75 / 99
第4会 姉の願いに気づく駅
第16話 姉妹のミサンガ②
しおりを挟む
「……どうかな、雫? 似合ってる?」
トイレから出てきたお姉ちゃんは、制服の裾を気にしながら恥ずかしそうに尋ねる。私にとってはまだ身体に馴染んでいないその制服を、お姉ちゃんは見事に着こなしていた。まるで、もともとお姉ちゃんのために仕立てたようにすら見えた。
「めっちゃ似合ってる! サイズはどう?」
「ぴったり! ほんまに双子みたい」
無理やりバッグに詰めたから、シワになっていないか心配だったけれど、大丈夫そうで一安心。
本当はスーツカバーに入れてくるべきだったけれど、夜中まで家の外に隠しておくには、できるだけ小さくしておきたかったのだ。
「見て見て! どう、女子高生っぽい?」
お姉ちゃんは腰に手をあて、目元でピースした。女子高生っぽいポーズかはさておき、今のお姉ちゃんは、まぎれもなく“女子高生”だった。
「めっちゃ女子高生っぽいで! 私より似合ってるかも」
「もう、うまいこと言って! お姉ちゃん何にもあげられへんで!」
仕草の端々から、浮かれ具合が見てとれる。そこまで喜んでもらったら、持ってきた甲斐が──いや、鴨川西高校に入った甲斐があったというもの。
ほっとするとともに、今までの全部が報われた気がして、少し泣きそうになった。
「いいなぁ。雫は毎日これを来てるんや」
「まーね。制服だし普通だよ」
そこでお姉ちゃんは、何かに気づいたように、はっとした。それからニマニマとした笑みを浮かべる。
「ねえ、ねえ。高校ってどんな感じ? ……彼氏とかできた?」
「そ、そんなのおれへんよ。学校は普通に楽しくやってるけど。あ、ちょっと待って……」
私はスマホを出して、友達との写真を見せる。教室で撮ったものや放課後にみんなでカフェへ行ったときに撮ったのもある。
「うわー! いいなっ! いいなっ! 私もしたかったー! くそーっ!」
相変わらずテンション高く、飛び跳ねながら言う彼女に少し肩身が狭い。私に責任がないと理解していても、やっぱりお姉ちゃんには来ない未来を生きていることには罪悪感とまではいかないけれど、申し訳なさがある。
しかしお姉ちゃんはめざとかった。ニコニコしながらもそっと私の肩に手を置いた。
「雫は気にすんな。これは私の迂闊さに対しての悔しさやから」
「……う、うん。ありがと」
やっぱりお姉ちゃんだなぁ、って思った。私の性格をよくわかっている。こんな人を亡くしたなんてやっぱり惜しいし、悲しい。
「もっと見せてや」
「じゃあ、はい」
スマホごと渡す。お姉ちゃんは画面を食い入るように見ながら、写真を次から次へとスライドする。
どれも私の渾身の一枚。“お姉ちゃんなら”を追求したこだわりが、全然に込められている。
お姉ちゃんなら、仲良くなりそうな友達。
お姉ちゃんなら、するであろうファッション。
お姉ちゃんなら、行くであろう場所。
私の中の“お姉ちゃん”を極限まで再現した。少し心配なのは、ちゃんと笑えているかどうかだけ。できるだけ表情は作ったけれど、お姉ちゃんなら見破ってしまうかもしれない。
「はあー。憧れる……。それにしても、雫。性格変わったなぁ。私の知ってる雫はこんな友達と遊ばん気がするわ」
──ギクッ。
さすがお姉ちゃん。鋭いなぁ。私は動揺悟られぬように、言い訳を繕う。
「ま、まぁ。5年も経ってればね。わ、私だって変わるよ」
「そう……やな。ごめん、ごめん! 変なこと言って。いやぁ、でも私に似てきたんちゃう? “さくら”の名を継ぐのはお主しかおらん、なんちゃって」
おどけるお姉ちゃんに私は作り笑いで返す。私が贖罪でお姉ちゃんのふりをしていたと知ったら彼女はどう思うのだろう。
純粋な変化だと思って喜んでいるお姉ちゃんを見ていると、ひどく悪いことをしている気分になる。私はお姉ちゃんを騙しているのだ。そこに写っているのは“私”じゃない“お姉ちゃんを取り繕った私”だ。
このまま性格が変わった私だと思わせていてもよかったのかもしれない。だけど、それはなんか違うな、と思った。
嘘で塗り固めた私を見てお姉ちゃんは本当に嬉しいんだろうか。もう二度と会うことができない彼女には、ありのままの姿を見せるべきじゃないのか。
はしゃいでいるお姉ちゃんの横顔を見ながら、私は拳を握り締めた。
「──ねぇ、お姉ちゃん」
硬い声が、闇夜にこだまする。弱い風が吹いて、私の髪を揺らした。
トイレから出てきたお姉ちゃんは、制服の裾を気にしながら恥ずかしそうに尋ねる。私にとってはまだ身体に馴染んでいないその制服を、お姉ちゃんは見事に着こなしていた。まるで、もともとお姉ちゃんのために仕立てたようにすら見えた。
「めっちゃ似合ってる! サイズはどう?」
「ぴったり! ほんまに双子みたい」
無理やりバッグに詰めたから、シワになっていないか心配だったけれど、大丈夫そうで一安心。
本当はスーツカバーに入れてくるべきだったけれど、夜中まで家の外に隠しておくには、できるだけ小さくしておきたかったのだ。
「見て見て! どう、女子高生っぽい?」
