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2.一人目
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数分後、仕事を終わらせた野宮が戻って来た。さっきと違って様子が変だ。何かをじっとこらえているような、落ち着かない様子だった。
「天原さん、ちょっと来てください!」
野宮が僕の服の裾を引っ張る。
「どうしたんだよ、急に」
すると彼女は興奮のダムがはち切れたかのように話し出した。
「さっき、ちょっとした好奇心で明かりのついた教室を覗いたんです。そしたら何が見えたと思います?」
「残業している先生とか?」
僕の答えに野宮は顔をニンマリと綻ばせながら首を振った。
「元担任がいたんですよ! しかも密会です、密会! 教師と生徒の!」
「元担任って仕返しリストのあいつか?」
興奮気味に話す野宮をなだめながら言った。
「そうです! きっと何か弱みを握れますよ。急ぎましょ!」
僕たちは、渡り廊下を通ってA棟へ移動した。暗い廊下にひとつだけ教室の明かりが漏れている。目的の教室へ足音を忍ばせて進んだ。
教室の前まで来ると僕と野宮はドアの小窓から中を覗いた。
野宮の話の通り四十代くらいの教師らしき男性と高校の制服を着た女子生徒が見えた。女子生徒は椅子に座り、その背後に男性が立っている。
男性は女子生徒の肩に手を置いたかと思うと、顔を女子生徒に近づけて何か喋っているようだ。なんて言ってるか耳をすましてみたが、ドア一枚隔てたここからは聞こえない。
補習か何かじゃないのかと一瞬考えたが、二人の態度を見るに明らかに補習じゃない空気感が漂っている。それもイケナイ雰囲気の……。
気がつくと隣では野宮がスマホを構えていた。
「なにやってんだ?」
「撮影してるんです。あとで使えるかもしれないんで」
スマホ画面には男性と女子生徒が映っている。こんな映像が流出したら一大事だろう。
「前から噂はあったんです。国語の奥本先生は自分の気に入った女子生徒を夜な夜な呼び出してセクハラ紛いなことをしてるって」
「ってことは、あの女子生徒は被害者なんじゃないか? 助けないと!」
「それはどうでしょうね。中には教師との禁断の恋に酔ってる娘もいますから。それに今助けに入ったら、私たちが無断で校内に入ったのがバレますよ」
「だけど……」
そのとき、野宮が奥本先生と呼んだ男性が動いた。女子生徒の肩に置いた手がするすると制服の中へと伸びていったのだ。
「あっ、あいつ!」
「はっ! あれは確実にアウトですよ。いいものが撮れた! どうやって使おうかな~」
野宮はスマホを胸に随分な浮かれようだ。
視線を教室の中へと戻すと、女子生徒が奥本先生の腕を掴んで抵抗している。
「野宮、見ろ! あの子嫌がってる!」
しかし野宮はこちらにまったく興味を示さない。
「おい、野宮ってば!」
僕は野宮の肩を掴んだ。
「いいんですよ、放っておいて。あの女子生徒は、さっき仕返ししたいじめっ子の腰巾着だった人です。助ける義理はありません。それにさっきも言いましたけど、私たちがここにいるのが見つかるのはまずいんです。わざわざそんな危険を冒す必要はないでしょ?」
野宮はピシャリというと僕の手を払いのけた。
「それなら、警察に通報だけでも……」
「それは知りません。勝手にやってください」
野宮は手にしたスマホをしまった。
僕は一一〇番すべくジーンズのポケットからスマホを取り出す。
その途端、スマホが軽快な電子音を奏でながら、メールの受信を知らせた。反射的に僕はしゃがんで小窓から離れた。
──まずい!
