京都伏見・たそがれ鉄道で会いましょう

秋月とわ

文字の大きさ
76 / 99
第4会 姉の願いに気づく駅

第17話 姉妹のミサンガ③

しおりを挟む
 空気が変わったことに気づいたお姉ちゃんが、おとなしくなる。その顔には笑みと戸惑いが混ざっていた。

「ん? どうした?」
「お姉ちゃん。私な、嘘ついてた」
「嘘?」

 頷くと私はお姉ちゃんからスマホを返してもらう。そして印籠のようにスマホをお姉ちゃんに掲げる。そこに写った写真を見せつけるように。

「ここに写ってる私はニセモノやねん」
「はぁ? どう見ても雫やけど」
「人物としては私やけど、中身は違う。私はお姉ちゃんが死んでから、ずっとお姉ちゃんのふりをして生きてきてん」

 ──言ってしまった。

 ついに私はすべてを白状した。本当の“私”をお姉ちゃんに知ってもらうために。

「待って。意味わからん。何で私のふりする必要あるん?」
「それは……贖罪のつもりやったの。私のせいで死んだお姉ちゃんの代わりに、私は自分を消してお姉ちゃんになろうって。お姉ちゃんのやりたかったことを叶えようって」
「……なんで、そんな……」

 言葉が出ないお姉ちゃんを差し置いて、私は独白を続ける。

「ずっと無理をしてた。友達の前では調子のいい子を演じて、学校でも人気者になるために委員を引き受けたり、いろいろしたの。全部、“お姉ちゃんなら”どうするだろうって考えて。……でも、やっぱり無理。私はお姉ちゃんにはなられへん。今日、久しぶりに会ってよく分かったわ」

 違う。こんな風に懺悔するために本当のこと話したんじゃない。もっと明るくするつもりだった。

 けれど、口から出てくる言葉はどうしても贖罪を含んでしまう。違うのに。そうじゃないのに。

 お姉ちゃんは怒ってないし、私も責任を感じなくてもいいってわかっている。それなのに……。

 苦しくて、悲しくて、悔しくて。

 私は顔を伏せる。もう少しで泣いてしまいそうだったから。

「──雫」

 声がした。すっと私の中に一直線で入ってくるお姉ちゃんの声が。

 顔を上げると、お姉ちゃんは珍しく真剣な表情をしていた。

「雫。あんたは昔から真面目な子やったけど、そこまでバカ真面目にせんでええんやで。雫の人生は雫のもんやし、私の人生は私のもんや。雫が私の代わりになる必要はない。──雫、自分の人生を生きなさい」
「……お姉ちゃん」

 お姉ちゃんは言い切ると、ふっと優しく笑う。

 その瞬間、堪える間もなく涙が瞼を乗り越えた。私はそれを袖口で拭う。

 私が自分にかけていた呪いをお姉ちゃんは、あっという間に解いてしまった。今日だけで彼女にどれだけ助けられたことか。

「……お姉ちゃん、ありがとう」
「私は何もしてへんで。それより……雫の制服姿、見せてくれへん?」
「……なんでなん? 写真に写ってたやろ?」
「違うやん。写真に写ってたのは“咲良になろうとしてた雫”やろ。私が見たいのは“雫”の制服姿や」

 その言葉に、私は小さく頷いた。でもその前にひとつだけやりたいことがある。

「お姉ちゃんも写真、撮れへん? せっかく憧れの制服着れたんやし」
「それ、めっちゃいいやん! じゃあ、お願い!」

 ポーズをとったお姉ちゃんを、私はスマホのカメラにおさめた。死者を撮るなんて初めてだから、どう写るかまったく想像できない。心霊写真みたいになるのかなと思ったりもしたが、普通に写って拍子抜けした。

 それから順番にトイレに入って着替えた。お姉ちゃんは、元の服に。私は制服に。

「こうして見ると、やっぱり高校生やな」

 制服に着替えた私を見たお姉ちゃんの第一声は、意外にも冷静なひと言だった。お姉ちゃんのことだから「うわー、めっちゃかわいいやん!」とか言いそうだなって思っていた。

「なに? 大きくなったって言ってたのに信じてなかったん?」
「信じてたよ。でも実物を見ると納得というか、実感というか……そういうの、あるやん?」
「それは……わからんでもない」

 まさに今日、お姉ちゃんに会ったときに感じたことだ。死者と再会できると頭で分かっていても、実際にお姉ちゃんに会ってみて初めて実感した。きっとそんな感じなんだろう。

「それで……どう? 私の制服姿。似合ってる?」
「うーん。私の制服姿と甲乙つけ難いなぁ」
「なぜ、比べる……」
「いやぁ、こう同じ歳で同じ背格好だとライバル心が、ムクムクと……」

 たじろぐお姉ちゃんの姿に、思わず吹き出してしまう。なんだか本当に双子になった気分。本物の双子がこんな感じかは知らないけれど。

「お姉ちゃん、一緒に写真撮ろ! 記念に!」
「じゃあ場所移動しようや。トイレの前やで、ここ」
「……それもそうやな」

 どこかいいロケーションがないかと構内をうろうろとする。なんだか探検みたいで楽しい。

 お姉ちゃんと再会してから私たちはずっと下りホームにいた。駅舎とその横にあるトイレも下りホーム側にある。

「上り側にも行ってみよう」

 そんなお姉ちゃんの提案で、私たちは跨線橋を渡り、上りホームへと移動した。ホームの雰囲気は下り側と大差ない。吊り灯籠の照明と石畳の床。

 でも線路と反対側から微かに水が流れる音がした。川でも流れているのかと、探してみたけれど、真っ暗でよくわからない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...