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3.スターライト
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科学館を出た時には、夕日が西の空を赤く染め始めていた。
帰りがけに僕は野宮に本屋に寄っていいか尋ねた。プラネタリウムのおかげで星空の写真集が欲しくなったのだ。
「いいですよ」と彼女は快諾してくれた。
「でも、この辺に本屋さんあるんですか? オフィスっぽいビルばっかですけど」
「少し歩くけど、ひと駅隣に大きな本屋がいくつかある」
「へぇー。詳しいですね」と目を大きく開けた。
「まあ、地元だからな」
僕たちは科学館から一番近い場所にある本屋を目指した。
その本屋は十分ほど歩いた先にあるオフィスビルの二階にあった。中はワンフロア全部が売り場になっていて、そこに並べられた棚は店の奥まで続いている。雑誌から専門書までなんでも取り揃えていそうな雰囲気だ。
店内に入ると本屋独特の新しい紙の匂いが鼻腔を突いた。
僕は棚の一つひとつを眺めながら店の奥へ進んだ。売り場が雑誌から漫画、小説へと変わっていく。そして写真集の棚の前で足を止めてた。
棚には人気の芸能人のものから自動車や鉄道、愛玩動物のものまでいろんな種類の写真集が並んでいる。
僕はその中から有名な写真家が撮影したという星景の写真集を手に取った。試しにページを開くと、富士山から南極に至るまでさまざまな場所から見た星空が掲載されていた。
プラネタリウムでは純粋に星だけを見ていたが、それに景色が加わるとまた違った印象を受ける。
山や海に行ったときに、ふと見上げた夜空に感動するような、まるで自分がそこにいるような気分にさせてくれる。
他の写真家の写真集もあったが僕はこの本を買うことに決めた。
会計を終えるとレジ近くで雑誌を立ち読みしていた野宮に声をかけて店を出た。
「何を買ったんですか?」
駅までの帰り道、野宮が書店のロゴが入ったレジ袋を指した。
「星空の写真集。プラネタリウムで感動しちゃって」
「楽しんでもらえたみたいでよかったです。今度は本物を見にいきましょう」
「本物を見るならずっと山奥に行かないとな。プラネタリウムでも言ってたけど、この辺りだと街の明かりが眩しすぎるから一等星ぐらいしか見えないよ」
「それならしばらくは一等星だけで我慢ですね」
「そうだな」と僕たちはビルに切り取られた夜空を見上げた。
駅に着くと星空ともお別れだ。地下に続く階段を降りる。地下通路は帰宅を急ぐサラリーマンや学生、これから夜の街に遊びに行く若い男女の集団で構成された人波で埋まっていた。
改札口が見える距離に来た時、背後から「天原?」という声が響いた。
突然、名前を呼ばれたことに驚きつつ、振り返るとそこには髪を明るく染めた、少しチャラさのある青年が立っていた。後ろには連れらしき若い男女の姿もある。
「どなた?」
僕にはこんな男女で出かけるようなリア充の知り合いはいない。人間違いだろうか。いや、さっき「天原」っていた。よくある名字でもないし、僕を知っている人かもしれない。
僕が頭をフル回転するのを見て青年は吹き出した。
「オレだよ。石山だ」
そういわれて青年の顔をじっくり見た。髪の色を黒にして眼鏡をかけさせると……。
「えっ! 石山? どうしたの、その格好」
石山は「あー、これ?」としたり顔でいった。
「大学デビューってやつだ。天原は相変わらずだな、すぐわかったよ!」
「そうかな……。今日はどうしたの? 後ろのは友達?」
「ああ。サークルのメンバーで遊んでたとこ。天原は? 確か向こうに下宿してるんだよな?」
「そうだよ。今日は用事で大阪に……」
そのとき、「元基、知り合い?」と後ろの集団から女が一人やってきた。
石山は女の方を向いて「中学時代の友達の天原だ」と僕を紹介した。僕は女に向かって会釈した。
女も「どうも」と頭を下げると、元いた集団へ戻って行った。
「今のオレの彼女なんだ。可愛いだろ」
僕は、羨ましいよ、と笑う表情とはうらはらに内心では大地が割れんばかりのショックを受けていた。
メールのやり取りで、石山の大学生活が充実していそうなのは感じとっていたが、さすがにここまでとは……。
もう僕の知っている石山はいないと悲しく思う一方で自分にないものばかり手に入れた彼に嫉妬していた。