そう思った瞬間、教室から「誰かいるのか!」という野太い怒鳴り声が聞こえて来た。
「何やってるんですか! 逃げますよ!」
野宮が口の動きだけで言った。
僕は頷くと野宮の手を取って渡り廊下へ走った。背後でドアが乱暴に開く音が聞こえる。振り向かずにめいいっぱい走った。B棟までくると階段を転がるように駆け下りる。
一階まで下りてそのまま外に向かった。校舎を出るとき後ろの様子を確認したが、追ってくる様子はなさそうだ。
息も切れ切れで校舎の裏まで戻ると、入ったときと同じように野宮を持ち上げ、自分もフェンスをよじ登った。全力疾走のあとにキツかったが捕まるよりはマシだ。
有刺鉄線を跨ぎ道路へ降りたった。学校の外は相変わらず静かで近くの国道を走る車の音が聞こえる。
「あーあ。死ぬかと思いましたよ」
野宮が胸を押さえながら息をついた。
「本当だよ、一巻の終わりかと思った」
「でも予想外の収穫がありました」
満足そうに野宮が言う。
「まさか奥本先生のスキャンダルがゲットできたなんてラッキーです。こういうのなんて言うんでしたっけ? 二階からぼた餅?」
「それを言うなら『棚からぼた餅』だろ。二階からぼた餅が落ちてくる画とかシュール過ぎる」
「……ちょっとボケただけです。『棚からぼた餅』でしょ? 私、分かってましたからね」
野宮は、顔をほのかに赤くさせて誤魔化した。
「というか、天原さん、なんであのタイミングで携帯鳴らすんですか! マナーモードにしておいてくださいよ!」
ごめんごめん。ついつい忘れちゃうんだよ、と僕はスマホの画面をつけた。件のメールを確認するためだ。ロック画面にはさっき受信したメールがバナー表示されていた。
このメールのせいで危ない目に遭ったんだ。こんなタイミングの悪いメールを送ってきたヤツは誰だ。腹立たしさを感じながら発信者の名前を確認すると、その名前に僕は目を見張った。
──石山だ!
石山がメールを返してくれたんだ。よかった、やっぱり彼は最高の友達だ。
いや待て、まだ会うとは決まっていない早く本文を確認しないと。
隣では野宮が「ここも危険なので移動しますよ」と僕を促している。
そんな野宮を適当にあしらって、メールを開封した。表示された本文は画面を埋め尽くすほどの文量だった。
僕は、はやる気持ちを抑えて、噛み締めるようにそれを読んだ。
メールは久しぶりの連絡を喜ぶ言葉にはじまり、近況を報告する文が続いた。
その報告によると、石山は現在、僕の大学の近くにある国立大学に通っているらしい。そしてもうすぐ期末考査の時期なので、それが終わったらどこか一緒に出かけよう、とのことだった。
それを読み終えると、僕はすぐさま了解した旨を伝えるメールを送った。
ついに石山と再会できる。そう思うと、せっかく落ち着いてきた鼓動が再び激しくなり、喜びが全身を駆け抜けていった。これほどの喜びを感じたのは久しぶりだ。
「さっきからスマホばっかり眺めてなにしてるんです?」
体を震わせながら喜ぶ僕を怪訝な表情で野宮が見つめる。
「なにって、石山からメールが来たんだ! それに今度、会おうって!」
興奮しながら話す僕に野宮は身を引いた。そして僕の顔の前で両手をパァンと打ちつけた。
「ちょっと、どうしたんですか。そんなに興奮して」
それに石山って誰です? と眉をひそめた。
冷静さを取り戻した僕は野宮に石山のことを順を追って話した。僕の初めての友達だと言うこと、中学時代、ずっと一緒に過ごして同じ高校を目指したこと、僕だけがその高校に行けなかったこと、高校はダメだったけど大学で再会しようと誓いあったこと。そして誓いも守ることができなかったこと……。もちろん彼と会うことが僕の〈やりたいこと〉だということも話した。
すべてを聞き終わると野宮は黙って頷いた。それから「天原さんが石山という人にどれだけ依存していたか分かりました」と野宮が言った。
「何を言ってる? 依存だと?」
「そうです。他に友達いない天原さんは石山という人にどっぷり依存しています」
野宮は検事が問題を指摘するように、人差し指をビシッと突き出した。
「いくら仲がいいといっても人生を左右する高校や大学も同じにしようなんて、はっきりいって幼いと思います」
僕が幼いだって? この女、何を言っているんだ。幼いのは小中高と僕の周りで馬鹿話をしていた同級生たちだろ。それに石山だって同じ学校に行きたいと僕が言ったら喜んでいた。
「それから、本当に石山さんとは仲が良かったんですか」
野宮の切り揃えられた髪先がさらりと揺れた。
「それはどう言う意味だ、野宮」
「そのままの意味です。石山さんはあなたのことを友達と思っていたんでしょうかね。ただ話をあわせて仲のいいふりをしていただけかも」
