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第4会 姉の願いに気づく駅
第17話 姉妹のミサンガ③
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空気が変わったことに気づいたお姉ちゃんが、おとなしくなる。その顔には笑みと戸惑いが混ざっていた。
「ん? どうした?」
「お姉ちゃん。私な、嘘ついてた」
「嘘?」
頷くと私はお姉ちゃんからスマホを返してもらう。そして印籠のようにスマホをお姉ちゃんに掲げる。そこに写った写真を見せつけるように。
「ここに写ってる私はニセモノやねん」
「はぁ? どう見ても雫やけど」
「人物としては私やけど、中身は違う。私はお姉ちゃんが死んでから、ずっとお姉ちゃんのふりをして生きてきてん」
──言ってしまった。
ついに私はすべてを白状した。本当の“私”をお姉ちゃんに知ってもらうために。
「待って。意味わからん。何で私のふりする必要あるん?」
「それは……贖罪のつもりやったの。私のせいで死んだお姉ちゃんの代わりに、私は自分を消してお姉ちゃんになろうって。お姉ちゃんのやりたかったことを叶えようって」
「……なんで、そんな……」
言葉が出ないお姉ちゃんを差し置いて、私は独白を続ける。
「ずっと無理をしてた。友達の前では調子のいい子を演じて、学校でも人気者になるために委員を引き受けたり、いろいろしたの。全部、“お姉ちゃんなら”どうするだろうって考えて。……でも、やっぱり無理。私はお姉ちゃんにはなられへん。今日、久しぶりに会ってよく分かったわ」
違う。こんな風に懺悔するために本当のこと話したんじゃない。もっと明るくするつもりだった。
けれど、口から出てくる言葉はどうしても贖罪を含んでしまう。違うのに。そうじゃないのに。
お姉ちゃんは怒ってないし、私も責任を感じなくてもいいってわかっている。それなのに……。
苦しくて、悲しくて、悔しくて。
私は顔を伏せる。もう少しで泣いてしまいそうだったから。
「──雫」
声がした。すっと私の中に一直線で入ってくるお姉ちゃんの声が。
顔を上げると、お姉ちゃんは珍しく真剣な表情をしていた。
「雫。あんたは昔から真面目な子やったけど、そこまでバカ真面目にせんでええんやで。雫の人生は雫のもんやし、私の人生は私のもんや。雫が私の代わりになる必要はない。──雫、自分の人生を生きなさい」
「……お姉ちゃん」
お姉ちゃんは言い切ると、ふっと優しく笑う。
その瞬間、堪える間もなく涙が瞼を乗り越えた。私はそれを袖口で拭う。
私が自分にかけていた呪いをお姉ちゃんは、あっという間に解いてしまった。今日だけで彼女にどれだけ助けられたことか。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
「私は何もしてへんで。それより……雫の制服姿、見せてくれへん?」
「……なんでなん? 写真に写ってたやろ?」
「違うやん。写真に写ってたのは“咲良になろうとしてた雫”やろ。私が見たいのは“雫”の制服姿や」
その言葉に、私は小さく頷いた。でもその前にひとつだけやりたいことがある。
「お姉ちゃんも写真、撮れへん? せっかく憧れの制服着れたんやし」
「それ、めっちゃいいやん! じゃあ、お願い!」
ポーズをとったお姉ちゃんを、私はスマホのカメラにおさめた。死者を撮るなんて初めてだから、どう写るかまったく想像できない。心霊写真みたいになるのかなと思ったりもしたが、普通に写って拍子抜けした。
それから順番にトイレに入って着替えた。お姉ちゃんは、元の服に。私は制服に。
「こうして見ると、やっぱり高校生やな」
制服に着替えた私を見たお姉ちゃんの第一声は、意外にも冷静なひと言だった。お姉ちゃんのことだから「うわー、めっちゃかわいいやん!」とか言いそうだなって思っていた。
「なに? 大きくなったって言ってたのに信じてなかったん?」
「信じてたよ。でも実物を見ると納得というか、実感というか……そういうの、あるやん?」
「それは……わからんでもない」
まさに今日、お姉ちゃんに会ったときに感じたことだ。死者と再会できると頭で分かっていても、実際にお姉ちゃんに会ってみて初めて実感した。きっとそんな感じなんだろう。
「それで……どう? 私の制服姿。似合ってる?」
「うーん。私の制服姿と甲乙つけ難いなぁ」
「なぜ、比べる……」
「いやぁ、こう同じ歳で同じ背格好だとライバル心が、ムクムクと……」
たじろぐお姉ちゃんの姿に、思わず吹き出してしまう。なんだか本当に双子になった気分。本物の双子がこんな感じかは知らないけれど。
「お姉ちゃん、一緒に写真撮ろ! 記念に!」
「じゃあ場所移動しようや。トイレの前やで、ここ」
「……それもそうやな」
どこかいいロケーションがないかと構内をうろうろとする。なんだか探検みたいで楽しい。
お姉ちゃんと再会してから私たちはずっと下りホームにいた。駅舎とその横にあるトイレも下りホーム側にある。
「上り側にも行ってみよう」
