20 / 32
3章
第20話 近道
しおりを挟む
「もう終わりなんでしょ? 一緒に帰ろうよ!」
そんな夏海の提案に私たち3人は、一緒に帰ることになった。言い出した張本人の夏海が会話の中心になりながら参道を下る。彼女の興味は私にあるようで、次々と質問してくる。
「都会の子ってどんな遊びしてるのー?」
「別に普通だよ。ゲームとかスマホとかネットとか」
「えー、いいなぁ。あたしゲーム持ってないからさ」
「ここの子たちは、何して遊ぶの? 飛び込み?」
「夏はそうだよね。ね、あつ兄」
夏海が話を振ると、篤志くんは「おう」と小さく返事した。
「ん? どうしたの、あつ兄。いつもはもっと喋るのに」
「……そんなことない。気のせいだ」
プイッとよそを向く篤志くんに夏海が首を傾げる。
何か嫌な気分にさせるようなことを言ってしまったのかと、ヒヤリとした。何とかして場の空気を明るくしなくては……。
「あ、そういえばさ。“スズノハの木”って知ってる?」
「それ、裏参道にある木でしょ? この前、雷が落ちた」
さっそく夏海が食いついて、私は心の中で親指を立てた。ナイス。夏海!
「もうないよ、その木。何週間か前に倒れたら危ないからって、切り倒されたぞ」
篤志くんまで、話題に入って来て、今度は心の中でガッツポーズを決める。
「あの木、何で“スズノハ”の木って言われているか知ってる?」
私が尋ねると、2人は揃って首を振った。
「おじいちゃんから聞いたんだけど」と前置きして、私は今朝聞いたばかりの話を2人に披露した。
話終わると2人は感嘆の声を上げる。地元の話題で地元の人間に勝てたような気がして、少し気分がよかった。
その時、私はある名案をひらめいた。毎日のめんどくさい水やりをこの2人に押しつけてしまうのはどうだろう?
夏海なんかは、楽しそうにやってくれるに違いない。そうと決まれば、スズノハさんに話を通して、正式に任を解いてもらおう。黙って交代してもよかったけれど、そこはやっぱり筋を通した方があと腐れないだろう。いっそのこと、この2人を直接スズノハさんに紹介してしまうのもいいかもしれない。
あとはどうやって夏海と篤志くんをスズノハさんのところに連れいくかだけれど、これは簡単。まだこの町に慣れていない私だからできる方法がある。
私は無邪気を装っておもむろに声を上げた。
「ねえ。スズノハの木、見に行ってみたいなー。連れて行ってよ!」
「え? 今から? ……別にいいけれど……。あつ兄は?」
夏海が篤志くんの方を向く。篤志くんも特に嫌な顔をすることもなく「いいよ」と頷いた。
私の小賢しい作戦など知らない2人は、そのお願いを心よく受け入れてくれた。チョロすぎる。やっぱり田舎の子たちって純粋なんだろうか? 私にとっては都合がいいから別にいいんだけど。
「でも──」
と篤志くんが口を挟む。
「裏参道に行くには、今歩いているこの表参道を最後まで下って回り込むか、神社まで戻るしか道がないから面倒くさいな」
「あ、それならいい道知ってるよー!」
夏海が声を上げる。ついてくるように言う彼女の後を私は篤志くんと共に追いかけた。
夏海は参道から森の中に続く横道にそれる。それは道というには、いささか狭く、荒れていた。鬱蒼と茂る木々の葉をかき分けながら道を進んだ。
「ちょっと、夏海。大丈夫なの、この道?」
「このあたり、イノシシ出るんだろ? 遠回りになるけれど、迂回しよ」
私と篤志くんの心配なんて気にするそぶりも見せず、夏海はずんずん先に行く。
「大丈夫だって。私はまだ遭遇したことないし」
脳裏に裏参道にあった『イノシシ注意』の看板がよぎる。普通の道ですら、あんな看板があるのに、こんな道とも呼べぬ森の中なんて安心できるわけない。
「ほら、もう少しだよ。あー……」
おもむろに夏海は動きを止めた。突然のことで、私は彼女の背中に鼻をぶつけてしまった。
「なに? どうしたの?」
鼻を押さえながら尋ねると、夏海は錆びたロボットみたいに振り返った。その顔は青い。
そんな夏海の提案に私たち3人は、一緒に帰ることになった。言い出した張本人の夏海が会話の中心になりながら参道を下る。彼女の興味は私にあるようで、次々と質問してくる。
「都会の子ってどんな遊びしてるのー?」
「別に普通だよ。ゲームとかスマホとかネットとか」
「えー、いいなぁ。あたしゲーム持ってないからさ」
「ここの子たちは、何して遊ぶの? 飛び込み?」
「夏はそうだよね。ね、あつ兄」
夏海が話を振ると、篤志くんは「おう」と小さく返事した。
「ん? どうしたの、あつ兄。いつもはもっと喋るのに」
「……そんなことない。気のせいだ」
プイッとよそを向く篤志くんに夏海が首を傾げる。
何か嫌な気分にさせるようなことを言ってしまったのかと、ヒヤリとした。何とかして場の空気を明るくしなくては……。
「あ、そういえばさ。“スズノハの木”って知ってる?」
「それ、裏参道にある木でしょ? この前、雷が落ちた」
さっそく夏海が食いついて、私は心の中で親指を立てた。ナイス。夏海!
