京都伏見・たそがれ鉄道で会いましょう

秋月とわ

文字の大きさ
28 / 99
第2会 ぬくもりのありかを探す駅

第7話 続・玲子の依頼②

しおりを挟む
「聡介さんはもう、誰かに会っているんでしょうか?」
「それについては答えられません」
「それも“決まり”で決まってるんですか」
「はい。申し訳ありません」

 他の依頼者に対しての守秘義務みたいなものだろう。信用で成り立っている商売は特にそういったところが重要になってくる。私だって他の居住者の情報を要求されたとしても答えない。

「さらに、死者からの指名もできません。死者は会いたい人が自分を指名してくれるのを辛抱強く待つ必要があります。そのため、敢えて依頼を断るということもあります」
「その場合、もう二度と依頼できないんですか」
「氷見さんに関しては、既に再会済みだった場合を除き、再度依頼は可能です。もちろん再会自体は実現していませんので他の方への依頼でも可能です」

 たとえ、私が一番乗りで彼に依頼を出したとしても、彼が私より両親に会いたいと考えていたら、この依頼は拒否される。そう考えると、だんだん不安になってきた。

 私が言うのもなんだけど、彼はとっても優しい。そんな彼なら両親に感謝を伝えるために待っていたとしても全然、不思議じゃない。

 愛する婚約者と愛する両親。彼の立場に立ったら私は、決断できるだろうか──。

「それに死者だけじゃないんです」

 深森さんは言葉を切ると、真剣なまなざしで私を見つめる。

「これは生者にも言えることなんです。死者に会えるチャンスは一度しかありません。そのため、本当に今、その人に会うべきなのか。あるいは、もっと年を重ねたときのために、その一度きりの機会をとっておくべきではないのか──よく考える必要があります」
「──大丈夫です」

 考えるまでもなかった。自分の両親の顔が浮かばなかったとは言わないけれど、やっぱり私が会いたいのは、家族以外で私を愛してくれた人──聡介さんただひとりなのだ。

「それと、死者の方と会えるのは終電から始発までの一晩だけです。これから先方と交渉して了承を得られれば、今のダイヤだと午前0時ごろから午前5時ごろまでとなります。日取りにつきましては後日、調整いたします」
「はい。わかりました」

 終電から始発までのたった5時間。短時間というには長過ぎるが、長時間というには短過ぎる。それが、彼との本当に本当の最後の時間だ。その時間を通して、私は決断することができるのだろうか。

「では以上で終わりです。お疲れ様でした」
「ありがとうございました。よろしくお願いします」

 私は、その場で立ち上がると深くお辞儀をした。依頼が終わっただけなのに、少し肩の荷が下りたような気がする。


 外まで見送ってくれるという深森さんと休憩所を出たとき、偶然ほかの駅員さんと鉢合わせた。

 意外にもその駅員さんは若い女性だった。年齢は20歳ぐらい。もしかしたら10代かもしれない。日に焼けた褐色の肌に、さっぱりした短い髪。身長は女子の中では高い方じゃないだろうか。

「あ。深森さん、お疲れ様っす」

 元気よく挨拶する彼女は、私に気づくと不思議そうな顔を深森さんに向ける。

「何かあったんすか?」
「こちらのお客様が、大切なものを無くされたというので、お話を伺っていたんです」

 深森さんは、うろたえることもなく平然と答える。女性駅員さんは、納得したように頷いた。

「それなら私が本社の忘れ物センターに連絡しとくっすよ!」
「いや、大丈夫。それは僕の方でやっておきますから。福寺さんは、気にせず休憩行ってきてください」

 福寺と呼ばれた女性駅員さんは、「そうっすか」とつぶやくと、私に会釈して休憩所に入っていった。

「……ほかの駅員の方は知らないんですか?」

 駅務室の外まで送ってもらったあと尋ねると、深森さんは、にやりと笑って小さく答える。まるで誰も気づいていないイタズラを打ち明けるような、そんな子供っぽさで。

「ええ。“死者との改札係”は僕だけなんです。ほかの同僚は何も知りません」
「それじゃあ、私がもし別の人に声をかけていたら、依頼はできなかったんですね」
「“改札係”と出会えるかは巡り合わせですから。吉口さんが私と出会ったというのは、そういう運命だったんですよ」

 ──そういう運命。

 深森さんに声をかけたのは偶然のつもりだったけれど、もしかしたら聡介さんが私を呼んでいるのかもしれない。

 私はそうだったらいいなぁ、と思いながら駅を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...