夜の公園で出会った彼女は、死のうとしていた。

秋月とわ

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2.一人目

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 高校の最寄り駅から昨日と同じ道を歩いた。しばらく行くと鉄筋コンクリート造りの建物が見えてきた。今日は日中に来たからか校舎が昨日と違って活気づいているように見えた。正門側へまわると夏休み前の半日授業なのか、帰宅する生徒で溢れていた。その中から一人、見覚えのある少女が僕のほうへ一直線に歩いてくる。
「天原さん、お待たせしました」
 昨日の小競り合いもどこ吹く風で野宮がやってきた。
「野宮、今日は僕に何をさせる気だ」
「それより聞いてくださいよ!」
 野宮は、とても愉快でたまらないといった様子で話しだした。 
「昨日の仕返し、大成功です。金澤は朝から大パニックですよ。誰がこんなことしたんだって朝から怒り狂ってました。挙げ句の果てには泣き出しちゃって、見ていて気分が良かったです」
「それは何よりだ。で、今日は何するんだ?」
 野宮は僕を見てニヤリと笑った。
「金澤に追い討ちをかけます。もうすぐ出てくると思うので後をつけましょう」
「まだそいつに拘るのか」
「当たり前でしょ? 私を死に追いやった張本人ですよ。これでも甘いくらいです」
 そのとき、野宮がなにかに気がついた。
「天原さん、金澤が出てきました」
 野宮が指した方を見ると数メートル先で二人組の女子生徒がジャージ姿の教諭となにやら話している。教諭の動作を見るに服装について指導されているようだ。女子生徒は二人とも短いスカートを履き、カバンにはキーホルダーがジャラジャラついていて一目で真面目な普通の生徒ではないことが分かった。野宮はそんな二人組のうちデフォルメされた熊のキーホルダーが付いている女子生徒を指した。
「あのカバンにクマのキーホルダーをつけているやつが金澤か?」
 野宮は首肯した。そして「私は顔が割れているので、天原さんが先陣切ってください」といって野宮は僕の後ろに隠れてしまった。
 僕は野宮の言う通り、正門を出て行く金澤を電信柱や塀の陰に隠れながら後をつけた。そして思った。側から見たら僕ら完全に不審者じゃないか?
 しかし、野宮はそんなことを気にせず尾行を続けた。
 そのまま跡をつけること約三十分。金澤とその友達は繁華街にあるショッピングモールへ入っていった。僕と野宮も後を追って中へ入る。
 金澤たちはエスカレーターを使って上へと昇っていく。
 気づかれないように間に何人か挟んで僕らも上へあがった。
 まるで探偵か刑事になった気分だ。バレるかもしれないというスリルが思いのほか楽しい。
 そんなことを考えている間に、金澤たちは四階にある雑貨屋へ入っていった。
 僕と野宮も普通の客を装って店に入る。
 狭い店舗にはスーパーでは見ないようなビックサイズのお菓子やカラフルなパーティーグッズなどいろいろな商品が所狭しと並べてある。視界に入る情報量が多すぎて少し気分が悪くなってくる。
 僕たちは商品棚に隠れて金澤の様子をうかがった。
 彼女たちは商品棚から社会現象を起こしたアニメキャラクターのグッズを手にいろいろ物色していた。だがお目当ての商品が無かったのか手にしたグッズを棚に戻すと次の売り場へと移動していった。
「どんな仕返しをするんだ?」
 さっきから思っていた疑問をぶつけると野宮は「金澤には濡れ衣を着てもらいます」と視線を金澤から外さずにいった。
「仕返しを始めるので天原さんは彼女たちの気を逸らしてください」
「急にそんなこといわれてもどうすればいいんだよ!」
 野宮は「それくらい自分で考えてください」と言い残し、金澤たちがいた売り場から商品を一つ持ち出した。それはさっき金澤たちが物色していたアニメキャラクターのグッズだ。
「準備はできました。早く気を逸らしてきてください」
