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4章
第22話 夏祭り当日
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「未来ちゃん、ぴったりやに」
姿見に映った浴衣姿の私を見て、おばあちゃんは帯を締める手を緩めた。アサガオの模様が入ったこの浴衣は、お母さんが昔来ていたものだ。
「どう? 似合ってる?」
「むっちゃ似合うとるに。ちっこい頃のおかやんそっくりやに」
お母さんの浴衣は、どことなくタンスの匂いがした。それもそのはずで、お母さんが子供の頃に着たっきりタンスの肥やしになっていたのだから。
私が夏海と今日の夏祭りに行くことを話すと、おばあちゃんが「せっかくだから」とタンスの奥底からわざわざ出してくれたのだ。
気がつけば早いもので、8月も半ば。お盆のお祭り当日になっていた。
結局、あの日はイノシシに追いかけられたせいで、ヘトヘトになり、スズノハさんのところに行くことは叶わなかった。
それに私も毎日の水やりにも慣れてしまって、誰かにこの仕事を押し付けてやろうと悪巧みもしなくなった。行くにはめんどくさかったけれど、ここではやることが本当に何もないのだ。ちょっとした暇つぶし感覚で通ううちに、もう毎日の日課になっている。
スズノハさんは相変わらず約束を思い出せない一方で、力は日々衰えているようだった。最近は会いにいく度に「ワシの消える日も近い」と約束を守れなかったことを悔んでいる。
そんな姿を見ているのも悲しいので、何とか元気になってほしいところだけれど、残念ながら私はあやかしが何で喜ぶのか知らない。
お供えでもすれば喜ぶのかしら、なんて考えていると居間の方でガラス戸を叩くような物音がした。時計を見ると針は午後6時を指していた。夏海と約束していた時間だ。きっと彼女が迎えに来たのだろう。
居間へ行くと、縁側に浴衣姿の夏海が腰掛けて待っていた。彼女は私を見た途端、表情に花を咲かせた。
「うわぁー。未来ちゃん、かわいい!」
「へへーん。そうでしょ。お母さんが昔着てたやつなんだ」
ファッションショーよろしく、夏海の前で一回転する。浴衣のおかげで、いつもより私のテンションも高い。
「夏海の浴衣もかわいいね」
「ありがと!」
私が褒めると、彼女はサッと立ち上がって一回転してみせた。金魚の柄が夏っぽくて涼しげだ。
「あらあら、涼しげなお嬢さんが2人も!」
遅れて居間に入って来たおばあちゃんが、朗らかな顔で笑う。夏海はおばあちゃんを見ると、元気よく挨拶した。
「こんばんは。おばあちゃん。未来ちゃん借りてくね!」
「あんまり遅ならんように。未来ちゃんはねえやんなんやで、しっかり夏海ちゃんを見ておくんだに」
後半は私に向かって言った。たとえ1歳でも私のほうがお姉さんだ。しっかり彼女の面倒を見るつもりだけれど、彼女は彼女でしっかりしているからそこまで手はかからないだろう。
「じゃあ、行ってきます!」
おばあちゃんに手を振って家を出た。午後6時をすぎているはずなのに、あたりはまだ明るい。空は紫色に染まり、どこからともなく太鼓の音が聞こえてくる。
「そういえば、篤志くんは?」
「あつ兄は、太鼓があるから先に行ったよ。あとで合流するって」
練習をしていた光景を思い出す。太鼓を叩く篤志くんの姿は、なぜか見とれてしまう。あれをまた見れると思うと胸が高鳴った。
神社へ至る表参道は盛況だった。ずらりと並んだ灯籠には光が灯り、子供に大人にといろんな人が行ったり来たりしている。
境内に入ると、たくさんの露店が軒を連ねていた。この前来た時とは打って変わって、そこには華やかさがあった。
わたあめ、射的、金魚すくい、型抜き、エトセトラ……。
漫画やアニメみたい──。
それがいちばん初めに思った感想だった。噂には聞いていたけれど、実際に見るのは初めてだ。私のテンションはただでさえ高かったのに、さらに一段階高くなる。
