京都伏見・たそがれ鉄道で会いましょう

秋月とわ

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第4会 姉の願いに気づく駅

第16話 姉妹のミサンガ②

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「……どうかな、雫? 似合ってる?」

 トイレから出てきたお姉ちゃんは、制服の裾を気にしながら恥ずかしそうに尋ねる。私にとってはまだ身体に馴染んでいないその制服を、お姉ちゃんは見事に着こなしていた。まるで、もともとお姉ちゃんのために仕立てたようにすら見えた。

「めっちゃ似合ってる! サイズはどう?」
「ぴったり! ほんまに双子みたい」

 無理やりバッグに詰めたから、シワになっていないか心配だったけれど、大丈夫そうで一安心。

 本当はスーツカバーに入れてくるべきだったけれど、夜中まで家の外に隠しておくには、できるだけ小さくしておきたかったのだ。

「見て見て! どう、女子高生っぽい?」

 お姉ちゃんは腰に手をあて、目元でピースした。女子高生っぽいポーズかはさておき、今のお姉ちゃんは、まぎれもなく“女子高生”だった。

「めっちゃ女子高生っぽいで! 私より似合ってるかも」
「もう、うまいこと言って! お姉ちゃん何にもあげられへんで!」

 仕草の端々から、浮かれ具合が見てとれる。そこまで喜んでもらったら、持ってきた甲斐が──いや、鴨川西高校に入った甲斐があったというもの。

 ほっとするとともに、今までの全部が報われた気がして、少し泣きそうになった。

「いいなぁ。雫は毎日これを来てるんや」
「まーね。制服だし普通だよ」

 そこでお姉ちゃんは、何かに気づいたように、はっとした。それからニマニマとした笑みを浮かべる。

「ねえ、ねえ。高校ってどんな感じ? ……彼氏とかできた?」
「そ、そんなのおれへんよ。学校は普通に楽しくやってるけど。あ、ちょっと待って……」

 私はスマホを出して、友達との写真を見せる。教室で撮ったものや放課後にみんなでカフェへ行ったときに撮ったのもある。

「うわー! いいなっ! いいなっ! 私もしたかったー! くそーっ!」

 相変わらずテンション高く、飛び跳ねながら言う彼女に少し肩身が狭い。私に責任がないと理解していても、やっぱりお姉ちゃんには来ない未来を生きていることには罪悪感とまではいかないけれど、申し訳なさがある。

 しかしお姉ちゃんはめざとかった。ニコニコしながらもそっと私の肩に手を置いた。

「雫は気にすんな。これは私の迂闊さに対しての悔しさやから」
「……う、うん。ありがと」

 やっぱりお姉ちゃんだなぁ、って思った。私の性格をよくわかっている。こんな人を亡くしたなんてやっぱり惜しいし、悲しい。

「もっと見せてや」
「じゃあ、はい」

 スマホごと渡す。お姉ちゃんは画面を食い入るように見ながら、写真を次から次へとスライドする。

 どれも私の渾身の一枚。“お姉ちゃんなら”を追求したこだわりが、全然に込められている。

 お姉ちゃんなら、仲良くなりそうな友達。

 お姉ちゃんなら、するであろうファッション。

 お姉ちゃんなら、行くであろう場所。

 私の中の“お姉ちゃん”を極限まで再現した。少し心配なのは、ちゃんと笑えているかどうかだけ。できるだけ表情は作ったけれど、お姉ちゃんなら見破ってしまうかもしれない。

「はあー。憧れる……。それにしても、雫。性格変わったなぁ。私の知ってる雫はこんな友達と遊ばん気がするわ」

 ──ギクッ。

 さすがお姉ちゃん。鋭いなぁ。私は動揺悟られぬように、言い訳を繕う。

「ま、まぁ。5年も経ってればね。わ、私だって変わるよ」
「そう……やな。ごめん、ごめん! 変なこと言って。いやぁ、でも私に似てきたんちゃう? “さくら”の名を継ぐのはお主しかおらん、なんちゃって」

 おどけるお姉ちゃんに私は作り笑いで返す。私が贖罪でお姉ちゃんのふりをしていたと知ったら彼女はどう思うのだろう。

 純粋な変化だと思って喜んでいるお姉ちゃんを見ていると、ひどく悪いことをしている気分になる。私はお姉ちゃんを騙しているのだ。そこに写っているのは“私”じゃない“お姉ちゃんを取り繕った私”だ。

 このまま性格が変わった私だと思わせていてもよかったのかもしれない。だけど、それはなんか違うな、と思った。

 嘘で塗り固めた私を見てお姉ちゃんは本当に嬉しいんだろうか。もう二度と会うことができない彼女には、ありのままの姿を見せるべきじゃないのか。

 はしゃいでいるお姉ちゃんの横顔を見ながら、私は拳を握り締めた。

「──ねぇ、お姉ちゃん」

 硬い声が、闇夜にこだまする。弱い風が吹いて、私の髪を揺らした。
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