「え……」
 僕は気の重い足取りで金澤たちに近寄った。何か気を引けるようなものはないか?
 辺りを見回すと商品棚の角にお菓子の箱がタワーの如く平積みされていた。
 僕はわざと箱のタワーに足をかけた。
「あ~、しまった!」
 タワーは大きな音を立てて崩れた。僕はそのまま偶然ぶつかってしまったという演技をした。崩れた箱を元に戻しながら辺りを伺うと金澤たちがこっちに注目しているのが見えた。
 その隙に野宮は気づかれないように二人に近づき、クマのキーホルダーがついたカバンに商品を放り込んだ。
 箱を元に戻している僕を見ている二人は野宮にまったく気づいていない。
「お客さま、大丈夫ですか!」
 タワーを戻していると店員さんがすっ飛んできた。
「すいません。ぶつかってしまって倒してしまいました」
 頭を下げて謝ると仕事を増やしてしまったのにもかかわらず店員さんはにこやかに「大丈夫ですよ~。あとはこっちでやっておきますから」とタワーを直し始めた。僕はもう一度だけ謝罪の言葉を言ってその場を離れた。
 少し離れた売り場まで移動すると野宮が静かに興奮した顔つきで向こうからやって来た。
「仕返しは成功です。あとは彼女たちが店を出るのを待つだけです」
 僕と野宮は少女たちが見える位置で店を出るのを待った。
 十数分後、彼女たちは店を一周見てまわると何も買わずに店を出て行った。
 その瞬間入り口に設置された万引き防止装置がけたたましい警報音をならした。
 何事かと驚いている二人のもとに店員がすっ飛んできた。そしてなにやら言い争いがはじまった。その声は彼女たちから距離をあけて様子を見ている僕らのもとまで届いている。
「とりあえず二人とも手荷物検査だけさせてください」
「だからぁ、何も取ってないって言ってるでしょ!」
 金澤が怒鳴りながら、クマのキーホルダーがついたカバンを開けて見せた
「なっ!」
 店員がカバンの中に手を突っ込むと、中からアニメキャラクターのグッズを取り出した。
「これはウチの商品ですよね? 見たところお会計がまだのようですけど?」
「えっ⁉︎ ……いや、それは私がやったんじゃ……」
 予想外の展開にあたふたしている金澤に店員が「詳しい話は事務所で聞きます」と二人を連行していった。
 その様子を興奮した様子で眺める野宮に「法に触れない程度の復讐じゃなかったのか。これは犯罪になるだろ」と非難を込めた口調でいうと、彼女はこともなげな様子で答えた。
「そんなこと言いましたっけ? それにどうせ死ぬので何やっても大丈夫です」
「…………」
「なんです?」
「別に。これで仕返し完了だな」
 帰ろうか、と言おうとしたとき一人の男が慌てた様子で駆け込んできた。ジャージ姿のその男はさっき校門で二人組と話していた教諭だった。そしてそのまま店員の案内で店の奥へ消えていった。
 それを見て野宮が「もう少しここにいましょう」と言った。
 それから二十分後、金澤たちと教諭が店の奥から出てきた。教諭は店員に頭を何度も下げている。その左右に立つ女子生徒達は不貞腐れた、納得のいかないという表情で頭を下げている。
 無実の罪なのだから、そうなるだろう。真犯人は今、僕の隣で口もとを歪めて小さく笑っている。
 三人はその後も何度も頭を下げて店を出て行った。
「もう気はすんだか?」
「はい。彼女の友達には申し訳ないですが、当然の報いですよ。私はあれより酷いことをされたんですから」
 その様子を見ながら野宮は目を細める。
「じゃあ、今度こそ帰ろう」
 その時、グゥーという音が聞こえた。野宮が恥ずかしそうに俯く。
 そういえば今日はまだ昼食をとっていない。時計を見ると午後一時を過ぎたところだった。
「帰る前に腹ごしらえしませんか。仕返しが成功したお礼に奢ってあげてもいいですよ」
「お礼なら学生証を返してくれないか」
 野宮は「それはできません」と言うと行ってしまった。
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