石山が仲のいいふりをしていたなんてありえない。彼はそんなヤツじゃない。それに、そんなことをするメリットもない。
それに、どうして野宮はこんな僕を不安にさせるようなことを言うのだろう。
口では、ああ言っていたが内心では見つかったことを怒っているのだろうか……。
「なぁ、野宮。何でそんなこと言うんだ? もしかして見つかったこと、怒っているのか」
「いえ、違います」
野宮は首を左右に振って否定した。
「なら、どうして……」
見つかったことで怒っているんじゃないのなら何だ。何が野宮をこんなふうにしているんだ。頭の中で今日の出来事を振り返ってみたが思い当たる節がない。
ああ、どうしよう……と頭を抱えたとき、ハッとした。僕は脅されて無理やり協力させられているだけだ。野宮のご機嫌うかがいまでする必要はない。そう思うと、今度は侮辱されたことに怒りがふつふつと沸いてきた。
「野宮、たとえ僕が依存的だろうが、石山が僕のことを友達と思ってなかろうが、君には関係ないだろ。何でそんなこと言われないといけないんだ」
「はい、関係ないですよ。ただ、自分の〈やりたいこと〉にうつつを抜かして私の〈やりたいこと〉を疎かにされるのは困るんです」
野宮はピシャリといった。どこまでも自分本位なやつだ。本当に腹が立つ。
「お前に迷惑はかけないよ。それでいいだろ」
そう言うと野宮も「ならいいです。勝手にしてください」と返してきた。言われないでもそうするさ。
「天原さん、ちょっと来てください!」
野宮が僕の服の裾を引っ張る。
「どうしたんだよ、急に」
すると彼女は興奮のダムがはち切れたかのように話し出した。
「さっき、ちょっとした好奇心で明かりのついた教室を覗いたんです。そしたら何が見えたと思います?」
「残業している先生とか?」
僕の答えに野宮は顔をニンマリと綻ばせながら首を振った。
「元担任がいたんですよ! しかも密会です、密会! 教師と生徒の!」
「元担任って仕返しリストのあいつか?」
興奮気味に話す野宮をなだめながら言った。
「そうです! きっと何か弱みを握れますよ。急ぎましょ!」
僕たちは、渡り廊下を通ってA棟へ移動した。暗い廊下にひとつだけ教室の明かりが漏れている。目的の教室へ足音を忍ばせて進んだ。
教室の前まで来ると僕と野宮はドアの小窓から中を覗いた。
野宮の話の通り四十代くらいの教師らしき男性と高校の制服を着た女子生徒が見えた。女子生徒は椅子に座り、その背後に男性が立っている。
男性は女子生徒の肩に手を置いたかと思うと、顔を女子生徒に近づけて何か喋っているようだ。なんて言ってるか耳をすましてみたが、ドア一枚隔てたここからは聞こえない。
補習か何かじゃないのかと一瞬考えたが、二人の態度を見るに明らかに補習じゃない空気感が漂っている。それもイケナイ雰囲気の……。
気がつくと隣では野宮がスマホを構えていた。
「なにやってんだ?」
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スマホ画面には男性と女子生徒が映っている。こんな映像が流出したら一大事だろう。
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「それはどうでしょうね。中には教師との禁断の恋に酔ってる娘もいますから。それに今助けに入ったら、私たちが無断で校内に入ったのがバレますよ」
「だけど……」
そのとき、野宮が奥本先生と呼んだ男性が動いた。女子生徒の肩に置いた手がするすると制服の中へと伸びていったのだ。
「あっ、あいつ!」
「はっ! あれは確実にアウトですよ。いいものが撮れた! どうやって使おうかな~」
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視線を教室の中へと戻すと、女子生徒が奥本先生の腕を掴んで抵抗している。
「野宮、見ろ! あの子嫌がってる!」
しかし野宮はこちらにまったく興味を示さない。
「おい、野宮ってば!」
僕は野宮の肩を掴んだ。
「いいんですよ、放っておいて。あの女子生徒は、さっき仕返ししたいじめっ子の腰巾着だった人です。助ける義理はありません。それにさっきも言いましたけど、私たちがここにいるのが見つかるのはまずいんです。わざわざそんな危険を冒す必要はないでしょ?」
野宮はピシャリというと僕の手を払いのけた。
「それなら、警察に通報だけでも……」
「それは知りません。勝手にやってください」
野宮は手にしたスマホをしまった。
僕は一一〇番すべくジーンズのポケットからスマホを取り出す。
その途端、スマホが軽快な電子音を奏でながら、メールの受信を知らせた。反射的に僕はしゃがんで小窓から離れた。
──まずい!
