あそこには『人形の霊』が出るって話だ。」彼は言い、皆を誘導した。

理科室に入ると、実験器具が整然と並んでいた。その一角には古びた人形が置かれていた。健太が近づき、懐中電灯の光を当てると、人形の目が一瞬だけ光ったように見えた。

「見た?今の!」美咲が叫んだ。

「ただの反射だよ。そんなのありえないって。」直人が強がるが、その声には震えが混じっていた。

その後、彼らは体育館へと向かった。ここには「バスケットボールの幽霊」がいるという噂があった。体育館に足を踏み入れると、冷たい風が彼らを包み込んだ。バスケットボールが一つ、静かに床に転がっていた。

「このボールが勝手に動くって話だけど…」健太がボールを蹴ると、それは無音で体育館の中央に向かって転がり出した。

その時、彼らの背後からかすかな笑い声が聞こえた。振り向くと、影の中に白い何かが動いていた。

「誰かいるのか?」蓮が叫ぶと、その影はすっと消えた。

「もう帰ろうよ。」絵里が涙ぐんで言った。

「待てよ。次は旧校舎だ。」健太は言うが、皆の顔には疲れと恐怖が浮かんでいた。

「仕方ない、行くか。」直人がため息をつきながら言った。

旧校舎に向かう途中、廊下の隅に古い鏡が置かれていた。そこには「鏡の中の少女」の話があった。美咲がその鏡に近づき、じっと見つめた。

「何も映ってないけど…」彼女が言った瞬間、鏡の中の彼女の顔がゆがみ、悲鳴を上げた。美咲は驚いて後ずさりし、鏡はそのまま静かになった。

「もういや、もう帰ろう。」絵里が涙声で言うが、健太は引き下がらなかった。

「最後にひとつだけ、屋上に行こう。そこには『飛び降りた生徒の霊』が出るって話だ。」

皆が恐る恐る屋上に向かうと、そこには冷たい風が吹きすさんでいた。屋上の端に立つと、遠くの街灯りが見えた。

「ここで本当に幽霊が出るのか?」直人が言った瞬間、背後から冷たい手が彼の肩に触れた。彼が振り向くと、そこには蒼白な顔の少女が立っていた。

「助けて…」その声はかすかで悲しげだった。直人が叫び声を上げると、その少女はふっと消えた。

「もう無理だ!帰る!」健太が叫び、皆は一斉に階段を駆け下りた。

校舎を出ると、彼らは息を切らしながら振り返った。校舎の窓には、あの少女がじっと見下ろしているのが見えた。彼らは急いで家に帰り、その夜の出来事を誰にも話さないことを誓った。

しかし、翌日から奇妙なことが起こり始めた。健太は学校で足音を聞き、振り向くと誰もいない。美咲は教室で誰かの視線を感じ、直人は自宅で不気味な囁きを聞いた。絵里は夜になると夢にあの少女が現れ、蓮は目覚めると手に冷たい感触を残していた。

「もう一度、校舎に戻らなきゃいけないかもしれない。」蓮がある日言った。

「何言ってるの?またあそこに行くなんて無理よ。」絵里が反対する。

「でも、何かが私たちを呼んでいる気がする。あの少女の霊を解放しないと、私たちは永遠に呪われるかもしれない。」美咲が言うと、皆は沈黙した。

その夜、彼らは再び校舎に集まった。懐中電灯を手に、恐怖に立ち向かう決意を固めた。まずは再び音楽室に向かい、ピアノの前に立った。美咲が静かに鍵盤に手を置き、「お願い、教えて」と囁くと、鍵盤が勝手に動き出し、メロディを奏でた。

次に理科室に向かうと、人形の目が光り、壁に文字が浮かび上がった。「彼女を救う方法を探せ」と書かれていた。

体育館ではバスケットボールが再び動き出し、彼らを旧校舎へと導いた。廊下の鏡の前に立つと、鏡の中の少女が再び現れ、「屋上へ…」と囁いた。

屋上にたどり着くと、風が冷たく吹き荒れた。そこで彼らは手をつなぎ、少女の霊に向かって声をかけた。

「あなたを解放するために来ました。どうすればいいの?」蓮が叫ぶと、少女の霊が静かに現れた。

「ここから飛び降りてしまった私を許して。私の遺した思いを成仏させて…」彼女は涙を流しながら言った。

「どうすればいいの?」直人が尋ねると、少女は指をさした。

「私の遺した手紙を見つけて。旧校舎のロッカーに…」

彼らは急いで旧校舎に戻り、指定されたロッカーを開けると、そこには古びた手紙があった。手紙を開くと、そこには少女の悲痛な思いが綴られていた。

「ごめんなさい、もう耐えられなかった。誰か、この思いを忘れないで。」

彼らは手紙を持ち、再び屋上に戻った。少女の霊が現れ、手紙を静かに受け取ると、彼女の顔に安らぎが広がった。

「ありがとう。これで私は解放される。」少女の霊は微笑み、ゆっくりと消えていった。

翌日、彼らは再び集まり、誰もが安堵の表情を浮かべていた。校舎の不思議な現象は消え去り、彼らはもう幽霊に悩まされることはなかった。

だが、その夜、彼らの夢の中で少女の囁きが聞こえた。「ありがとう。もう一度、笑えるようになった。」

彼らはその言葉を胸に刻み、二度と忘れることはなかった。校舎の「七不思議」は消え去ったが、その思い出は彼らの心に永遠に残ることだろう。

そして、大河原中学校の夜は再び静けさを取り戻し、月明かりが穏やかに校舎を照らすのだった。
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