「ところで、さっきからずっと気になってたんだけど」と頬をニヤニヤさせながら石山は目で野宮を指した。
「可愛い子、連れてるじゃないか。もしかしてお前の彼女か?」
石山への敗北にも似た嫉妬心に僕は思わず「そうだ」と答えてしまっていた。
石山は少し驚きの表情を見せると、「やるじゃん!」と僕の腕をバシバシ叩いた。
「いやぁー、あの天原がこんな可愛い子を落とすなんてな。どこで出会ったんだよ?」
興味深々に石山が身を乗り出したとき、集団のひとりが「もう行くぞ!」と叫んだ。石山は振り返り「待って、すぐ行くから」と返事をするとこちらに向き直った。
「今度の遊ぶ約束、ダブルデートにしようぜ。ちょうど先輩から貰ったテーマパークのチケットがあるんだ。オレも彼女連れて行くから、お前も連れて来いよ。いろいろ訊きたいし!」
テーマパーク? 一緒に映画に行くて約束だったのに。
勝手に行き先を変えられたことを質問しようとしたが、石山はそれだけ言い残すと、仲間のもとへ駆けていってしまった。
自分勝手で強引なその態度に僕は苛立ちを覚えた。でも、僕より友達と遊ぶことが多い石山がテーマパークを選ぶのたら、そっちの方が正解なのだろう。それに、もともと何をするかは彼に委ねるつもりだったし、今回は目をつぶることにした。
合流した彼らは、楽しげに話しながら人混みに消えて行く。
それを見送っていると、野宮がいった。
「あの人がウワサの石山さんですか」
「外見が変わりすぎてて、誰だかわからなかった」
「それにしても妹の次は彼女、ですか」
からかうように野宮は僕の顔を下からのぞき込んだ。
「だってあいつが彼女を自慢するから、こっちもちょっと見栄を張っただけじゃないか。それと妹は君が言ったことだろ」
「そうでしたっけ?」
野宮はとぼけ顔で明後日の方を見た。それでごまかしたつもりか!
「でも、どうしよう。ダブルデートなんて……」
「ついて行ってあげましょうか」
頭を抱える僕に野宮はどういったことはない風にいった。
「本当? 本当にいいの?」
「この前のレストランの件の借りもありますし。天原さんのために一肌脱ぎましょう!」
野宮はその場で居直ると胸を拳で、とん、と叩いた。
「ありがとう。野宮って意外といいやつなんだな。学生証は返してくれないけど」
「そうですよ。私はいいやつなんです。学生証は返しませんけど」
僕たちは互いの顔を見やると、なんだかおかしくなって、ぶっと、吹き出した。それから肩をゆすって笑った。
最寄り駅に着くと、空はさらに闇を深くしていた。
今日は思いの外楽しかった。それに、野宮の印象も大きく変わった。さっきは冗談っぽく言ったけど、野宮は根はいい子なのだろう。ちょっとだけ自己中心的なところがたまにキズだが。
「夜も遅いし、送って行くよ」
「いいですよ、すぐそこだし」
「じゃあ、なんでこの前は送らせたんだよ」
そう問えば、彼女はうーんと顎先に手を添えながら、空を見上げる。
「嫌がらせが半分くらい。もう半分は仕返しを実行したことによる不安ですかね。だから純粋に楽しかった今日は大丈夫ですよ。天原さんも疲れてるでしょ?」
野宮はそういって遠慮していたが、高校生の女の子を放って帰るのもどうかと思い送ることにした。
人通りのない住宅街の道路を、肩を並べて歩いた。街灯が等間隔に照らす道はまるでランウェイのようで眠りについた家々が静かに僕たちを見守っている。すると突然、野宮が口を開いた。
「そうだ、天原さんって、パソコン持ってます?」
「持ってるけど、どうして?」
「この前撮った動画を編集したいんです。貸してくれません?」
「別にいいけど、今度はどんな仕返しを思いついたんだ?」
「それは次のお楽しみです!」
しばらく歩くと赤茶色の屋根の一軒家が見えてきた。野宮の家だ。前回同様、部屋の明かりは消えている。
「こう何度も帰るのが夜遅くなって家族に怒られないのか?」
「大丈夫です。この家の人は私のこと興味がないみたいですから。一晩帰らなくても気づかれないかも」
「そんなことないだろ。高校生の娘が帰らなかったら普通なら心配する。それにこの家の人って他人行儀な言い方だな」
「本当に他人ですから。私に家族はいません」と野宮は戸惑いもせず、まるで今晩のおかずを答えるようにサラッといった。
言葉の意味がわからず僕はしばらく固まっていた。そしてすぐにとてつもないスピードで頭の中が回転した。
え、家族がいないだって? もしかして余計なこと訊いちゃった?