そう思った瞬間、教室から「誰かいるのか!」という野太い怒鳴り声が聞こえて来た。
「何やってるんですか! 逃げますよ!」
野宮が口の動きだけで言った。
僕は頷くと野宮の手を取って渡り廊下へ走った。背後でドアが乱暴に開く音が聞こえる。振り向かずにめいいっぱい走った。B棟までくると階段を転がるように駆け下りる。
一階まで下りてそのまま外に向かった。校舎を出るとき後ろの様子を確認したが、追ってくる様子はなさそうだ。
息も切れ切れで校舎の裏まで戻ると、入ったときと同じように野宮を持ち上げ、自分もフェンスをよじ登った。全力疾走のあとにキツかったが捕まるよりはマシだ。
有刺鉄線を跨ぎ道路へ降りたった。学校の外は相変わらず静かで近くの国道を走る車の音が聞こえる。
「あーあ。死ぬかと思いましたよ」
野宮が胸を押さえながら息をついた。
「本当だよ、一巻の終わりかと思った」
「でも予想外の収穫がありました」
満足そうに野宮が言う。
「まさか奥本先生のスキャンダルがゲットできたなんてラッキーです。こういうのなんて言うんでしたっけ? 二階からぼた餅?」
「それを言うなら『棚からぼた餅』だろ。二階からぼた餅が落ちてくる画とかシュール過ぎる」
「……ちょっとボケただけです。『棚からぼた餅』でしょ? 私、分かってましたからね」
野宮は、顔をほのかに赤くさせて誤魔化した。
「というか、天原さん、なんであのタイミングで携帯鳴らすんですか! マナーモードにしておいてくださいよ!」
ごめんごめん。ついつい忘れちゃうんだよ、と僕はスマホの画面をつけた。件のメールを確認するためだ。ロック画面にはさっき受信したメールがバナー表示されていた。
このメールのせいで危ない目に遭ったんだ。こんなタイミングの悪いメールを送ってきたヤツは誰だ。腹立たしさを感じながら発信者の名前を確認すると、その名前に僕は目を見張った。
──石山だ!
石山がメールを返してくれたんだ。よかった、やっぱり彼は最高の友達だ。
いや待て、まだ会うとは決まっていない早く本文を確認しないと。
隣では野宮が「ここも危険なので移動しますよ」と僕を促している。
そんな野宮を適当にあしらって、メールを開封した。表示された本文は画面を埋め尽くすほどの文量だった。
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それを読み終えると、僕はすぐさま了解した旨を伝えるメールを送った。
ついに石山と再会できる。そう思うと、せっかく落ち着いてきた鼓動が再び激しくなり、喜びが全身を駆け抜けていった。これほどの喜びを感じたのは久しぶりだ。
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すべてを聞き終わると野宮は黙って頷いた。それから「天原さんが石山という人にどれだけ依存していたか分かりました」と野宮が言った。
「何を言ってる? 依存だと?」
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野宮は検事が問題を指摘するように、人差し指をビシッと突き出した。
「いくら仲がいいといっても人生を左右する高校や大学も同じにしようなんて、はっきりいって幼いと思います」
僕が幼いだって? この女、何を言っているんだ。幼いのは小中高と僕の周りで馬鹿話をしていた同級生たちだろ。それに石山だって同じ学校に行きたいと僕が言ったら喜んでいた。
「それから、本当に石山さんとは仲が良かったんですか」
野宮の切り揃えられた髪先がさらりと揺れた。
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それに、どうして野宮はこんな僕を不安にさせるようなことを言うのだろう。
口では、ああ言っていたが内心では見つかったことを怒っているのだろうか……。
「なぁ、野宮。何でそんなこと言うんだ? もしかして見つかったこと、怒っているのか」
「いえ、違います」
野宮は首を左右に振って否定した。
「なら、どうして……」
見つかったことで怒っているんじゃないのなら何だ。何が野宮をこんなふうにしているんだ。頭の中で今日の出来事を振り返ってみたが思い当たる節がない。
ああ、どうしよう……と頭を抱えたとき、ハッとした。僕は脅されて無理やり協力させられているだけだ。野宮のご機嫌うかがいまでする必要はない。そう思うと、今度は侮辱されたことに怒りがふつふつと沸いてきた。
「野宮、たとえ僕が依存的だろうが、石山が僕のことを友達と思ってなかろうが、君には関係ないだろ。何でそんなこと言われないといけないんだ」
「はい、関係ないですよ。ただ、自分の〈やりたいこと〉にうつつを抜かして私の〈やりたいこと〉を疎かにされるのは困るんです」
野宮はピシャリといった。どこまでも自分本位なやつだ。本当に腹が立つ。
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