お姉ちゃんは腰に手をあて、目元でピースした。女子高生っぽいポーズかはさておき、今のお姉ちゃんは、まぎれもなく“女子高生”だった。
「めっちゃ女子高生っぽいで! 私より似合ってるかも」
「もう、うまいこと言って! お姉ちゃん何にもあげられへんで!」
仕草の端々から、浮かれ具合が見てとれる。そこまで喜んでもらったら、持ってきた甲斐が──いや、鴨川西高校に入った甲斐があったというもの。
ほっとするとともに、今までの全部が報われた気がして、少し泣きそうになった。
「いいなぁ。雫は毎日これを来てるんや」
「まーね。制服だし普通だよ」
そこでお姉ちゃんは、何かに気づいたように、はっとした。それからニマニマとした笑みを浮かべる。
「ねえ、ねえ。高校ってどんな感じ? ……彼氏とかできた?」
「そ、そんなのおれへんよ。学校は普通に楽しくやってるけど。あ、ちょっと待って……」
私はスマホを出して、友達との写真を見せる。教室で撮ったものや放課後にみんなでカフェへ行ったときに撮ったのもある。
「うわー! いいなっ! いいなっ! 私もしたかったー! くそーっ!」
相変わらずテンション高く、飛び跳ねながら言う彼女に少し肩身が狭い。私に責任がないと理解していても、やっぱりお姉ちゃんには来ない未来を生きていることには罪悪感とまではいかないけれど、申し訳なさがある。
しかしお姉ちゃんはめざとかった。ニコニコしながらもそっと私の肩に手を置いた。
「雫は気にすんな。これは私の迂闊さに対しての悔しさやから」
「……う、うん。ありがと」
やっぱりお姉ちゃんだなぁ、って思った。私の性格をよくわかっている。こんな人を亡くしたなんてやっぱり惜しいし、悲しい。
「もっと見せてや」
「じゃあ、はい」
スマホごと渡す。お姉ちゃんは画面を食い入るように見ながら、写真を次から次へとスライドする。
どれも私の渾身の一枚。“お姉ちゃんなら”を追求したこだわりが、全然に込められている。
お姉ちゃんなら、仲良くなりそうな友達。
お姉ちゃんなら、するであろうファッション。
お姉ちゃんなら、行くであろう場所。
私の中の“お姉ちゃん”を極限まで再現した。少し心配なのは、ちゃんと笑えているかどうかだけ。できるだけ表情は作ったけれど、お姉ちゃんなら見破ってしまうかもしれない。
「はあー。憧れる……。それにしても、雫。性格変わったなぁ。私の知ってる雫はこんな友達と遊ばん気がするわ」
──ギクッ。
さすがお姉ちゃん。鋭いなぁ。私は動揺悟られぬように、言い訳を繕う。
「ま、まぁ。5年も経ってればね。わ、私だって変わるよ」
「そう……やな。ごめん、ごめん! 変なこと言って。いやぁ、でも私に似てきたんちゃう? “さくら”の名を継ぐのはお主しかおらん、なんちゃって」
おどけるお姉ちゃんに私は作り笑いで返す。私が贖罪でお姉ちゃんのふりをしていたと知ったら彼女はどう思うのだろう。
純粋な変化だと思って喜んでいるお姉ちゃんを見ていると、ひどく悪いことをしている気分になる。私はお姉ちゃんを騙しているのだ。そこに写っているのは“私”じゃない“お姉ちゃんを取り繕った私”だ。
このまま性格が変わった私だと思わせていてもよかったのかもしれない。だけど、それはなんか違うな、と思った。
嘘で塗り固めた私を見てお姉ちゃんは本当に嬉しいんだろうか。もう二度と会うことができない彼女には、ありのままの姿を見せるべきじゃないのか。
はしゃいでいるお姉ちゃんの横顔を見ながら、私は拳を握り締めた。
「──ねぇ、お姉ちゃん」
硬い声が、闇夜にこだまする。弱い風が吹いて、私の髪を揺らした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなパン屋の恋物語
あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。
毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。
一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。
いつもの日常。
いつものルーチンワーク。
◆小さなパン屋minamiのオーナー◆
南部琴葉(ナンブコトハ) 25
早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。
自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。
この先もずっと仕事人間なんだろう。
別にそれで構わない。
そんな風に思っていた。
◆早瀬設計事務所 副社長◆
早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27
二人の出会いはたったひとつのパンだった。
**********
作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる