京都伏見・たそがれ鉄道で会いましょう

秋月とわ

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第3会 赦しを願った駅

第15話 級友との再会①

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 気づけば、ホームの光景はすっかり様変わりしていた。

 さっきまで雨で湿っていたアスファルト敷きの床は、乾いた石畳に変わっていた。神社の参道のようなそれを、ぼんやりとした光を放つランタン型の電灯が照らす。

 光は不規則に揺らぎ、妖しい雰囲気を濃くしている。よく見ると、ランタンには稲穂の模様が施されているみたいだ。

 雰囲気にあてられてか、身体が宙に浮いたような妙な感覚がある。迷宮に迷い込んだ気分になりながら、ホームをとぼとぼ歩く。

 俺の足音にまじって、別の音がどこか遠くから聞こえた。もっと重い音。耳をすますと、それはどんどん近づいてくる。一定のリズムを響かせる、この心地のよい音は──電車の音だ。

 線路に顔を出すと、暗闇の先に、ぽつりとヘッドライトの光がのぞいた。轟音を響かせながら近づくそれは、巨体を現し、ものの数秒で駅の手前までやってくる。

 減速しながら、ホームへとすべり込む電車に、俺は一歩後ずさる。

 黄緑色をした4両編成の古い電車は、ブレーキの摩擦音を響かせて止まった。停車時の反動で、車両が大きくガタンと揺れる。

 あの世からの列車というからには、もっとおどろおどろしい見た目をしていると勝手に想像していた。まさか古いとはいえ、田舎の方ではまだまだ現役で走っていそうな車両がやってくるとは拍子抜けだ。

 ただ、普通の電車と違うのは、車内が眩しいところだ。何か強力な照明でも焚いているのか、外からだと車内は真っ白で何も見えない。果たして、悟は乗っているのか。

 空気圧が抜ける音がして、ドアが開く。緊張の面持ちで視線を向けた。

 白い光の向こうから現れた人影が、ホームに降り立つ。その姿を見て思わず息をのんだ。

 ──知性を宿した目、透けるような白い肌、そして立っているだけで、静寂がまとわりつくような姿勢のよさ。

 学ラン姿のそれは、まさに新田悟そのものだった。中学生時代から何も変わらない──悟だった。

「……おう、悟。悟じゃんか、久しぶり」
「久しぶり……か。僕にとっては、つい最近まで中学生の君といたんだけどね。それにしても、ずいぶん変わったね。スーツなんか着て立派な大人になったじゃないか」
「そりゃそうだろ。あれから12年も経ってるんだからよ。成長くらい誰でもするよ。……それより、あっちで座って話そうぜ!」

 俺は悟の後ろに回って肩に両手を置き、ベンチがある方へと誘う。背後ではドアが閉まり、電車が動き出していた。電車は、速度を上げ、あっという間に闇夜に消えていく。

 ベンチは数歩先にあった。レトロなそれは、古いだけで汚いということはない。ちゃんと管理されているのだろう。俺たちは、そこに並んで座る。

「それで、どうなんだ? あの世は。快適か?」
「……さっきも言ったけど、この12年間の記憶は僕にはないんだ。記憶……というより存在かな。まるで昔のセーブデータを呼び起こすみたいな感じ。君の方こそどうなんだい? ずいぶんと変わったようだけど」

 悟が俺の服装に目をやる。冷静を装っているが、興味津々なのは隠せていない。そりゃ、同級生が上等なスーツをビシッと着込んだ大人になっていたら、気になるのも仕方がない。

 咳払いひとつして、俺は何でもないことのように言う。

「……俺か? 俺は普通だよ。毎日、仕事ばっかりで、全然疲れが取れない。中学の頃は、部活が終わった後でも、まだ遊べる体力があったんだけど。年取ったよ」
「大人は大変だね。でも大人になったからこそ、楽しめるものもあるだろう?」
「酒やタバコのことか? あんなもん、子供が憧れるほどいいものでもねーよ」

 自嘲じみた笑い声を上げる。きっと今、悟の目には“かっこよく成長した大人”の俺が映っていることだろう。

「仕事はどう? 大変?」

 悟が俺を向いて、少し首を動かす。

「大変な時もあるけど、楽しくやってるよ。去年、本社勤務になってさ。同僚や上司もいい人ばっかりで、よくしてくれる。最近は新しい仕事を任されたりしたんだぞ」
「へえ……それはすごいね。君は優秀なんだ。中学生の君は授業中に寝てて先生に叱られているのにね」

 ふっと笑みを浮かべる悟に、俺は嬉しくなる。中学生に戻った気分だ。いや、中学時代は悟と仲良くしたことはなかった。なら今の関係は、当時以上だ。

「俺は、あのころの俺とは違うんだ。今じゃ、立派な社会人さ。見違えただろ?」

 胸を張ってスーパーマンのポーズ。へへん、と鼻を鳴らす。

「いやー。それにしても、またお前と会えるなんてな。あんな電車があるとはびっくりだな」
「たそがれ鉄道というらしいね。こんな非現実的なことが実際に起こるなんて僕は信じられないよ。これがアリなら、幽霊や妖怪だっているかもしれない」
「ふふ……。おもしれーこというな。お前がその幽霊だろ!」

 ツッコミの要領で、悟の背中を叩く。一瞬、彼の肩がビクッとしたような気がしたけれど、驚かせてしまったかな。でもこういう身体のコミュニケーションも仲の良い友達みたいで楽しい。

「幽霊ってさ、もっとこう、足がなかったり透けてたりするもんじゃねーの? お前、ちょっと健康すぎるだろ!」
「言うじゃないか。でも……残念ながら、ほら」

 口元を引き結んだ悟は、ピンと脚を伸ばす。そして続けた。
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