それは夏海も同じだったようで、私たちは露店に向かって駆け出した。
姿見に映った浴衣姿の私を見て、おばあちゃんは帯を締める手を緩めた。アサガオの模様が入ったこの浴衣は、お母さんが昔来ていたものだ。
「どう? 似合ってる?」
「むっちゃ似合うとるに。ちっこい頃のおかやんそっくりやに」
お母さんの浴衣は、どことなくタンスの匂いがした。それもそのはずで、お母さんが子供の頃に着たっきりタンスの肥やしになっていたのだから。
私が夏海と今日の夏祭りに行くことを話すと、おばあちゃんが「せっかくだから」とタンスの奥底からわざわざ出してくれたのだ。
気がつけば早いもので、8月も半ば。お盆のお祭り当日になっていた。
結局、あの日はイノシシに追いかけられたせいで、ヘトヘトになり、スズノハさんのところに行くことは叶わなかった。
それに私も毎日の水やりにも慣れてしまって、誰かにこの仕事を押し付けてやろうと悪巧みもしなくなった。行くにはめんどくさかったけれど、ここではやることが本当に何もないのだ。ちょっとした暇つぶし感覚で通ううちに、もう毎日の日課になっている。
スズノハさんは相変わらず約束を思い出せない一方で、力は日々衰えているようだった。最近は会いにいく度に「ワシの消える日も近い」と約束を守れなかったことを悔んでいる。
そんな姿を見ているのも悲しいので、何とか元気になってほしいところだけれど、残念ながら私はあやかしが何で喜ぶのか知らない。
お供えでもすれば喜ぶのかしら、なんて考えていると居間の方でガラス戸を叩くような物音がした。時計を見ると針は午後6時を指していた。夏海と約束していた時間だ。きっと彼女が迎えに来たのだろう。
居間へ行くと、縁側に浴衣姿の夏海が腰掛けて待っていた。彼女は私を見た途端、表情に花を咲かせた。
「うわぁー。未来ちゃん、かわいい!」
「へへーん。そうでしょ。お母さんが昔着てたやつなんだ」
ファッションショーよろしく、夏海の前で一回転する。浴衣のおかげで、いつもより私のテンションも高い。
「夏海の浴衣もかわいいね」
「ありがと!」
私が褒めると、彼女はサッと立ち上がって一回転してみせた。金魚の柄が夏っぽくて涼しげだ。
「あらあら、涼しげなお嬢さんが2人も!」
遅れて居間に入って来たおばあちゃんが、朗らかな顔で笑う。夏海はおばあちゃんを見ると、元気よく挨拶した。
「こんばんは。おばあちゃん。未来ちゃん借りてくね!」
「あんまり遅ならんように。未来ちゃんはねえやんなんやで、しっかり夏海ちゃんを見ておくんだに」
後半は私に向かって言った。たとえ1歳でも私のほうがお姉さんだ。しっかり彼女の面倒を見るつもりだけれど、彼女は彼女でしっかりしているからそこまで手はかからないだろう。
「じゃあ、行ってきます!」
おばあちゃんに手を振って家を出た。午後6時をすぎているはずなのに、あたりはまだ明るい。空は紫色に染まり、どこからともなく太鼓の音が聞こえてくる。
「そういえば、篤志くんは?」
「あつ兄は、太鼓があるから先に行ったよ。あとで合流するって」
練習をしていた光景を思い出す。太鼓を叩く篤志くんの姿は、なぜか見とれてしまう。あれをまた見れると思うと胸が高鳴った。
神社へ至る表参道は盛況だった。ずらりと並んだ灯籠には光が灯り、子供に大人にといろんな人が行ったり来たりしている。
境内に入ると、たくさんの露店が軒を連ねていた。この前来た時とは打って変わって、そこには華やかさがあった。
わたあめ、射的、金魚すくい、型抜き、エトセトラ……。
漫画やアニメみたい──。
それがいちばん初めに思った感想だった。噂には聞いていたけれど、実際に見るのは初めてだ。私のテンションはただでさえ高かったのに、さらに一段階高くなる。
それは夏海も同じだったようで、私たちは露店に向かって駆け出した。
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