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第2会 ぬくもりのありかを探す駅
第7話 続・玲子の依頼②
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「聡介さんはもう、誰かに会っているんでしょうか?」
「それについては答えられません」
「それも“決まり”で決まってるんですか」
「はい。申し訳ありません」
他の依頼者に対しての守秘義務みたいなものだろう。信用で成り立っている商売は特にそういったところが重要になってくる。私だって他の居住者の情報を要求されたとしても答えない。
「さらに、死者からの指名もできません。死者は会いたい人が自分を指名してくれるのを辛抱強く待つ必要があります。そのため、敢えて依頼を断るということもあります」
「その場合、もう二度と依頼できないんですか」
「氷見さんに関しては、既に再会済みだった場合を除き、再度依頼は可能です。もちろん再会自体は実現していませんので他の方への依頼でも可能です」
たとえ、私が一番乗りで彼に依頼を出したとしても、彼が私より両親に会いたいと考えていたら、この依頼は拒否される。そう考えると、だんだん不安になってきた。
私が言うのもなんだけど、彼はとっても優しい。そんな彼なら両親に感謝を伝えるために待っていたとしても全然、不思議じゃない。
愛する婚約者と愛する両親。彼の立場に立ったら私は、決断できるだろうか──。
「それに死者だけじゃないんです」
深森さんは言葉を切ると、真剣なまなざしで私を見つめる。
「これは生者にも言えることなんです。死者に会えるチャンスは一度しかありません。そのため、本当に今、その人に会うべきなのか。あるいは、もっと年を重ねたときのために、その一度きりの機会をとっておくべきではないのか──よく考える必要があります」
「──大丈夫です」
考えるまでもなかった。自分の両親の顔が浮かばなかったとは言わないけれど、やっぱり私が会いたいのは、家族以外で私を愛してくれた人──聡介さんただひとりなのだ。
「それと、死者の方と会えるのは終電から始発までの一晩だけです。これから先方と交渉して了承を得られれば、今のダイヤだと午前0時ごろから午前5時ごろまでとなります。日取りにつきましては後日、調整いたします」
「はい。わかりました」
終電から始発までのたった5時間。短時間というには長過ぎるが、長時間というには短過ぎる。それが、彼との本当に本当の最後の時間だ。その時間を通して、私は決断することができるのだろうか。
「では以上で終わりです。お疲れ様でした」
「ありがとうございました。よろしくお願いします」
私は、その場で立ち上がると深くお辞儀をした。依頼が終わっただけなのに、少し肩の荷が下りたような気がする。
外まで見送ってくれるという深森さんと休憩所を出たとき、偶然ほかの駅員さんと鉢合わせた。
意外にもその駅員さんは若い女性だった。年齢は20歳ぐらい。もしかしたら10代かもしれない。日に焼けた褐色の肌に、さっぱりした短い髪。身長は女子の中では高い方じゃないだろうか。
「あ。深森さん、お疲れ様っす」
元気よく挨拶する彼女は、私に気づくと不思議そうな顔を深森さんに向ける。
「何かあったんすか?」
「こちらのお客様が、大切なものを無くされたというので、お話を伺っていたんです」
深森さんは、うろたえることもなく平然と答える。女性駅員さんは、納得したように頷いた。
「それなら私が本社の忘れ物センターに連絡しとくっすよ!」
「いや、大丈夫。それは僕の方でやっておきますから。福寺さんは、気にせず休憩行ってきてください」
福寺と呼ばれた女性駅員さんは、「そうっすか」とつぶやくと、私に会釈して休憩所に入っていった。
「……ほかの駅員の方は知らないんですか?」
駅務室の外まで送ってもらったあと尋ねると、深森さんは、にやりと笑って小さく答える。まるで誰も気づいていないイタズラを打ち明けるような、そんな子供っぽさで。
「ええ。“死者との改札係”は僕だけなんです。ほかの同僚は何も知りません」
「それじゃあ、私がもし別の人に声をかけていたら、依頼はできなかったんですね」
「“改札係”と出会えるかは巡り合わせですから。吉口さんが私と出会ったというのは、そういう運命だったんですよ」
──そういう運命。
