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第1会 祖母の優しさに触れる駅
第8話 弁当と後悔①
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1年前の俺は、世界そのものに苛立っていた。廊下ですれ違う同級生にも、自由に空を舞う鳥たちにも、目に映るものすべてが気に食わない。それはまるで、風の音にすら怯えて威嚇する子猫のようだった。
何事も始めが肝心とはよくいったものだ。ばーちゃんの弁当のせいで高校デビューに失敗した俺は、順調にぼっち街道を突き進んでいた。
入学当初に思い描いていた小市民的な学校生活なんて、夢のまた夢。これならオタクグループの仲間に入れてもらっていた方がまだマシだったと思う。
きっかけはいつでも些細なことから始まる。誰があんな弁当ひとつでここまで落ちぶれるなんて想像しただろう。
新学期が始まってから、すでに1ヶ月以上が過ぎていた。だけど、クラスにはまだ“これといった友達”はいなかった。周囲は中学の友達どうしで固まっていて、輪に入りづらい。
以前、俺が出入りしていたグループもメンバーが固まったようで、今となっては誘われることすらなくなった。
話しかけられれば答えるけれど、自分から声をかけるのは苦手だった。何かと理由をつけて断っていたあの頃が懐かしい。
そんな日々を過ごしていたある日、体育の授業で偶然ペアになった同じ中学出身の男子と、バドミントンで妙に盛り上がった。
「うまくラリー続いたな」
「地味に相性ええかもな、俺ら」
その何気ない言葉が、傷だらけだった俺の心をそっと包み込む。
めちゃくちゃ嬉しかった。高校生になってからこんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
昼休みになって、その男子の友人も合流し、その流れのまま「一緒にメシ食おうや」と誘われた。ほんの少し緊張したけれど、それを断る理由なんてなかった。
ちゃんとした友達ってわけじゃない。でも、誰かと笑って昼に食べられる。そんな“普通”がちょっと嬉しかった。
ふっと頬が緩む。今日ぐらい教室で弁当を開いても大丈夫な気がする。最近、俺は敏感になり過ぎていただけなのかもしれない。
「たまにはええか」と、いつもの踊り場で食べていた弁当箱を取り出し、机の上にそっと置いた。
「お、佐野は弁当派? どれどれ」
隣に座った男子がひょいと身を乗り出す。
その瞬間、弁当の蓋を開けた俺の手が止まった。
きんぴら、玉子焼き、漬物、そして煮物。彩りよりも栄養重視の、“いかにも”なばーちゃん弁当。
──そのときだった。
「なにその弁当、地味すぎん? てか、煮物? 漬物? 地味弁過ぎて笑うわ! 昭和か!」
笑い声。本人に悪気はなかったのかもしれない。ただの軽口。関西人特有の“いじり”として済ませる人もいるだろう。
だけど、あまりの大声に、その場にいた何人かが俺の弁当に視線をやり、クスクスと笑った。「ホンマやん」「ネタで持ってきたん?」──その声が、俺の中でどんどん大きく、邪悪に響いていく。
うまく言葉にでいないけれど、何かが、ぷつんと切れた。
「……うっせーよ。じゃあ食うなや」
自分でも意味のわからない言葉が口をついて出た。教室に気まずい空気が流れる。視線が痛い。弁当の蓋をバタンと閉じて、無言でかばんに押し込む。
立ち上がって、教室を出た。
背後から「なんだ、あいつ」という声が聞こえる。一緒に食べていた男子のどちらかが言ったのか、それとも別の人間だったのかはわからない。わざわざ振り返って確認しようとも思わなかった。
行くあてはどこにもない。だけど、足は自然といつもの踊り場に向かっていた。人気のないその場所で、階段に腰かける。でも、もう食べる気にはなれない。
