スズノハの約束

秋月とわ

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3章

第20話 近道

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「もう終わりなんでしょ? 一緒に帰ろうよ!」

 そんな夏海の提案に私たち3人は、一緒に帰ることになった。言い出した張本人の夏海が会話の中心になりながら参道を下る。彼女の興味は私にあるようで、次々と質問してくる。

「都会の子ってどんな遊びしてるのー?」
「別に普通だよ。ゲームとかスマホとかネットとか」
「えー、いいなぁ。あたしゲーム持ってないからさ」
「ここの子たちは、何して遊ぶの? 飛び込み?」
「夏はそうだよね。ね、あつ兄」

 夏海が話を振ると、篤志くんは「おう」と小さく返事した。

「ん? どうしたの、あつ兄。いつもはもっと喋るのに」
「……そんなことない。気のせいだ」

 プイッとよそを向く篤志くんに夏海が首を傾げる。

 何か嫌な気分にさせるようなことを言ってしまったのかと、ヒヤリとした。何とかして場の空気を明るくしなくては……。

「あ、そういえばさ。“スズノハの木”って知ってる?」
「それ、裏参道にある木でしょ? この前、雷が落ちた」

 さっそく夏海が食いついて、私は心の中で親指を立てた。ナイス。夏海!

「もうないよ、その木。何週間か前に倒れたら危ないからって、切り倒されたぞ」

 篤志くんまで、話題に入って来て、今度は心の中でガッツポーズを決める。

「あの木、何で“スズノハ”の木って言われているか知ってる?」

 私が尋ねると、2人は揃って首を振った。

「おじいちゃんから聞いたんだけど」と前置きして、私は今朝聞いたばかりの話を2人に披露した。

 話終わると2人は感嘆の声を上げる。地元の話題で地元の人間に勝てたような気がして、少し気分がよかった。

 その時、私はある名案をひらめいた。毎日のめんどくさい水やりをこの2人に押しつけてしまうのはどうだろう?

 夏海なんかは、楽しそうにやってくれるに違いない。そうと決まれば、スズノハさんに話を通して、正式に任を解いてもらおう。黙って交代してもよかったけれど、そこはやっぱり筋を通した方があと腐れないだろう。いっそのこと、この2人を直接スズノハさんに紹介してしまうのもいいかもしれない。

 あとはどうやって夏海と篤志くんをスズノハさんのところに連れいくかだけれど、これは簡単。まだこの町に慣れていない私だからできる方法がある。

 私は無邪気を装っておもむろに声を上げた。

「ねえ。スズノハの木、見に行ってみたいなー。連れて行ってよ!」
「え? 今から? ……別にいいけれど……。あつ兄は?」

 夏海が篤志くんの方を向く。篤志くんも特に嫌な顔をすることもなく「いいよ」と頷いた。

 私の小賢しい作戦など知らない2人は、そのお願いを心よく受け入れてくれた。チョロすぎる。やっぱり田舎の子たちって純粋なんだろうか? 私にとっては都合がいいから別にいいんだけど。

「でも──」

 と篤志くんが口を挟む。

「裏参道に行くには、今歩いているこの表参道を最後まで下って回り込むか、神社まで戻るしか道がないから面倒くさいな」
「あ、それならいい道知ってるよー!」

 夏海が声を上げる。ついてくるように言う彼女の後を私は篤志くんと共に追いかけた。

 夏海は参道から森の中に続く横道にそれる。それは道というには、いささか狭く、荒れていた。鬱蒼と茂る木々の葉をかき分けながら道を進んだ。

「ちょっと、夏海。大丈夫なの、この道?」
「このあたり、イノシシ出るんだろ? 遠回りになるけれど、迂回しよ」

 私と篤志くんの心配なんて気にするそぶりも見せず、夏海はずんずん先に行く。

「大丈夫だって。私はまだ遭遇したことないし」

 脳裏に裏参道にあった『イノシシ注意』の看板がよぎる。普通の道ですら、あんな看板があるのに、こんな道とも呼べぬ森の中なんて安心できるわけない。

「ほら、もう少しだよ。あー……」

 おもむろに夏海は動きを止めた。突然のことで、私は彼女の背中に鼻をぶつけてしまった。

「なに? どうしたの?」

 鼻を押さえながら尋ねると、夏海は錆びたロボットみたいに振り返った。その顔は青い。
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