深森さんに声をかけたのは偶然のつもりだったけれど、もしかしたら聡介さんが私を呼んでいるのかもしれない。
私はそうだったらいいなぁ、と思いながら駅を後にした。
「それについては答えられません」
「それも“決まり”で決まってるんですか」
「はい。申し訳ありません」
他の依頼者に対しての守秘義務みたいなものだろう。信用で成り立っている商売は特にそういったところが重要になってくる。私だって他の居住者の情報を要求されたとしても答えない。
「さらに、死者からの指名もできません。死者は会いたい人が自分を指名してくれるのを辛抱強く待つ必要があります。そのため、敢えて依頼を断るということもあります」
「その場合、もう二度と依頼できないんですか」
「氷見さんに関しては、既に再会済みだった場合を除き、再度依頼は可能です。もちろん再会自体は実現していませんので他の方への依頼でも可能です」
たとえ、私が一番乗りで彼に依頼を出したとしても、彼が私より両親に会いたいと考えていたら、この依頼は拒否される。そう考えると、だんだん不安になってきた。
私が言うのもなんだけど、彼はとっても優しい。そんな彼なら両親に感謝を伝えるために待っていたとしても全然、不思議じゃない。
愛する婚約者と愛する両親。彼の立場に立ったら私は、決断できるだろうか──。
「それに死者だけじゃないんです」
深森さんは言葉を切ると、真剣なまなざしで私を見つめる。
「これは生者にも言えることなんです。死者に会えるチャンスは一度しかありません。そのため、本当に今、その人に会うべきなのか。あるいは、もっと年を重ねたときのために、その一度きりの機会をとっておくべきではないのか──よく考える必要があります」
「──大丈夫です」
考えるまでもなかった。自分の両親の顔が浮かばなかったとは言わないけれど、やっぱり私が会いたいのは、家族以外で私を愛してくれた人──聡介さんただひとりなのだ。
「それと、死者の方と会えるのは終電から始発までの一晩だけです。これから先方と交渉して了承を得られれば、今のダイヤだと午前0時ごろから午前5時ごろまでとなります。日取りにつきましては後日、調整いたします」
「はい。わかりました」
終電から始発までのたった5時間。短時間というには長過ぎるが、長時間というには短過ぎる。それが、彼との本当に本当の最後の時間だ。その時間を通して、私は決断することができるのだろうか。
「では以上で終わりです。お疲れ様でした」
「ありがとうございました。よろしくお願いします」
私は、その場で立ち上がると深くお辞儀をした。依頼が終わっただけなのに、少し肩の荷が下りたような気がする。
外まで見送ってくれるという深森さんと休憩所を出たとき、偶然ほかの駅員さんと鉢合わせた。
意外にもその駅員さんは若い女性だった。年齢は20歳ぐらい。もしかしたら10代かもしれない。日に焼けた褐色の肌に、さっぱりした短い髪。身長は女子の中では高い方じゃないだろうか。
「あ。深森さん、お疲れ様っす」
元気よく挨拶する彼女は、私に気づくと不思議そうな顔を深森さんに向ける。
「何かあったんすか?」
「こちらのお客様が、大切なものを無くされたというので、お話を伺っていたんです」
深森さんは、うろたえることもなく平然と答える。女性駅員さんは、納得したように頷いた。
「それなら私が本社の忘れ物センターに連絡しとくっすよ!」
「いや、大丈夫。それは僕の方でやっておきますから。福寺さんは、気にせず休憩行ってきてください」
福寺と呼ばれた女性駅員さんは、「そうっすか」とつぶやくと、私に会釈して休憩所に入っていった。
「……ほかの駅員の方は知らないんですか?」
駅務室の外まで送ってもらったあと尋ねると、深森さんは、にやりと笑って小さく答える。まるで誰も気づいていないイタズラを打ち明けるような、そんな子供っぽさで。
「ええ。“死者との改札係”は僕だけなんです。ほかの同僚は何も知りません」
「それじゃあ、私がもし別の人に声をかけていたら、依頼はできなかったんですね」
「“改札係”と出会えるかは巡り合わせですから。吉口さんが私と出会ったというのは、そういう運命だったんですよ」
──そういう運命。
深森さんに声をかけたのは偶然のつもりだったけれど、もしかしたら聡介さんが私を呼んでいるのかもしれない。
私はそうだったらいいなぁ、と思いながら駅を後にした。
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