本当なら今ごろ、友達と楽しいひと時を過ごしていたはずなのに。
もしかしたら、高校生活だって、やり直せたかもしれないのに。
──こんな弁当じゃ、なかったら。
そんな思いが頭をよぎった。
結局、昼を抜いたまま午後の授業を受けた。
何事も始めが肝心とはよくいったものだ。ばーちゃんの弁当のせいで高校デビューに失敗した俺は、順調にぼっち街道を突き進んでいた。
入学当初に思い描いていた小市民的な学校生活なんて、夢のまた夢。これならオタクグループの仲間に入れてもらっていた方がまだマシだったと思う。
きっかけはいつでも些細なことから始まる。誰があんな弁当ひとつでここまで落ちぶれるなんて想像しただろう。
新学期が始まってから、すでに1ヶ月以上が過ぎていた。だけど、クラスにはまだ“これといった友達”はいなかった。周囲は中学の友達どうしで固まっていて、輪に入りづらい。
以前、俺が出入りしていたグループもメンバーが固まったようで、今となっては誘われることすらなくなった。
話しかけられれば答えるけれど、自分から声をかけるのは苦手だった。何かと理由をつけて断っていたあの頃が懐かしい。
そんな日々を過ごしていたある日、体育の授業で偶然ペアになった同じ中学出身の男子と、バドミントンで妙に盛り上がった。
「うまくラリー続いたな」
「地味に相性ええかもな、俺ら」
その何気ない言葉が、傷だらけだった俺の心をそっと包み込む。
めちゃくちゃ嬉しかった。高校生になってからこんな気持ちになったのは初めてかもしれない。
昼休みになって、その男子の友人も合流し、その流れのまま「一緒にメシ食おうや」と誘われた。ほんの少し緊張したけれど、それを断る理由なんてなかった。
ちゃんとした友達ってわけじゃない。でも、誰かと笑って昼に食べられる。そんな“普通”がちょっと嬉しかった。
ふっと頬が緩む。今日ぐらい教室で弁当を開いても大丈夫な気がする。最近、俺は敏感になり過ぎていただけなのかもしれない。
「たまにはええか」と、いつもの踊り場で食べていた弁当箱を取り出し、机の上にそっと置いた。
「お、佐野は弁当派? どれどれ」
隣に座った男子がひょいと身を乗り出す。
その瞬間、弁当の蓋を開けた俺の手が止まった。
きんぴら、玉子焼き、漬物、そして煮物。彩りよりも栄養重視の、“いかにも”なばーちゃん弁当。
──そのときだった。
「なにその弁当、地味すぎん? てか、煮物? 漬物? 地味弁過ぎて笑うわ! 昭和か!」
笑い声。本人に悪気はなかったのかもしれない。ただの軽口。関西人特有の“いじり”として済ませる人もいるだろう。
だけど、あまりの大声に、その場にいた何人かが俺の弁当に視線をやり、クスクスと笑った。「ホンマやん」「ネタで持ってきたん?」──その声が、俺の中でどんどん大きく、邪悪に響いていく。
うまく言葉にでいないけれど、何かが、ぷつんと切れた。
「……うっせーよ。じゃあ食うなや」
自分でも意味のわからない言葉が口をついて出た。教室に気まずい空気が流れる。視線が痛い。弁当の蓋をバタンと閉じて、無言でかばんに押し込む。
立ち上がって、教室を出た。
背後から「なんだ、あいつ」という声が聞こえる。一緒に食べていた男子のどちらかが言ったのか、それとも別の人間だったのかはわからない。わざわざ振り返って確認しようとも思わなかった。
行くあてはどこにもない。だけど、足は自然といつもの踊り場に向かっていた。人気のないその場所で、階段に腰かける。でも、もう食べる気にはなれない。
本当なら今ごろ、友達と楽しいひと時を過ごしていたはずなのに。
もしかしたら、高校生活だって、やり直せたかもしれないのに。
──こんな弁当じゃ、なかったら。
そんな思いが頭をよぎった。
結局、昼を抜いたまま午後の授業を受けた。
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