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第一章
プロローグ
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南川下町診療所の赤ランプは嵐の中でも赤々と玄関先で光っていた。この診療所は、急な発熱や切り傷、火傷など救急車を呼ぶのは躊躇う様な急患を昼夜問わず深夜も診療を受け入れている。近隣では有名な診療所で、子育て中の親たちは勿論地域の人々頼みの杖となっていた。
今日は、天気予報で夕方より大雨の予報で午前中に患者が集中し忙しい中、子供が、側溝に足を踏み外して、2針も縫う大怪我を負って本院である安堂総合病院から応援の医師に来てもらったりと人がひっきりなしに行き来していた。午後の診療を始める夕方ごろから天候が怪しくなって町を行き交う人も少なくなり、診療所を来所する患者も6時過ぎにはいなくなった。天気予報通り7時頃には嵐の様相になり、風や雨が激しく窓を打ちつけた。夜の町は時より車の行き来はあるが、人っ子ひとり歩いてはいなかった。道路も少し川のようになり、道路を覆っていた桜の花びらを川や側溝に押し流していった。
診療所の近くにある旧南川遊郭界隈も早々に今夜は臨時休業を決定していて大門を締めて、訪れる人もなくひっそりとしていた。
診療所では、医師安堂久乃が、コーヒーを飲みながら彼女の日記浮世草子に来週末に行う南川下町診療所の100周年パーティーの詳細を書き留めていた。背筋を伸ばして書き物をしている彼女は70歳を過ぎても矍鑠として、この診療所を切り盛りする現役の医師だった。
南川下町診療所は、数年前に廃業した南川遊郭の遊女達の為に作られた。身体を張り身を削って仕事をする遊女達は、様々な病気になる可能性も高く、これまでにも沢山の遊女が亡くなっている。それを憂いた遊郭に集う名士達が、町医者で有った安堂家の祖先に依頼しこの地に診療所を建て、遊郭で暮らす人は勿論、地域の医療も担い創設から100年続いている診療所である。本院として建設された安堂総合病院は地域だけでなく救急患者を受け入れている大病院であった。
この世の人間には男女と言う性別以外にバースと言われる性徴の違うカテゴリーがある。バースは、α、β、Ωの三種類がある。支配者階級に多いとされているα、一般的で人口の大半を占めるβ、男女ともに子宮と卵巣があり子供を産める少数派のΩがいる。特に男のΩには性的欲求が高まる発情期が、1か月に一回ある。発情期を抑える薬の開発も進んで発情期は、抑制剤を飲むと軽く済むようにはなっているが、長年の人々の中にある差別意識は中々払拭されていない。その為Ωが虐げられた歴史が連綿と続いている。
今ではΩ保護法が、随分と整備され幾度の改正を経てそれなりに機能している。抑制剤も国から前面に支給され、Ωが暮らしやすくなっている。しかし、Ωを育児放棄し虐待する現状は今もある。実際Ωの就職率は低く、教育の水準も他のバースより低い、それら根本的な対策が中々解決されていない現状では大きな問題となっている。
旧遊郭では疫病の感染経路になると指摘する人も多く、その対策として旧遊郭界隈で働くもの全てが月一回定期検診を欠かさず受けて、遊郭が疫病の発生源とならぬようにアピールしている。しかし、アンダーグランドでは春を売る者と買う者が存在している。その構造がある限り問題は多く残されている。誰でも相談できる駆け込み診療所として南川下町診療所があった。
久乃は、安堂家の現当主であり来週末の100周年記念パーティーで娘夫婦に当主の座を譲る。その後はここ南川下町診療所の医師も卒業して悠々自適に暮らそうと思っている。浮世草子と名付けられた日記は久乃が、南川下町診療所に初めて診療所医院長として来て以来この歓楽街内外でおきた事件、出会った遊女達と遊郭に集う男達との愛の話を連綿と書き留めた記録であった。そこには世間的には暴露本の類だと思われる内容が書かれているが、これを外に出すなどはできない。医者の守秘義務に反するし、これによって不幸になる者が出てはいけないと固く思っているので、自分の死期が近づいたら燃やしてしまうと決めている。もし自分ができずともこの診療所の次の医院長に頼んでいる。