そんなお姉ちゃんの提案で、私たちは跨線橋を渡り、上りホームへと移動した。ホームの雰囲気は下り側と大差ない。吊り灯籠の照明と石畳の床。
でも線路と反対側から微かに水が流れる音がした。川でも流れているのかと、探してみたけれど、真っ暗でよくわからない。
「ん? どうした?」
「お姉ちゃん。私な、嘘ついてた」
「嘘?」
頷くと私はお姉ちゃんからスマホを返してもらう。そして印籠のようにスマホをお姉ちゃんに掲げる。そこに写った写真を見せつけるように。
「ここに写ってる私はニセモノやねん」
「はぁ? どう見ても雫やけど」
「人物としては私やけど、中身は違う。私はお姉ちゃんが死んでから、ずっとお姉ちゃんのふりをして生きてきてん」
──言ってしまった。
ついに私はすべてを白状した。本当の“私”をお姉ちゃんに知ってもらうために。
「待って。意味わからん。何で私のふりする必要あるん?」
「それは……贖罪のつもりやったの。私のせいで死んだお姉ちゃんの代わりに、私は自分を消してお姉ちゃんになろうって。お姉ちゃんのやりたかったことを叶えようって」
「……なんで、そんな……」
言葉が出ないお姉ちゃんを差し置いて、私は独白を続ける。
「ずっと無理をしてた。友達の前では調子のいい子を演じて、学校でも人気者になるために委員を引き受けたり、いろいろしたの。全部、“お姉ちゃんなら”どうするだろうって考えて。……でも、やっぱり無理。私はお姉ちゃんにはなられへん。今日、久しぶりに会ってよく分かったわ」
違う。こんな風に懺悔するために本当のこと話したんじゃない。もっと明るくするつもりだった。
けれど、口から出てくる言葉はどうしても贖罪を含んでしまう。違うのに。そうじゃないのに。
お姉ちゃんは怒ってないし、私も責任を感じなくてもいいってわかっている。それなのに……。
苦しくて、悲しくて、悔しくて。
私は顔を伏せる。もう少しで泣いてしまいそうだったから。
「──雫」
声がした。すっと私の中に一直線で入ってくるお姉ちゃんの声が。
顔を上げると、お姉ちゃんは珍しく真剣な表情をしていた。
「雫。あんたは昔から真面目な子やったけど、そこまでバカ真面目にせんでええんやで。雫の人生は雫のもんやし、私の人生は私のもんや。雫が私の代わりになる必要はない。──雫、自分の人生を生きなさい」
「……お姉ちゃん」
お姉ちゃんは言い切ると、ふっと優しく笑う。
その瞬間、堪える間もなく涙が瞼を乗り越えた。私はそれを袖口で拭う。
私が自分にかけていた呪いをお姉ちゃんは、あっという間に解いてしまった。今日だけで彼女にどれだけ助けられたことか。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
「私は何もしてへんで。それより……雫の制服姿、見せてくれへん?」
「……なんでなん? 写真に写ってたやろ?」
「違うやん。写真に写ってたのは“咲良になろうとしてた雫”やろ。私が見たいのは“雫”の制服姿や」
その言葉に、私は小さく頷いた。でもその前にひとつだけやりたいことがある。
「お姉ちゃんも写真、撮れへん? せっかく憧れの制服着れたんやし」
「それ、めっちゃいいやん! じゃあ、お願い!」
ポーズをとったお姉ちゃんを、私はスマホのカメラにおさめた。死者を撮るなんて初めてだから、どう写るかまったく想像できない。心霊写真みたいになるのかなと思ったりもしたが、普通に写って拍子抜けした。
それから順番にトイレに入って着替えた。お姉ちゃんは、元の服に。私は制服に。
「こうして見ると、やっぱり高校生やな」
制服に着替えた私を見たお姉ちゃんの第一声は、意外にも冷静なひと言だった。お姉ちゃんのことだから「うわー、めっちゃかわいいやん!」とか言いそうだなって思っていた。
「なに? 大きくなったって言ってたのに信じてなかったん?」
「信じてたよ。でも実物を見ると納得というか、実感というか……そういうの、あるやん?」
「それは……わからんでもない」
まさに今日、お姉ちゃんに会ったときに感じたことだ。死者と再会できると頭で分かっていても、実際にお姉ちゃんに会ってみて初めて実感した。きっとそんな感じなんだろう。
「それで……どう? 私の制服姿。似合ってる?」
「うーん。私の制服姿と甲乙つけ難いなぁ」
「なぜ、比べる……」
「いやぁ、こう同じ歳で同じ背格好だとライバル心が、ムクムクと……」
たじろぐお姉ちゃんの姿に、思わず吹き出してしまう。なんだか本当に双子になった気分。本物の双子がこんな感じかは知らないけれど。
「お姉ちゃん、一緒に写真撮ろ! 記念に!」
「じゃあ場所移動しようや。トイレの前やで、ここ」
「……それもそうやな」
どこかいいロケーションがないかと構内をうろうろとする。なんだか探検みたいで楽しい。
お姉ちゃんと再会してから私たちはずっと下りホームにいた。駅舎とその横にあるトイレも下りホーム側にある。
「上り側にも行ってみよう」
そんなお姉ちゃんの提案で、私たちは跨線橋を渡り、上りホームへと移動した。ホームの雰囲気は下り側と大差ない。吊り灯籠の照明と石畳の床。
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