「別に気にしてないですから大丈夫ですよ」
僕の心情を察したのか、彼女は言った。それでも僕はすぐさま謝った。
すると野宮は「大丈夫です。慣れっこなんで」と笑ってみせた。
「小学校の頃、両親と弟は車の事故で死にました。それ以来、私は親戚をたらい回しにされているんです。ここもいつ追い出されるか分かりません。だから邪魔者扱いや腫れ物に触るような態度には慣れっこです」
野宮はそう言うと「今日は楽しかったです。おやすみなさい」と家の中へ入っていった。
野宮を見送りながら僕はなんともいえない気持ちになった。野宮は学校でもいじめられ居場所がなく、家に帰って見知らぬ親戚に気を遣って生活していたということになのか。
野宮のことを考えると、今日の楽しかった気持ちが一日の終わりにしてすべて塗り替えられてしまった。心の中がモヤモヤしたまま僕の〈やりたいこと〉が一つ終わった。
帰りがけに僕は野宮に本屋に寄っていいか尋ねた。プラネタリウムのおかげで星空の写真集が欲しくなったのだ。
「いいですよ」と彼女は快諾してくれた。
「でも、この辺に本屋さんあるんですか? オフィスっぽいビルばっかですけど」
「少し歩くけど、ひと駅隣に大きな本屋がいくつかある」
「へぇー。詳しいですね」と目を大きく開けた。
「まあ、地元だからな」
僕たちは科学館から一番近い場所にある本屋を目指した。
その本屋は十分ほど歩いた先にあるオフィスビルの二階にあった。中はワンフロア全部が売り場になっていて、そこに並べられた棚は店の奥まで続いている。雑誌から専門書までなんでも取り揃えていそうな雰囲気だ。
店内に入ると本屋独特の新しい紙の匂いが鼻腔を突いた。
僕は棚の一つひとつを眺めながら店の奥へ進んだ。売り場が雑誌から漫画、小説へと変わっていく。そして写真集の棚の前で足を止めてた。
棚には人気の芸能人のものから自動車や鉄道、愛玩動物のものまでいろんな種類の写真集が並んでいる。
僕はその中から有名な写真家が撮影したという星景の写真集を手に取った。試しにページを開くと、富士山から南極に至るまでさまざまな場所から見た星空が掲載されていた。
プラネタリウムでは純粋に星だけを見ていたが、それに景色が加わるとまた違った印象を受ける。
山や海に行ったときに、ふと見上げた夜空に感動するような、まるで自分がそこにいるような気分にさせてくれる。
他の写真家の写真集もあったが僕はこの本を買うことに決めた。
会計を終えるとレジ近くで雑誌を立ち読みしていた野宮に声をかけて店を出た。
「何を買ったんですか?」
駅までの帰り道、野宮が書店のロゴが入ったレジ袋を指した。
「星空の写真集。プラネタリウムで感動しちゃって」
「楽しんでもらえたみたいでよかったです。今度は本物を見にいきましょう」
「本物を見るならずっと山奥に行かないとな。プラネタリウムでも言ってたけど、この辺りだと街の明かりが眩しすぎるから一等星ぐらいしか見えないよ」
「それならしばらくは一等星だけで我慢ですね」
「そうだな」と僕たちはビルに切り取られた夜空を見上げた。
駅に着くと星空ともお別れだ。地下に続く階段を降りる。地下通路は帰宅を急ぐサラリーマンや学生、これから夜の街に遊びに行く若い男女の集団で構成された人波で埋まっていた。
改札口が見える距離に来た時、背後から「天原?」という声が響いた。
