雪女の恋愛小説

霧氷の誓い

山間の小さな村、その静けさを愛した青年、陸は、冬の訪れと共に孤独を感じ始めていました。彼の家は村の端にあり、寒風が窓を叩く音が常に彼の唯一の友でした。陸は村の図書館で働きながら、自然の美しさを写生することで孤独を紛らわせていました。

ある晩のこと、陸が雪の中で描いていると、突如として霧の中から白い着物を纏った女性が現れました。彼女はその場に静かに立ち、陸に微笑みかけました。その女性、雪女の由乃は、陸の孤独を感じ取り、彼に興味を持ったのです。

由乃は陸に自らの存在を明かし、二人の間には奇妙ながらも深い絆が生まれました。雪女である由乃は、冬の季節限定でこの世に現れ、春が来ると消えてしまう運命にありました。彼女の冷たい肌と、その悲しい運命を知りながらも、陸は彼女に心を奪われていきました。

夜ごとに訪れる由乃との会話は、陸にとってこの世のものとは思えないほどの慰めとなりました。由乃もまた、陸の温かい心に触れ、人間の感情の温かさを知ることができました。彼女は陸の描く絵に自分を見出し、二人の世界は互いに溶け合っていきました。

「陸、私たちは異なる世界の者。だが、この短い時間を、私は永遠に感じている。」由乃の声は霧のように儚く、彼の心に深く響きました。

「由乃、君がいなくなる春が来ることが、僕は今から恐ろしい。でも、この瞬間を大切にしたい。」陸は彼女の手を握り、冷たさを感じながらもその手の温もりを確かめようとしました。

春の訪れが近づくにつれ、由乃の姿は次第に透明になり、彼女の訪問も少なくなっていきました。最後の夜、由乃は陸の元を訪れ、二人は最後の夜を共に過ごしました。彼女の体からは冷たい霧が立ち上り、その霧が陸を包み込みました。

「陸、私の存在はもうすぐこの世から消える。でも、私たちの愛は永遠に続くわ。私を忘れないで。」由乃の声は風と共に遠くへ消えていきました。

春の朝、由乃はいなくなりましたが、陸は彼女との約束を守り、彼女の存在を描いた多くの絵を村中に展示しました。それらの絵は、由乃の美しさと彼女の悲しい運命を物語っていました。陸は由乃との記憶を胸に、再び孤独ながらも充実した日々を送ることを決意しました。

由乃と過ごした冬は、陸の人生において最も色鮮やかな季節となり、彼の心には永遠に彼女の姿が残り続けました。陸は老いていく間も、由乃の話を村の子供たちに語り継ぎ、彼女の存在は次の世代にも伝えられていくのでした。