久乃は、浮世草子を閉じて、窓にあたる風や雨や花びらを見ながら、好きなジャズを聴いていると思い出すのは、咲山紅との出会いであった。
今日は、天気予報で夕方より大雨の予報で午前中に患者が集中し忙しい中、子供が、側溝に足を踏み外して、2針も縫う大怪我を負って本院である安堂総合病院から応援の医師に来てもらったりと人がひっきりなしに行き来していた。午後の診療を始める夕方ごろから天候が怪しくなって町を行き交う人も少なくなり、診療所を来所する患者も6時過ぎにはいなくなった。天気予報通り7時頃には嵐の様相になり、風や雨が激しく窓を打ちつけた。夜の町は時より車の行き来はあるが、人っ子ひとり歩いてはいなかった。道路も少し川のようになり、道路を覆っていた桜の花びらを川や側溝に押し流していった。
診療所の近くにある旧南川遊郭界隈も早々に今夜は臨時休業を決定していて大門を締めて、訪れる人もなくひっそりとしていた。
診療所では、医師安堂久乃が、コーヒーを飲みながら彼女の日記浮世草子に来週末に行う南川下町診療所の100周年パーティーの詳細を書き留めていた。背筋を伸ばして書き物をしている彼女は70歳を過ぎても矍鑠として、この診療所を切り盛りする現役の医師だった。
南川下町診療所は、数年前に廃業した南川遊郭の遊女達の為に作られた。身体を張り身を削って仕事をする遊女達は、様々な病気になる可能性も高く、これまでにも沢山の遊女が亡くなっている。それを憂いた遊郭に集う名士達が、町医者で有った安堂家の祖先に依頼しこの地に診療所を建て、遊郭で暮らす人は勿論、地域の医療も担い創設から100年続いている診療所である。本院として建設された安堂総合病院は地域だけでなく救急患者を受け入れている大病院であった。
この世の人間には男女と言う性別以外にバースと言われる性徴の違うカテゴリーがある。バースは、α、β、Ωの三種類がある。支配者階級に多いとされているα、一般的で人口の大半を占めるβ、男女ともに子宮と卵巣があり子供を産める少数派のΩがいる。特に男のΩには性的欲求が高まる発情期が、1か月に一回ある。発情期を抑える薬の開発も進んで発情期は、抑制剤を飲むと軽く済むようにはなっているが、長年の人々の中にある差別意識は中々払拭されていない。その為Ωが虐げられた歴史が連綿と続いている。
今ではΩ保護法が、随分と整備され幾度の改正を経てそれなりに機能している。抑制剤も国から前面に支給され、Ωが暮らしやすくなっている。しかし、Ωを育児放棄し虐待する現状は今もある。実際Ωの就職率は低く、教育の水準も他のバースより低い、それら根本的な対策が中々解決されていない現状では大きな問題となっている。
旧遊郭では疫病の感染経路になると指摘する人も多く、その対策として旧遊郭界隈で働くもの全てが月一回定期検診を欠かさず受けて、遊郭が疫病の発生源とならぬようにアピールしている。しかし、アンダーグランドでは春を売る者と買う者が存在している。その構造がある限り問題は多く残されている。誰でも相談できる駆け込み診療所として南川下町診療所があった。
久乃は、安堂家の現当主であり来週末の100周年記念パーティーで娘夫婦に当主の座を譲る。その後はここ南川下町診療所の医師も卒業して悠々自適に暮らそうと思っている。浮世草子と名付けられた日記は久乃が、南川下町診療所に初めて診療所医院長として来て以来この歓楽街内外でおきた事件、出会った遊女達と遊郭に集う男達との愛の話を連綿と書き留めた記録であった。そこには世間的には暴露本の類だと思われる内容が書かれているが、これを外に出すなどはできない。医者の守秘義務に反するし、これによって不幸になる者が出てはいけないと固く思っているので、自分の死期が近づいたら燃やしてしまうと決めている。もし自分ができずともこの診療所の次の医院長に頼んでいる。
久乃は、浮世草子を閉じて、窓にあたる風や雨や花びらを見ながら、好きなジャズを聴いていると思い出すのは、咲山紅との出会いであった。
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