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焦点を合わせて
しおりを挟む彼女の名前はサエ。彼の名前はトオル。二人は同じ大学の写真部に所属していた。彼は風景写真が得意で、彼女はポートレートを専門としていた。お互いの得意分野は異なれど、写真という共通の情熱が二人を繋いでいた。
ある秋の日、大学の写真展の準備で忙しくしているとき、トオルはサエが一人で悩んでいるのを見つけた。彼女は、ポートレート写真の中で一番表現したかった感情がうまく撮れなかったことに苦しんでいた。
「どうしたの?」トオルが声をかけると、サエは少し驚いた表情を見せた後、困ったように笑った。
「この写真、どうしても心に響かないの。何かが足りないみたい...」
トオルはサエのカメラを覗き込みながら、彼女の撮った写真を一緒に見た。写真は確かに技術的には完璧だったが、何か大切な要素が欠けているように感じた。
「ねえ、ちょっと試してみない? 君の写真に、君の感じていることをもっと込めてみたらどうかな?」
彼の提案により、二人でポートレートのセッションを再び行うことにした。今度はトオルがサエを被写体として撮ることになった。彼は彼女の微妙な表情や動きを捉えながら、彼女の内面を表現しようと試みた。撮影が進むにつれ、サエは自然とリラックスし、本当の笑顔を見せるようになった。
その日の撮影が終わり、二人で写真を見返した時、サエは自分でも驚くほど生き生きとした表情をしていたことに気づいた。彼女はトオルに感謝の言葉を述べた。
「トオル、ありがとう。あなたが撮ると、私、違う私に見える。なんだか新鮮だね。」
トオルは優しく笑みを返した。「君の写真を通して、君自身のことをもっと知りたいんだ。」
その後、二人はお互いの撮影技術だけでなく、お互いの内面にも焦点を合わせるようになった。写真展の日、サエのポートレートは多くの人々に感動を与えた。彼女の写真には、ただのポーズをとった人物ではなく、彼女自身の感情が色濃く反映されていた。
展示会が終わった後、トオルはサエを写真展の会場に連れて行った。会場には彼の写真も展示されており、その中にはサエが撮られたポートレートもあった。写真の前で、トオルはサエの手を握り、静かに言葉を続けた。
「僕は君の写真を通して、君の心に触れたいと思った。だから、これからも一緒に写真を撮り続けたい。サエ、君と一緒にいられることが、僕にとって最高の幸せなんだ。」
サエは涙を浮かべながら、トオルの提案に頷いた。二人はその場で深く抱き合い、写真に収められた無数の感情の中で、新たな章を共に始めることを誓った。それからの彼らの日々は、一枚の写真がきっかけで芽生えた深い絆で繋がれていった。
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