「もうないよ、その木。何週間か前に倒れたら危ないからって、切り倒されたぞ」
篤志くんまで、話題に入って来て、今度は心の中でガッツポーズを決める。
「あの木、何で“スズノハ”の木って言われているか知ってる?」
私が尋ねると、2人は揃って首を振った。
「おじいちゃんから聞いたんだけど」と前置きして、私は今朝聞いたばかりの話を2人に披露した。
話終わると2人は感嘆の声を上げる。地元の話題で地元の人間に勝てたような気がして、少し気分がよかった。
その時、私はある名案をひらめいた。毎日のめんどくさい水やりをこの2人に押しつけてしまうのはどうだろう?
夏海なんかは、楽しそうにやってくれるに違いない。そうと決まれば、スズノハさんに話を通して、正式に任を解いてもらおう。黙って交代してもよかったけれど、そこはやっぱり筋を通した方があと腐れないだろう。いっそのこと、この2人を直接スズノハさんに紹介してしまうのもいいかもしれない。
あとはどうやって夏海と篤志くんをスズノハさんのところに連れいくかだけれど、これは簡単。まだこの町に慣れていない私だからできる方法がある。
私は無邪気を装っておもむろに声を上げた。
「ねえ。スズノハの木、見に行ってみたいなー。連れて行ってよ!」
「え? 今から? ……別にいいけれど……。あつ兄は?」
夏海が篤志くんの方を向く。篤志くんも特に嫌な顔をすることもなく「いいよ」と頷いた。
私の小賢しい作戦など知らない2人は、そのお願いを心よく受け入れてくれた。チョロすぎる。やっぱり田舎の子たちって純粋なんだろうか? 私にとっては都合がいいから別にいいんだけど。
「でも──」
と篤志くんが口を挟む。
「裏参道に行くには、今歩いているこの表参道を最後まで下って回り込むか、神社まで戻るしか道がないから面倒くさいな」
「あ、それならいい道知ってるよー!」
夏海が声を上げる。ついてくるように言う彼女の後を私は篤志くんと共に追いかけた。
夏海は参道から森の中に続く横道にそれる。それは道というには、いささか狭く、荒れていた。鬱蒼と茂る木々の葉をかき分けながら道を進んだ。
「ちょっと、夏海。大丈夫なの、この道?」
「このあたり、イノシシ出るんだろ? 遠回りになるけれど、迂回しよ」
私と篤志くんの心配なんて気にするそぶりも見せず、夏海はずんずん先に行く。
「大丈夫だって。私はまだ遭遇したことないし」
脳裏に裏参道にあった『イノシシ注意』の看板がよぎる。普通の道ですら、あんな看板があるのに、こんな道とも呼べぬ森の中なんて安心できるわけない。
「ほら、もう少しだよ。あー……」
おもむろに夏海は動きを止めた。突然のことで、私は彼女の背中に鼻をぶつけてしまった。
「なに? どうしたの?」
鼻を押さえながら尋ねると、夏海は錆びたロボットみたいに振り返った。その顔は青い。
0
あなたにおすすめの小説
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる