【本編完結】優しい気持ちが灯るまで~君と見た月に(改稿終了)

風鈴

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文化祭作品大賞

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 敬介は、9月の始めは出版社の倉庫で、本の廃棄のアルバイトだった。毎日リストアップされた本を箱にひたすら詰める仕事で結構な力仕事だった。安芸島はフォークリフトに乗って敬介達の入れた本を運んでいた。安芸島が、力仕事だからバイト代は良いと言うだけあって重労働で家に帰ったら動けない程だった。
 9月の中旬い湯呑みを完成させるべく陶芸に勤しんだ。祖父の湯呑は少しどっしりとした形でもできれば軽く作りたいと思って色々と調べてやっと希望の形と重さができた時には涙が出た。祖母の湯呑は持ちやすく小ぶりの湯飲みができた。釉薬にも凝って祖父の湯呑みは織部おりべ、祖母の湯呑みは薄紅硝子うすべにがらすを使った。色目も上手く出たので敬介はホッとした。
 蓮は、8月の終わりからひとり部室に来てひとりろくろを挽いて皿を作っていた。
 彼は、父親の作品の片付けた時に父親が遺したノートが見つけた。それは電気窯と釉薬について詳しく書いてあった。多分、登り窯を再建中にひとりあの家で作品を作りながら、自分の作品の可能性を探っていたのだろうか、結構な期間焼いて記録していた。タカさんも登り窯ができる頃には復帰してそれからは二人三脚で頑張ってろくろを回して忙しくしていた時期にもノートの記録はある。陶芸バカの父らしいと思う。
 その中に蓮が目指す色があった、釉薬を同じ配合にしても釉薬の成分や配合が微妙に違うようで、蓮は家に窯を買って毎日のように焼き始めた。その甲斐あって蓮の欲しい釉薬の配合を見つけて、素焼きが済んだ皿に釉薬をかけた。
 釉薬の掛け方等や、釉薬の配合を変えて何種類かの皿を焼いた。先日やっと好みの色が出た時は嬉しくて、その皿をいの一番に敬介に見せた。その皿は青緑色の暈しがとても美しい物だった。
「蓮先輩、良いお皿ですね、夜空の月が浮かんでいる見たいです」
「敬介にはそう見えるんだな、それなら銘は、『おぼろ月』にしよう」
「『おぼろ月』凄く素敵な銘ですね」
「敬介も頑張ったよ。植木鉢から半年でこんな素敵な湯呑みができた。これはお前の努力の成果だと思う。この努力には誰も脱帽だと思うから、本当よく頑張ったな。色目も織部の緑が美しい」
「ありがとうございます、祖父のイメージが織部の緑なんです。上手く色が出てくれて本当に良かった」
 2人は互いの作品を見ながら、口付けする。
 文化祭は、秋晴れの中初めての陶芸部の作陶展に蓮と並んで敬介の作品も飾られた。敬介は恥ずかしかったが、敬介の祖父母も両親も見に来てくれた。そして、口々に『できないとすぐに辞めて触りもしなくなる敬介が諦めずに作る様になったんだ』と言っていた。下級生は、陶芸部が作った箸置きやコップ等の販売や、素焼きでおいてある作品に絵付け体験をする子供達への対応など忙しい時間を過ごす。そんな時に、今年の文化祭作品大賞に蓮の『おぼろ月』が受賞した。
 これは文化祭に参加している作品の全てを対象として、学長や指名された教授や職員の投票と文化祭1日目に訪れた人の投票で決まる。受賞者には名誉が、大賞受賞した部やサークルに補助金が支給される事になり結構上級生の中で目指している者も多く、受賞作品は大学の展示室に卒業まで飾られるのである。
 文化祭の片付けた後に陶芸部の打ち上げがあった。今年の陶芸部の売上は蓮の大賞のおかげで最高の売上だった。下級生はこれから、子どもたちが描いたコップや皿を本焼きする仕事が待っているが、そんな事等忘れている様にはしゃいでいた。
 大賞受賞作『おぼろ月』は文化祭の終了後に安芸島と蓮が学長室に持って行った。
「君は、陶芸家の高藤一先生の息子さんですね。僕は先生の作品が好きで、早世されたと聞いた時は悲しかったです。今回のあなたの作品は高藤先生のエッセンスが感じられて本当に嬉しく思いました。僕の妻も高藤先生のファンだったので、君の作品を見て涙が出たと言っていました。本当に良い物を見せてくれてありがとう」
 と言われた時に、蓮は父親作品を思い出してくれた学長夫妻に感謝した。
「父にはまだ及びませんが、僕は父の作品が好きです、これからも父の作品を大切にしてください、ありがとうございます」
 安芸島が学長室を出た時に、携帯を見せてくれた。そこには蓮の作品だけでなく父親の作品についても書いてあった。父親の作品は芸術性もあったが、普段に使える工夫があったと書いているのを見て涙が出てきた。
 世間が陶芸家高藤一を再認識してくれた事が嬉しかった。
 打ち上げでも蓮と敬介は隣に座っていた、蓮は全ての人から祝福された。敬介はそれを見ていて自分の事の様に嬉しかった。
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