突然、名前を呼ばれたことに驚きつつ、振り返るとそこには髪を明るく染めた、少しチャラさのある青年が立っていた。後ろには連れらしき若い男女の姿もある。
「どなた?」
僕にはこんな男女で出かけるようなリア充の知り合いはいない。人間違いだろうか。いや、さっき「天原」っていた。よくある名字でもないし、僕を知っている人かもしれない。
僕が頭をフル回転するのを見て青年は吹き出した。
「オレだよ。石山だ」
そういわれて青年の顔をじっくり見た。髪の色を黒にして眼鏡をかけさせると……。
「えっ! 石山? どうしたの、その格好」
石山は「あー、これ?」としたり顔でいった。
「大学デビューってやつだ。天原は相変わらずだな、すぐわかったよ!」
「そうかな……。今日はどうしたの? 後ろのは友達?」
「ああ。サークルのメンバーで遊んでたとこ。天原は? 確か向こうに下宿してるんだよな?」
「そうだよ。今日は用事で大阪に……」
そのとき、「元基、知り合い?」と後ろの集団から女が一人やってきた。
石山は女の方を向いて「中学時代の友達の天原だ」と僕を紹介した。僕は女に向かって会釈した。
女も「どうも」と頭を下げると、元いた集団へ戻って行った。
「今のオレの彼女なんだ。可愛いだろ」
僕は、羨ましいよ、と笑う表情とはうらはらに内心では大地が割れんばかりのショックを受けていた。
メールのやり取りで、石山の大学生活が充実していそうなのは感じとっていたが、さすがにここまでとは……。
もう僕の知っている石山はいないと悲しく思う一方で自分にないものばかり手に入れた彼に嫉妬していた。
「ところで、さっきからずっと気になってたんだけど」と頬をニヤニヤさせながら石山は目で野宮を指した。
「可愛い子、連れてるじゃないか。もしかしてお前の彼女か?」
石山への敗北にも似た嫉妬心に僕は思わず「そうだ」と答えてしまっていた。
石山は少し驚きの表情を見せると、「やるじゃん!」と僕の腕をバシバシ叩いた。
「いやぁー、あの天原がこんな可愛い子を落とすなんてな。どこで出会ったんだよ?」
興味深々に石山が身を乗り出したとき、集団のひとりが「もう行くぞ!」と叫んだ。石山は振り返り「待って、すぐ行くから」と返事をするとこちらに向き直った。
「今度の遊ぶ約束、ダブルデートにしようぜ。ちょうど先輩から貰ったテーマパークのチケットがあるんだ。オレも彼女連れて行くから、お前も連れて来いよ。いろいろ訊きたいし!」
テーマパーク? 一緒に映画に行くて約束だったのに。
勝手に行き先を変えられたことを質問しようとしたが、石山はそれだけ言い残すと、仲間のもとへ駆けていってしまった。
自分勝手で強引なその態度に僕は苛立ちを覚えた。でも、僕より友達と遊ぶことが多い石山がテーマパークを選ぶのたら、そっちの方が正解なのだろう。それに、もともと何をするかは彼に委ねるつもりだったし、今回は目をつぶることにした。
合流した彼らは、楽しげに話しながら人混みに消えて行く。
それを見送っていると、野宮がいった。
「あの人がウワサの石山さんですか」
「外見が変わりすぎてて、誰だかわからなかった」
「それにしても妹の次は彼女、ですか」
からかうように野宮は僕の顔を下からのぞき込んだ。
「だってあいつが彼女を自慢するから、こっちもちょっと見栄を張っただけじゃないか。それと妹は君が言ったことだろ」
「そうでしたっけ?」
野宮はとぼけ顔で明後日の方を見た。それでごまかしたつもりか!
「でも、どうしよう。ダブルデートなんて……」
「ついて行ってあげましょうか」
頭を抱える僕に野宮はどういったことはない風にいった。
「本当? 本当にいいの?」
「この前のレストランの件の借りもありますし。天原さんのために一肌脱ぎましょう!」
野宮はその場で居直ると胸を拳で、とん、と叩いた。
「ありがとう。野宮って意外といいやつなんだな。学生証は返してくれないけど」
「そうですよ。私はいいやつなんです。学生証は返しませんけど」
僕たちは互いの顔を見やると、なんだかおかしくなって、ぶっと、吹き出した。それから肩をゆすって笑った。
最寄り駅に着くと、空はさらに闇を深くしていた。
今日は思いの外楽しかった。それに、野宮の印象も大きく変わった。さっきは冗談っぽく言ったけど、野宮は根はいい子なのだろう。ちょっとだけ自己中心的なところがたまにキズだが。
「夜も遅いし、送って行くよ」
「いいですよ、すぐそこだし」
「じゃあ、なんでこの前は送らせたんだよ」
そう問えば、彼女はうーんと顎先に手を添えながら、空を見上げる。
「嫌がらせが半分くらい。もう半分は仕返しを実行したことによる不安ですかね。だから純粋に楽しかった今日は大丈夫ですよ。天原さんも疲れてるでしょ?」
野宮はそういって遠慮していたが、高校生の女の子を放って帰るのもどうかと思い送ることにした。
人通りのない住宅街の道路を、肩を並べて歩いた。街灯が等間隔に照らす道はまるでランウェイのようで眠りについた家々が静かに僕たちを見守っている。すると突然、野宮が口を開いた。
「そうだ、天原さんって、パソコン持ってます?」
「持ってるけど、どうして?」
「この前撮った動画を編集したいんです。貸してくれません?」
「別にいいけど、今度はどんな仕返しを思いついたんだ?」
「それは次のお楽しみです!」
しばらく歩くと赤茶色の屋根の一軒家が見えてきた。野宮の家だ。前回同様、部屋の明かりは消えている。
「こう何度も帰るのが夜遅くなって家族に怒られないのか?」
「大丈夫です。この家の人は私のこと興味がないみたいですから。一晩帰らなくても気づかれないかも」
「そんなことないだろ。高校生の娘が帰らなかったら普通なら心配する。それにこの家の人って他人行儀な言い方だな」
「本当に他人ですから。私に家族はいません」と野宮は戸惑いもせず、まるで今晩のおかずを答えるようにサラッといった。
言葉の意味がわからず僕はしばらく固まっていた。そしてすぐにとてつもないスピードで頭の中が回転した。
え、家族がいないだって? もしかして余計なこと訊いちゃった?
「別に気にしてないですから大丈夫ですよ」
僕の心情を察したのか、彼女は言った。それでも僕はすぐさま謝った。
すると野宮は「大丈夫です。慣れっこなんで」と笑ってみせた。
「小学校の頃、両親と弟は車の事故で死にました。それ以来、私は親戚をたらい回しにされているんです。ここもいつ追い出されるか分かりません。だから邪魔者扱いや腫れ物に触るような態度には慣れっこです」
野宮はそう言うと「今日は楽しかったです。おやすみなさい」と家の中へ入っていった。
野宮を見送りながら僕はなんともいえない気持ちになった。野宮は学校でもいじめられ居場所がなく、家に帰って見知らぬ親戚に気を遣って生活していたということになのか。
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